露出度のアップを優先する政治
2016年8月5日
安倍政権は28兆円の経済対策「未来への投資」を決め、その翌日、第三次改造内閣を発足させました。経済対策の中身、改造内閣の陣容を眺めていますと、ネット対策を重視する政治がまた一段と進んだように思います。与党の座を死守しようとして、ネット時代を生き抜くノウハウばかりに気をとられていると、有権者に結局、あきられます。
「ああ、またやったね」と直感したのは、稲田朋美氏を防衛相に就けたことです。ポスト安倍を巡る争いは「稲田、岸田、石破の3氏」とあり、さらに「稲田氏は極めて有力な首相候補だ。安倍首相が2月にそう発言している」(読売新聞)とあります。「もう今、有力な首相候補」と信じる人は少ないでしょう。それでも「首相候補」にするのは、対抗馬を増やし、さらに女性を絡ませたほうが、テレビ、ネットが喜んで取り上げることを官邸が知ってのことでしょう。
小渕優子経産相が政治資金規正法違反で辞任した時(14年10月)、「将来の首相候補だった」と、読売新聞が関連記事の中でなんと3回、翌日の社説でも1回、そう書きました。こんなありえない話は、官邸筋に頼まれたのでしょう。書いた記事の信頼度より、官邸への義理立てを優先させたのでしょう。小渕氏には「自民党幹事長説」も流され、官邸の狙いは政治情報に女性や無党派層の視聴者を引き付けることだったのでしょう。
自民党の情報戦略の詳細を出版
政治記事にはありがちですから怒っても無駄です。それよりも、私が「そこまで書いてしまっていいの」と驚いたのは、自民党の情報参謀、選挙参謀を4年間、務めたIT企業のトップによる新著「情報参謀 これが新時代の情報戦だ」(小口日出彦著、講談社新書)を読んだ時です。自民党の情報戦略、ネット戦略が詳細に紹介されており、安倍政権の政策の打ち出し方、選挙対策の仕掛けがかなり分かってくるからです。
自民党が野党に転落(09年夏、総選挙)してから、政権を奪還(13年夏、参院選)するまで、小出氏は自民党の戦略的な情報分析活動に参画し、自民党の復権に貢献したようですね。ネット時代はどういう時代で、どのような情報戦略を立てているのかを理解するのに役立ちます。
なぜそんなことができるかですって。今や社会のあらゆる情報がテレビ、ネット(パソコン、スマートフォンなど)を通じて流され、それをウオッチしていると、「人々の興味がどのように拡散し、やがて消えていくのかが見えてくる」、「ネット検索のキーワードの傾向、ウエッブサイトのアクセス量からも人々の発想、行動が浮き彫りになる」と、指摘します。
キーワード政治の背景が見える
そのために、テレビ報道(番組、ドラマ、バラエティ、CM)、ネット上のブログ、2チャンネル、その他の掲示板の書きこみを24時間、365日チェック、記録する会社があり、集積された巨大なデータ(メタデータ)を独特の数理モデルで解析するのだそうです。
ネット時代はとにかく露出した件数が多い方ほど、勝ちにつながる。見出しに取った冒頭の「女性」というのは、特に政治に女性が絡んだほうが物語に仕立てやすいからでしょう。「キーワード」というのは、とにかく「キーワード」を取りやすいニュースを数多く発信したほうが勝ちということです。
安倍政権は日銀と連携し、「デフレ脱却へ異次元金融緩和。2年で2%の物価上昇」を打ち出し、見事に失敗すると、「国民総生産600兆円目標」を持ち出し、それも怪しくなると、突然、「1億総活躍社会」というスローガンを掲げました。今度の改造内閣では「働き方改革」まで登場させる始末です。「3本の矢」はすでに「新3本の矢」にすり替えました。
とにかく「キーワード」をやたらと繰り出し、ネット社会での露出を維持する作戦でしょう。政策の中身、是非よりもネット社会から注目されるかどうかが経済政策の軸になっているようですね。ですから二番煎じ、三番煎じが多い。政策の事後検証にも関心を示さないまま、看板だけ書き換える。ネット政治の悪いところです。
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