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朝日新聞OBの主導で珍しく安倍政権を称賛する検証本

2022年02月19日 | 政治

 

長期政権維持の政治手法に焦点

2022年2月19日

 朝日新聞の元主筆が主宰するシンクタンクが「検証安倍政権/保守とリアリズムの政治」と題する本(文春新書)を出版しま。400㌻の分厚い検証本で、安倍氏をはじめ54人の政治家、官僚にヒアリングをしたそうです。

 

 元主筆の船橋洋一氏らはこれまで福島原発事故、民主党政権の失敗、新型コロナ対策など日本の国家的な課題、公共政策について民間臨調(民間による行政調査会)の手法で取り組み、厳しい提言を重ねてきました。それが一転、安倍政権については高い評価を下しているとの印象を受けます。

 

 中北一橋大教授を座長に、8人の大学教授を執筆者にそろえ、アベノミクス、選挙・世論対策、官邸主導、外交、通商問題などをテーマにしています。船橋氏は検証の統括者として序文と後書きを書いています。

 

 中北座長は「本書を貫く問いは、安倍政権が異例の長期安定政権(7年8か月)になったのはなぜかである」と。政策結果の検証ではなく、安倍氏はどのような手法で長期政権を維持したかに焦点を当てたというのです。

 

 長期政権を可能にした政治手法、政権運営、官邸主導、選挙対策、与党・国会対策に的を絞ったといいたいのでしょう。それが本書の特徴であるとともに、それが弱点でもあります。長期政権が遂行した政治による政策結果の検証が不十分で、政権の狙いの説明に軸足を置いているからです。

 

 船橋氏は冒頭の「はじめに」で、「安部政権はこれからの統治のある種の規範的な存在となるだろう」と、称賛に近い表現を使いました。「規範的な存在となる」と聞いて、安倍氏らは喜んでいるに違いない。反安倍政権が朝日新聞の立場だったとすれば、船橋氏はその真逆の立場をとりました。

 

 日本では、1年程度の短命政権ばかりが続き、本来の政治課題に取り組むことより、政局運営の綱渡りが最大のテーマになっていました。その意味では長期政権型の政治が「規範的な存在」になることは必要です。そういうのならば、政策結果の評価も経て「規範的な存在」というべきです。

 

 中北座長は「成長重視のアベノミクスを基軸としながらも、成長と分配の好循環を目指す政策に舵を切り、野党のお株を奪った」と、表現しました。安倍政権はそういう説明をしてきました。

 

 アベノミクスが結果を伴っていれば、岸田首相が「成長と分配」「新しい資本主義」と唱えだすはずがない。コロナ危機の影響もあり、経済成長率ひとつとっても、改善の兆しは見えていません。

 

 「アベノミクス/首相に支配された財務省と日銀」(第1章)では、上川阪大教授が「2%の物価目標が実現されず、金融緩和の副作用が顕在化」と。当然の指摘です。問題はその後に続く部分です。

 

 「異次元緩和を支えた雨宮副総裁らは、異次元緩和を実施し、その限界を明らかにすることで、金融政策の主導権をリフレ派から取り戻した。政界やメディアによる故なき批判から日銀を解放した」と。

 

 つまり異次元緩和、財政出動をセットにした壮大な実験が失敗したことで、その間違いが証明されたことは成果だとみている。日銀の国債購入で財政に歯止めがかからず、国債発行額がGDP比で2・5倍まで増加し、IMFから警告を受けています。成果というには、高すぎる授業料を払っています。

 

 貴重な失敗から大きな教訓を得たというつもりなのでしょう。教訓というには、積みあがった膨大な借金(国債)、異次元緩和の出口(政策転換)をどうしていくのか。そこを検証することが絶対的に不可欠です。

 

 マクロ経済政策について、船橋氏は「消費増税を2回行い、5%引き上げた。安倍政権は増税政権だった」との評価を下しています。増税を嫌い、見送りの是非をわざわざ選挙で問おうとしたという批判とは真逆です。

 

 「増税政権」なら、税収増によって財政状態は改善するはずです。そうはなっていません。結果は逆です。その検証が抜けています。

 

 「外交・安全保障」(第4章)については、新保慶大教授が「日本の戦後史の中でも傑出した成果を挙げた」と激賞しています。平和安保法制の整備、トランプ米大統領との信頼関係、プーチン露大統領との多数の首脳会談などは注目に値しても、「傑出した成果」とは言い過ぎでしょう。

 

 「TPP・通商」(第5章)で、寺田同志社大教授は「TPP(環太平洋パートナーシップ)への参加、世界でも有数のFTA(自由貿易協定)国家に」と、評価しています。国内の反対勢力を説得し、そこにこぎつけるまでの安倍政権の苦労は並大抵ではなかったでしょう。

 

 それがどうでしょう。新型コロナの世界的感染拡大で、サプライチェーンがずたずたにされ、行き過ぎた経済のグローバリゼーションが裏目に出た結果だとの認識が高まっています。海外経済拠点の国内回帰、過度な輸入依存度の高まりのリスク対応などが今後の政策課題になっています。

 

 手放しに「世界有数のFTA国家」などと自賛できない。「グローバリゼーションの限界」の認識と対処に重心がかかってきました。

 

  「官邸主導/強力で安定したリーダーシップの条件」(第3章)で、中北座長は「地方創生や1億総活躍社会などは今井首席秘書官がアイディアを作った。経産省出身者が活躍した」と。

 

 安倍政権の掲げたスローガン、看板は数多く、行き詰まると看板を掛け替え、目先をくるくる変えてきたのが特色です。経産省が得意とする手法です。プーチン大統領を引き込もうとして、いくつもの日露経済協力プロジェクトをぶち上げたのは経産省的なアイディアでしょう。

 

 ウクライナ問題、米ロ関係の悪化、オホーツク海重視のロシアの安全保障政策などによって、北方領土問題の前進はもうあり得ない。長期政権を検証するなら、こうした視点は欠かせないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 


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