政治判断の前に疫学的知見が必要
21年4月年29日
新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が東京五輪開催について「感染のレベルや医療の逼迫状況を踏まえて議論をやるべき時期にきている」と、国会で答弁しました。「こんな重要なことを今頃になっていうとは、どうなっているのか」と、思いました。
それよりも驚いたのは、政府から意見を求められたかどうか問われ、「個人的に私に2,3度あり、つい最近もあった。分科会への正式の依頼はない」と述べたことです。「個人的」というのは、政府が「分科会の総意ではない非公式な見解」にしておきたからでしょう。
政府と国民が情報を共有し、五輪開催への理解を国民に求める。それが民主政治の基本です。五輪の開催反対が世論の7、8割を占めています。だからこそ専門家の判断を共有することが必要です。
菅首相は「IOC(国際オリンピック委員会が開催することをすでに決めている。五輪開催はIOCが権限を持っている」と、答弁しています。開催地は日本ですから「コロナの感染状況からみて開催は難しい」と、政府やJOCがいえば、IOCも無視できません。
菅首相の発言の軽さにあきれます。東京五輪を総選挙対策にどう利用するかで頭が一杯なのでしょう。国内で反対意見が強いだけに「IOCが決めたこと」と、逃げを打つつもりなのでしょうか。
感染症対策部会の中に、東京五輪特別作業チームを設置し、政治的思惑を排除して、医学的、疫学的知見、医療現場への影響分析(医療逼迫)に基づき、見解を公式にまとめるべきです。
海外から1万数千人が来日し、選手団のために医師、看護士を何千人も割いて、日本人の治療、検査、感染予防に影響はでないのでしょうか。ワクチン接種も大幅に遅れているだけに心配です。
尾身会長は「個人的に聞かれた」などといわず、「こう申し上げた」と、なぜ言わないのでしょうか。開催に影響を与える微妙な懸念を表明したと想像します。だから助言の内容を明らかしたくない。
だからこそ、公式の特別チームを設け、その見解には、政府もJOCも従う。だれがどういう判断で五輪開催を最終的に決めたかを国民に示す義務が政府側にはあります。
野党は、3度目の非常事態宣言に追い込まれた責任を首相に国会で問い、失点を稼ごうとしています。それよりも、五輪特別チームの設置を強く要請することのほうが建設的です。不思議な野党です。
IOCのバッハ会長の言動もおかしい。「WHOの見解を聞く」といっていたのに、「安心安全の形で大会を開催していく」としか語らない。恐らく放映権収入欲しさの思いが先行しているのでしょう。
日本は第3位の分担金比率(8・5%)で、金額は3年間で約240億円です。理事もだしているでしょうから、五輪開催の是非について、見解をただせばいいのに、それもしていない。開催を強行するなら、世論の支持を得る努力をすべきなのに、怠っています。
共同、時事通信の世論調査(4月)では「中止が40%程度、再延期が30%程度」となっています。首を傾げるのは、読売の調査(3月)です。「観客をいれた形での開催の賛否は」に対し、「賛成45%、反対48%」です。
これでは開催を前提にした調査で、フェアではありません。観客を入れるか否かの前に、開催そのものに対する是非を問うべきです。
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