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消費税10%は延期も

2014年08月19日 | 経済

 もともと奇妙な仕掛け

                  2014年8月19日

 

 消費税を2015年10月に、今の8%からさらに10%にまで引き上げるかどうか、安倍政権は年末に決める予定にしています。景気、経済情勢を慎重に見極めて判断することになっており、政権はまだ態度を決めていません。恐らく安倍政権は10%への引き上げを延期するのではないでしょうか。断っておきますと、日本の財政、経済のためには、政治的リスクがあっても予定通り実施すべきです。安倍政権は果たしてそうした判断に踏み切れるか。できないだろう、しばらく判断を回避するのではないかというのがわたしの予想です。

 

 その先はどうなるのでしょうか。日本の財政規律は緩み、社会保障の財源も不足しています。延期しても、新たな実施時期、決定時期を明示しないと、日本の信用が国際市場で落ちます。選挙や政局への思惑も絡み、安倍政権にとっては極めて難しい判断で、断定的に予測することは無理でしょう。それを恐れずにいうなら、少なくとも、この4月の引き上げから2年程度の間隔をあけるのではないかと、思います。

 

 消費税10%の際には、生活必需品を対象にした軽減税率の導入が不可避です。政権与党の内部でも、自公が対立し、とくに党税調の野田会長が強く導入に反対しています。導入そのものより、対象品目を年末までに決めるにはテンポが遅すぎます。世論調査によりますと、消費税の再引き上げに7,8割の国民が反対し、逆に軽減税率の導入に7,8割が賛成しています。軽減税率なしの増税は政治的にもたないでしょう。将来、消費税を15%以上に上げていくには、軽減税率は避けてとおれません。にもかかわらす、安倍政権には、軽減税率の導入決定を急ぐ気配が感じられません。

 

 さらに事態を複雑にしているのは、朝日新聞が従軍慰安婦の問題で世論の強い批判を浴びていることです。大々的に検証報道をして、過去の多数の記事を取り消すと表明したものの、誤報の数々が従軍慰安婦の問題で誤った対日イメージ(特に日本軍による強制連行)を国際社会に与え、日韓関係をこじらせていることへの謝罪、お詫びがいまだにないのです。 

 

 無責任な新聞を軽減税率の対象にしてはならない、と自民党は息巻いていることでしょう。あまりにも激しい反原発、こじつけのような反戦争・反集団的自衛権キャンペーンをしている新聞はほかにも毎日、東京新聞などがあります。新聞は公器、公共財、必需品とはいえないと、自民党は思っているでしょうね。新聞はみずから軽減税率の対象から脱落する道を選んでいるのです。

 

 ここで本題に戻ります。わたしは以前から、消費増税を「14年の年末に決める。実施時期は15年10月」という政府方針がいかに奇妙であるか、申しあげてきました。今もその思いは変わりません。その後の景気情勢を含め、要点を書きましょう。

 

・14年4月に8%に引き上げてから間もない14年12月に、次の引き上げをすべきかどうかを判断するのは難しい。実際に、4-6月期に消費税上げの景気の反動減(実質成長率が6.8%減)が予想以上で、7-9月はその反動増がありうるものの、中期的な見通しをたてにくい。海外景気の悪化、対ロ経済制裁による貿易の停滞、アベノミクス効果の中だるみで、来年以降の景気見通しをつけにくくなった。次の引き上げには2年程度の間隔をあけることが望ましい。

 

・年度途中の15年10月の引き上げはいかにも変則である。予算編成からいうと、常道を逸している。消費増税(歳入増)およびそれを織り込んだ社会保障予算(歳出増)を含む予算編成をおこなった後、年度途中に景気情勢が悪化し、再引き上げを延期することになった場合、予算が空中分解する。再増税するなら、年度初めの4月実施(前年末の予算編成時の決定)が常識である。政権ははじめから10月実施を先送りするハラではなかったかと、疑いたくなる。

 

・変則的な決定をしたのは、選挙、政局のヤマを避けること狙いだったと思われる。15年春の地方統一選、16年夏の参院選を避け、その谷間にあたる15年10月の再増税にしたのだろう。再引き上げを15年10月ではなく、16年4月以降(つまり半年延期)にずらす。決定時期は14年12月ではなく、15年12月(つまり1年延期)とするのはどうか。そのほうが景気、経済情勢の見極めをつけやすい。政局、選挙への影響も時間をかけて見極められる。低下気味になってきた政権支持率の先行きをもう少し見守りたいと、安倍首相は思っているのではないか。

 

 安倍政権の予想が狂ってきたのは、消費税引き上げと、2%というインフレ目標達成の同時進行が裏目にでているからでは、ないでしょうか。デフレ脱却のための異次元の金融緩和で、株や土地などの資産インフレはおきたものの、資産を持っていない人たちはその恩恵を受けていません。多くの人たちは「増税とともに物価があがり、所得が目減りした。それが消費を抑えている」と感じているでしょうね。それと、対ロシア経済制裁、イラク情勢の悪化などで、国際情勢が経済のマイナス要因になってきました。

 

 日経新聞の社説は「成長率の反動減後の復元力が試される」と題して、「消費税10%へ、決断できる環境つくりを」と主張しました。12月の決定までに、そんな知恵がでてきますかね。読売は「消費回復の後押しが必要だ」と書きました。いづれも消費税の再引き上げをあまり急ぐなというのが本音でしょうか。

 

 甘利経済相はじめ、政権内部では「ぎりぎりまで消費税の再引き上げに耐えられるかどうか、慎重に見極める」との構えです。目先の見通しならともかく、2、3年先までの見通しを、今年の12月までぎりぎり待たないと、つけられないというのは変ですよね。地政学的リスクを含めた海外情勢、海外経済は悪化するほうに向かっているように思われます。12月の再引き上げ決定は難しいとみるのが正解ではないでしょうか。

 

 

 

 



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