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全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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将棋のタイトル戦は五冠とか八冠とかなぜ多いのか

2022年02月15日 | 文化

 

全盛期の新聞が競って創設した歴史

2022年2月15日

 藤井聡太竜王が王将戦で4連勝し、史上最年少の19歳6か月で5冠を達成しました。「藤井時代、比類なき強さ」「八冠が視野に」「全タイトル制覇への夢が膨らむ」と、新聞は絶賛しています。

 

 人工知能(AI)を駆使し、「AI超え」という妙手を繰り出す将棋の天才です。経済紙の日経までが「多くの棋士が数十万円~百数十万円の高性能のパソコンを購入し、研究に励む。ただ、AIを導入したからといって、全ての棋士が強くなるわけではない」(15日)と、連載を始めました。

 

 藤井聡太さんの強さに驚嘆する一方で、私の周辺では「なぜ将棋界には五冠も八冠もあるのだろう。囲碁も七冠と多い。多すぎるのではないか」という素朴な疑問を持つ人が少なくありません。

 

 競馬の三冠馬は、皐月賞、日本ダービー、菊花賞を独占した馬です。野球の三冠王は本塁打、打点、打率部門のトップを独占した打者のことですから、将棋、囲碁のタイトルの多さは不思議に思います。

 

 プロテニスの場合はどうでしょうか。優勝賞金は1位ウインブルドン(3億円)、2位全米オープン(2・7億円)、3位全豪オープン(2・6億円)、4位全豪オープン(2・4億円)で、この4大タイトルは別格の扱いになっています。将棋のような「8冠」は存在しません。

 

 歴史を振り返ってみれば、日本将棋連盟とともに、新聞社が競って主催者になり、タイトル戦を創設してきました。全国紙に加え、ブロック紙連合、通信社も主催者に名を連ねています。1950年代から70年代ころまでに、創設されています。新聞の伸び盛りの時期です。囲碁も同じ構図です。

 

 日本の伝統文化を後押しするという大義名分のほかに、主催者となり、棋譜を紙面に載せてファンを読者として引き付けるという狙いがありました。通信社(共同通信)も主催しているのは、ニュースを配信する地方紙の読者対策のためです。

 

 新聞界では、タイトル戦の奪い合いも凄まじく、賞金を積み上げて、タイトル戦を横取りすることもあったようです。横取りされた新聞社の担当幹部が更迭されたと思ったら、その新聞社は新たなタイトル戦の創設にこぎつけました。賞金が入ってくる将棋連盟は大歓迎です。

 

 その賞金額をチェックしてみますと、ピンキリです。最高額は竜王戦(読売新聞)の4300万円(敗者にも1600万円)、次いで名人戦(朝日、毎日新聞)の1200万円(敗者は300万円)です。そのほかに、竜王戦では対局料が1000万円程度、支払われ、総費用は億円単位でしょう。

 

 藤井さんが渡辺明名人から奪取してした王将戦(スポニチ、毎日新聞)の賞金を調べてみて、びっくりしました。はわずか300万円です。竜王戦の10分の1にも及びません。棋聖戦(産経新聞)の場合も300万円です。

 

 優勝金額の多寡で、タイトル戦の価値が決まるのではないにしても、「頂点は竜王戦、名人戦の2つとし、残りの6つは一般戦とする」のがいい。まあ今からそのような調整はできませんから、「8冠王」が誕生するのも時間の問題なのでしょう。

 

 読者対策とはいえ、新聞界が成長盛りの時代に生まれたタイトル戦は、新離れが進み、経営的に苦しくなると、今後どうなるのでしょうか。若い世代は新聞を定期購読をしませんし、棋譜は必要ならネットで見るでしょうから読者対策にはなりません。

 

 藤井さんのおかげで、将棋ブームが巻き起こり、熱狂的なファンが戻り、一時的にせよ、新聞界ほっとしているに違いありません。

 

 

 

 

 

 

 


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