金融緩和の「軍縮」」こそ必要
2016年2月10日
黒田日銀総裁が自信満々で決めた初のマイナス金利の導入は、散々な結果を招いています。過剰な金融緩和政策を修正していかなければならないのに、総裁は逆走してしまったのです。事態が悪化を続けると、アベノミクスの失敗の序章につながりかねません。
今月末に中国でG20財務相・中央銀行総裁会議が開かれます。日経の社説は「成長の持続と市場安定に向けた協調を探るときだ」(10日)と、ありきたりの主張をしております。マネー市場が動揺するたびに、追加緩和をしてきた金融政策のあり方こそ再検討すべき時なのです。
追加緩和をすると、しばらくマネー市場は落ち着くかもしれません。次の動揺が起きる時は、市場は以前にまして、マネーでじゃぶじゃぶになっていますから、動揺の振幅が大きくなります。そこで焦って追加緩和することは、将来、爆発するマグマをため込むようものです。
緩和競争の連鎖が怖い
欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利を導入したのを見て、日銀も初のマイナス金利にうって出ました。それに刺激されて欧州はマイナス金利の追加を示唆しています。米国は金利引き上げにによる金融正常化にブレーキをかけるようですね。今回の動揺の震源地となった中国は、人民元の切り下げに向う構えです。
マネー市場が一体化し、どこかの国の金利引き下げ、為替切り下げが次々に各国に次々に飛び火してしまうのです。そのたびに世界経済の構造は脆弱になっていきます。G20を北京で開いても、「それどころではない。当面の危機回避が優先する」という空気で支配されるでしょう。本当に必要な国際協調とは、緩和競争の弊害に目覚めることでしょう。
金融緩和競争は、リーマンショックによる国際金融危機の打開のために加速しました。緊急危機のときに限れば、異例で大規模な緩和策は一時的には是認されるでしょう。問題は膨張した緩和が一時的な措置に終わらないことです。正常化しようとすると、マネー市場が動揺しまうので、金融政策当局は正常化を逡巡します。
「追加緩和」を示唆するのは軽率
今回の日銀の決定に際し、黒田総裁は「2%の物価安定目標のために、必要な時点まで、マイナス金利付き量的・質的緩和を維持する」と、おっしゃいました。さらによせばいいのに、「必要な場合には、ちゅうちょなく、追加的な緩和を講じる」と断言しました。
これまでの長期国債の大量購入を軸とする緩和政策には効果が乏しく、しかも残された手段が少なくなっていると、見透かされています。そこで裏をかつもりで、マイナス金利に踏み切りました。他のことは黙っていればいいのに、「ちゅうちょなく」なんていうものだから、市場の動揺が大きくなり、しかも緩和競争を加速する結果を招いています。
そもそも黒田総裁は、インフレ期待という心理学、貨幣数量説(通貨供給の増大は物価を押し上げる)の信奉者です。2%の物価目標を2年で達成すると断言し、それが無理なことがわかると、目標を何度も先送りし、責任を取ろうとはしません。一種の空想的金融政策です。
一瞬で消えた黒田効果
マイナス金利の適用対象はごく一部分という当初の説明は、事態の推移とまったく異なってきました。預金金利の全般が限りなくゼロまで低下し、長期金利はマイナスです。株価の上昇、円安への反転も一瞬で終わり、株価は1万6000円割れ、為替は115円割れ(10日)です。
デフレ脱却のためと説明していた異次元緩和の真意が円安誘導、株高誘導にあったことが明らかになってしまっております。金融政策の「目的外使用」でしょうか。黒田総裁は講演で、「日銀の政策は、中央銀行の歴史の中で最も強力な枠組みだ」と語りました。そのような不遜な態度をとった中央銀行総裁はこれまでいなかったでしょう。余計は発言をしたものです。
日本商工会議所の会頭が「マイナス金利の効果が非常に分りにくく、市場が動揺した。政策狙いや意図を明快に説明してほしい」と、批判しました。財界首脳の発言としては、珍しく辛らつです。黒田総裁の空想的金融政策への不満の表明ですね。
金融政策は緊急時対応に限る
現金で資産を保有しようとする一般庶民が増えるかもしれません。通貨危機、金融危機のような緊急時の対応策ならともかく、何年かかるかわからないデフレ脱却、通貨安競争のためのマイナス金利は弊害がどこまで広がるか分りません。
世界経済は屈折点にきており、長期的な低成長期にむかっています。これを金融政策で転換させようとすること自体が空想的です。
英フィナンシャルタイムズ紙が「次の不況に備えがあるのか。緩和の余地がなくなっている状況で、次の不況に突入したらどうする」(日経、7日)と警告しました。財政赤字が最悪期に入っている国が多く、このうえ金融政策まで手詰まり状態に入ったらどうするのでしょう。打つ手は品切れです。黒田さん、安倍さん、まず停戦して、金融軍縮を構想する時ですよ。
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