消費税が2014年4月に3%、引き上げられ8%になります。小売りの段階で消費税分をどう表示するかのやり方がまちまちになりそうで、消費者は混乱するでしょう。結論からいうと、2004年に総額表示(税込みの小売り価格表示)を義務付けた法改正が混乱の発端であります。その法改正の理由はいろいろあったにせよ、消費税分を目立たなくしておく、感情論的にいうなら「痛税感隠し」になる表記にしておいたほうが、将来の消費税引き上げがやりやすいだろうという、財務省の計算が働いていたに違いないと思っています。それが誤算となりました。
2004年当時、わたしは系列の出版社に出向しておりました。経営破たん状態にあった出版社を新聞社がひきとり、経営再建途上にありました。それ以前は、どの商品も「本体価格+消費税」という、いわゆる外税方式の価格表示でした。税込みの総額表示に切り替えることなんか簡単だろうと思うでしょう。出版界、特に書籍はそうはいきません。その作業の手間ひま、コストは大きな負担になります。確か何千万円のコストがかかるという試算がなされ、やっと黒字転換のめどがついてきたのに、それが吹っ飛びかねないことになりました。大手出版社になると、何億円というケタになるとかいう話でした。
出版物は特殊といえば特殊で、製品(本、雑誌)本体に価格が印刷されています。ダイコンやトマトは本体に価格を書きようがないし、市況によって価格は変わりますので、包装容器に価格のシールなんか貼っていますね。自動車、テレビも本体に価格を印刷してませんよね。値札を別に用意し、そこに表示しています。
出版界にとって、このことが「大事件」になったのは、まず、本のカバー(おもに裏側)の価格を印刷してある部分を隠すように一冊づつ、シールを貼って総額表示の価格を示さねばなりません。新刊本なら出荷のときに対応できるにせよ、出版物は流通期間が長く、書店の店頭にある出版物、出版社の倉庫にある出版物(在庫品)含めると、大変な作業になります。なんで財務省はこんなことを義務付けるのか、と思った記憶が鮮明です。
この措置を前年に決めたとき、確か担当大臣は塩川正十郎さんだったように思います。出版界の陳情には理解を示してくれ、「どこかに総額が表示されていればよい。本にはさむスリップ(短冊。売り上げカードともいう細長い伝票)に印刷してくれていればよい」という簡便な方式を認めるという結末になりました。今、本のカバーには「本体価格+税」という印刷しかしてなく、スリップにだけに総額が書かれますよね。その時からのことです。
そういう体験をしていますので、総額表示に転換した当時の議論を思い出します。「消費税込みの総額が書かれていないと、レジで請求されてみて、支払い金額がはじめて分るのは困る」という苦情が流通業界や消費者からあったことは確かです。財務省はそうした声をうまく使い、「将来の消費税引き上げに備え、消費税を目立たないようにしておこうとした」との批判がしきりとなされました。あれから10年、経ち、取材現場の記者は若返っていますから、そういう経緯があったことなど記事にでてきません。
消費税が実際に8%に、さらに10%と高率になっていくとなる、別の問題がでてきました。「本体価格(税抜き表示、いわゆる外税方式)を認めてくれないと、どこのメーカー、小売り業者の価格が安いのか比較しにくい」「総額表示だけだと、消費税引き上げに便乗して値上げしているように、消費者に思われかねない」などです。経済、景気が停滞し、企業も消費者もますます価格に敏感になっています。結局、消費税転嫁対策特別措置法が成立して、「外税であることを明記すれば、税抜き表示(本体価格表示)を認める」ことになりました。
そこから新たな混乱が始まります。2014年4月以降、本体価格が100円の商品の場合「108円(税込み)」「100円+消費税8円」「100円(総額108円)」など、さまざまな表示が混在することになりかねません。1997年の消費税引き上げのときは「本体価格+税」でした。財務省が2004年に妙な工作(としか思えません)をしないで、そのままにしておけばよかったのです。
国民、消費者からみて、税負担がはっきり分るようにしておくことが、財政、税制に対する強いけん制になり、安易な財政運営の歯止めになります。財務省のためにもなるのです。財務省が「やはりまずかったな」と反省していることを願っています。
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