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消費税10%をめぐる観測気球

2014年09月23日 | 経済

  実施でも延期でもリスク

                    2014年9月23日

 

 消費税の10%への引き上げか延期かをめぐり、あちこちで観測気球が上がり始めています。税制、特に消費税は政治経済学の微妙な力学で決まります。決定まであと2ヶ月ちょっとです。安倍首相がどうしたいのか、その腹は決まっているでしょう。うっかりしゃべると、大騒ぎなります。予定通りに実施しても延期してもリスクがともないます。そこで周辺で上がる観測気球を黙認し、意見が出尽くすのを待っているのでしょう。

 

 安倍首相の本音は、周辺から漏れ伝わっています。「日本はデフレ脱却を最優先しなければならない」、「1年半で消費税を2回も上げた先進国はない」といったあたりでしょうか。これが本心だとすると、2015年10月の引き上げは延期です。政権維持を最優先するのも、政治家の本能であり、首相は少しでも延期したいのでしょう。

 

 「2015年に10%にする。2014年12月までに決める。それをその時の経済状況をみて判断する」の民主、自民、公明の3党合意は、民主党政権下の合意であり、予定通り実施すれば、民主党の不利になるとの思惑が自民側にあったと思います。それが自分の政権の時にお鉢が回ってきた、さらに自分の政権の時の合意ではないこともあり、絶対に守るべき約束だとは、安倍首相は思っていないでしょう。

 菅官房長官は「12月8日に発表される経済成長率(GDP)改定値をみて判断する」と、最近、述べました。速報値でなく、改定値(確定値)といったのが発言のミソです。そう大差は恐らくなく、速報値で十分なのに、そういったのは、判断を少しでも遅らせたいのと、慎重を期したという印象を与えたいためでしょうね。

 

 これに対して、谷垣自民党幹事長は「10%への引き上げは法律で決まっている。ただし、何が何でも予定通り増税すべきだというわけではない」と、発言しました。麻生財務相は「予定通りやらないと、国際社会における信用が落ちる。国債が売り浴びせられたりすると、影響は大きい」と語り、財政再建最優先の財務省の声を代弁しています。

 

 オーソドックスなのは、当然、黒田日銀総裁で、「先送りすると、財政健全化の意思が市場から疑念を持たれる。そうなると政府、日銀としても対応のしようがない。増税による経済の落ち込みは財政、金融政策で対応できる」と強調しました。経済学からすると、そうなのでしょう。政治学からすると、どうでしょうか。冒頭に申しあげました首相の本音が政治学です。

 

 実際の税制は政治経済学で決まります。予定通りの実施は困難と、政治学が判断したあとは、経済学の出番です。延期するといっても、何年も先送りではなく、たとえば「判断は2015年末の予算編成期に1年ずらす。10%引き上げの実施時期は2016年4月とし、6ヶ月だけ延期し、そのことを明示する」というのはどうでしょうか。今年の12月にしようと思っていた判断を一年後ずらすことの意味は大きいでしょう。その間に、経済状況、政治状況を落ち着いて見極めるのです。

 

 絶対に予定通り実施なのか、6か月の延期か、その違いだけで、国債市場における日本の信用が暴落するか否かの状況に追い込まれるとは思えません。6か月の延期が1年、1年半と長くなると、日本のリスクは増します。予定通りでも消費や景気の落ち込みのリスク、延期でも財政赤字拡大やマネー市場の波乱のリスク、いづれにしてもリスクが伴いますね。

 

 官邸、財務省、日銀はいずれの場合にも生じるであろうリスクを想定し、財政、金融面でどう備えるかの検討に入っていることと思いますよ。実施か延期かの二者択一の検討ではなく、総合的な判断と準備をすでに始めていることでしょう。

 

 以前に書いたブログで、消費増税の必要条件は、軽減税率の導入だと、申し上げました。その後、軽減税率の導入が急テンポで検討されている気配はあるのでしょうか。軽減税率の強硬な支持派であった新聞界は、朝日新聞の慰安婦報道の誤報・捏造、原発事故報道の誤報・捏造ですっかり信用を落としています。「新聞は民主主義社会にとって不可欠な公共財」が揺らぎ、軽減税率適用の議論を進めにくくなっていますね。こんなこともあり、新聞界はどちらかといえば、ほとぼりが冷めるのを待とう、つまり消費増税の延期派になっているような気がします。

 

 

 

 

 

 

 



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