報道をコントロールしたい政治的思惑
2022年12月6日
NHKの経営委員会が日銀元理事の稲葉延雄氏(72)を次期会長に任命(23年1月就任)することを決めました。企業経営者だった外部人材がこれで6人連続で会長に就任するのは異常です。政権側も認めざるをえない内部人材が育っていないとは情けない。
ビール、鉄道、商社、銀行、そして今回は日銀からとなり、いずれもジャーナリズムとは無縁の人物です。中には就任挨拶で「政府が右というものをNHKが左というわけにはいかない」、「従軍慰安婦は戦時下には他国にも存在した」と発言して、視聴者を唖然とさせた人物もいました。
1989年から2008年までは、生え抜きの島、川口、海老沢、橋本氏が4代続けて会長職に座りました。出身は報道局系、文化・芸能系、技術系と多様ではあっても「ジャーナリズム精神を持ち、公共放送のあり方を知っている人物が望ましい」というのが正論でしょう。
政治部系の会長には「政界との関係が深く、政権の意向を忖度できる」、「NHKの予算を国会で成立させるのに好都合だ」などの理由で、念願の会長になれたという人います。NHKの生え抜きだからといって「ジャーナリズム精神を体現している」とは限らないことは確かです。
英仏独など海外の公共放送のトップはジャーナリスト、ニュース部門のプロデューサー、放送会社役員などからの人たちが多いようです。それに比べて政治の思惑が色濃いNHKのトップ人事は異質です。
新会長になる稲葉氏は、日銀では、金融政策を担当する企画部門の中枢を歩んだエリートで企画担当理事を務め、日銀総裁候補の一人と言われた時期もありました。人物面では、適格であるとの評価でしょう。
日銀の執行部として、アベノミクスの異次元金融緩和を支持、政権に対しても柔軟な姿勢をとる人物なのでしょう。国会対策でもまれ、取材される側としてもジャーナリズムとの接触がありました。今度はジャーナリズムの側に立つことになり、こうした経験は生きることは生きる。
6人連続で経済人が会長になるからといって、NHK会長のなりてを探すのは容易ではありません。稲葉氏も望んで会長就任を承諾したとは思えません。また、経営委員会が決めること(放送法)になっています。実際は、「岸田首相が水面下で接触して口説きおとした」(読売新聞)とあります。そうでもしないと決まらない。
「報道に対して世間の批判にさらされる」、「政権、自民党からは政治的圧力をかけられる」、「NHK内部からは離反される」などで、会長候補に名があがった財界、経済人は多くが逃げ回ったことでしょう。名誉職としてもステータスが高かった時期は終わっています。
放送法には「不偏不党、政治的公平、放送による自由の確保、多くの角度からの報道」などがうたわれています。実際は、報道される側(政権)が報道機関のトップを決めたというおかしさがあります。本来はジャーナリズムで生きてきた生え抜トップになるのが好ましい。
ジャーナリズムを体現し、経営も分かり、政権側がその人物なら認めざるをえないという内部人材が育っていない。そんなことでは、今後も外部からの登用が続く。稲葉氏には、生え抜きを選び、将来のトップに育てていく任務もあるように思います。
「安倍元首相の銃撃事件、旧統一教会を巡る報道は公正さを欠く」という批判が政権・自民党には強いようです。世論調査などでみる視聴者の思いとは逆です。
稲葉氏は「多角的な視点を好み、上司はや部下、取材する記者との激論もいとわないタイプだ」(朝日新聞)といいます。そうした現役時代の延長のつもりで、内部に対するガバナンス(統治)を維持し、政治的圧力があってもそれをはねつける姿勢を貫くよう期待します。
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