新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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デザイン盗用の陰に五輪ビジネス

2015年09月04日 | 社会

 

 人間の祭典が販売促進の祭典に

2015年9月4日

 

 東京五輪エンブレムのが「ひょっとしたら盗作かな」という初期の段階で、油絵を趣味にしている友人が「これは工業デザインのタイプ。人間味に欠ける。採用してはいけない」という感想を寄せてきました。「スポーツ界の最高の祭典なのに、それに値する人間の持つ底力が表現されていない」と。


 今になって思うと、リオデジャネイロ(16年)のエンブレムは3人の人が手と足でつながっています。北京五輪は躍動する人と、北京の「京」の組み合わせです。バンクーバーは、先住民族イヌイットの石組みをモチーフにしています。人間の営みを感じさせますね。


主従が逆転したか


 五輪は人間の祭典であって、工業製品や食品・飲料の祭典ではないはずです。モノが飽和状態になり、企業が激烈な販売競争に追い込まれるにつれ、どちらが主か従か分らなくなりました。五輪は企業の販売競争の競技場になってしまったのでしょうか。騒ぎはそれを暗示しています。


 撤回されたエンブレムは、友人が「工業デザインだ」と見抜いたように、東京の「T」を軸にし、あっけない図柄でした。これは何かを象徴しています。図柄は製品、サービスの販売用のロゴ(会社名、商品名の文字図案化)のようですね。始めから狙いをここにおいていたのでしょうか。あるいは、この盗作男が大手広告会社(博報堂)出身であること示すように、この手のデザインを日常的に作成していたのでしょうか。まねされやすい、まねしやすい図案です。


審査員も広告会社とのつながり


 広告会社は電通を筆頭に、モノを売る手助けを仕事にしています。社内にも社員のデザイナー、社外にはOB、その他のデザイナーの人脈を抱え、CMや広告の作成に使っています。デザイン業界の多数の賞の審査員も、有力者になればなるほど、広告会社とのつながり深いでしょうね。


 今回の騒ぎで気になったのは、東京五輪は5年先の2020年なのに、早々にエンブレムを組み込んだテレビCM,新聞広告、看板、ポスターなどでの使用を始めていたことです。なんと気の早いことか、本番は5年先ですよ。腰を落ち着けていれば、エンブレム撤回で「損害発生」とはならなかったでしょう。スポンサー企業以上に、あわてたのは、広告会社でしょうね。東京五輪は最大手の電通が深入りしていますから、社内は動揺しているでしょう。


5年も販促に使うのか


 企業にとってみれば、五輪は販売拡張に効果があるし、使用許可がもらえる巨額の協賛金を払っているので、少しでも早く使い始めたいということでしょうか。使用期間が長くなれば、協賛金は跳ね上がる。跳ね上がっても企業が群がってくるので、五輪委員会は強気にでる。そこに大手広告会社が介在する。サッカーW杯、世界陸上競技がそうであるように、広告会社は組織に入り込み、自分にも利益があがるように仕向けています。


 協賛金は最高ランクのスポンサーで数百億円(トヨタ、パナソニックなど)、次のランクが150億円(ビール、カメラ、銀行など)といいます。広告会社にとって、スポーツ・ビジネスは、巨額の利益を生む金のタマゴです。協賛金、CM,その他の広告から2割とか3割とかの手数料を得ているはずです。


不正が次々に発覚した謎


 東京五輪の直接予算(放映権料、スポンサー協賛金、チケット収入など)は8000億円以上、間接予算(交通や観光関連、飲食などを加算)は3兆円です。森・組織委員会会長(元首相)が「3兆円だぞ」と大声をあげたのは、新国立競技場の予算膨張・撤回の責任を追及され、「3兆円と比べれば、大した金額ではない」という意味を示唆したかったのでしょう。


 とにかく主だったスポーツ・ビジネスは電通が独占し、陰の主役です。それがこれまでなかったような失態です。五輪ブームで自信をつけすぎた組織委員会を操れず、暴走を止められなかったのか、電通の側に油断があったのか。あるいは問題のデザイナーが博報堂出身なので、「この際」と思ったのかどうか分りません。とにかく、これでもかこれでもかと、次々に盗作、模倣、転用の事例が発覚したことも不思議なことでした。





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