新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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軽減税率導入のためには・・・

2013年10月15日 | 経済

 他の業界も発言を  2013年10月16日

 

 2014年4月の消費税3%、引き上げが決まり、新聞界は軽減税率を導入するよう、強く要求しています。わたしは生活必需品には軽減税率を適用すべきだと思っています。そうでもしないと、消費税をこれからも段階的に引き上げていくことに、国民の反発が強く、選挙にも大きな影響をもたらすため、政治的にも無理でしょう。では、どのような形の軽減税率ならよいのでしょうか。

 

 日本は主要国で最悪の財政状況にあり、財政赤字を減らしていくには、相当な長期間かかるにせよ、消費税率は将来、10%はおろか20%程度以上に引き上げることが計算上は必要です。欧州では20-25%の税率になっています。欧州で、そこまで引き上げられたのは、軽減税率、きめ細かな複数税率制があり、日常生活への直撃を緩和することができたからでもありましょう。

 

 日本でも、そうすべきです。「そのためには、もっと丁寧な説明をして、国民の理解を得ていかねばなりません。そうでないと、「なぜ、その業種だけが優遇されるのか」という反発を生むからです。世論調査では「生活必需品に軽減税率を」という声は70%にものぼっています。低所得層ほど、消費にしめる生活必需品の比率が高く、それへの配慮は必要です。次の課題は、では何を生活必需品と認めるかです。「コメ、みそ、醤油などを」と主張する政党がありました。随分、荒っぽい議論で「パン、麺類はどうするのか」「スープはどうするのか」「他の調味料はどうするのか」と指摘されると、反論できないでしょう。

 

 軽減税率をかりに、2014年4月の3%上げの際に導入するなら、関係業界は早急に検討を始めないと、間に合いません。新聞については、新聞界が積極的に研究、海外調査もしております。他の業界、特に食品関係の業界、出版界はあまり発言していないようだし、どう考えているのかも、よく伝わってきません。

 

 日本新聞協会から諮問を受け、新聞に対する消費課税のあり方を検討してきた「新聞の公共性に関する研究会」は意見書を発表しました。「新聞は民主政治の健全な機能にとって不可欠」、「情報の伝達媒体として中心的役割を果たしている」、「戸別配達が高い定期購読率を支えている」、「欧州などでも、減免措置が新聞に適用されている」などの指摘は、その通りだと思います。

 

 意見書の大筋に異論はないものの、もっと丁寧な理論構築をすべきだと思うのです。報告書には「新聞は衣食住に次ぐ必需品」というくだりがあります。研究会座長の大学教授は座談会でも、そのことを強調しています。日本における軽減税率をめぐる議論では、衣料品まで軽減の対象にしようという声は聞かれません。住宅もそうでしょう。ごく限られた必需的な食品、食料が念頭に置かれています。軽減税率の対象外になるであろう「衣食住」はたくさんあるのに、「衣食住に次ぐ」といってしまったら、新聞はそれ以下の扱いでいいのだと、思われてしまいますね。衣食住とは別の次元の配慮からきている話だと思うのです。

 

 この意見書以降、「知識は非課税に」という主張を新聞界はしています。学校の授業料などは非課税ですし、「知識は非課税」には賛成です。では、NHKの視聴料はどうなのでしょうか。消費税込みの料金ですよね。NHKは新聞に劣らないレベルの知識、情報を提供しています。そのことをかれらはどう考えているのでしょうか。

 

 新聞界は、電子版の新聞に力を入れ始めています。大手の経済紙は、新聞週間の特集で「有料会員は30万人、無料登録を含めると200万人突破」という記事を載せていました。新聞の戸別配達の維持が軽減税率の重要な目的ですから、「紙の新聞は軽減税率、ネット新聞は除外」はありえます。ただし、対外的にきちんと説明できるようにしておかねばなりません。「ネット化を推進して、紙の新聞の部数を落としている。みずからそういう選択をしながら、紙の新聞は苦しいので優遇措置を」には、反論がでそうです。これは相当な難問です。

 

 出版物も軽減税率の対象候補でしょう。書籍はいいにしても、雑誌はどうしたらよいのでしょうか。スキャンダルやうわさ話が売り物の週刊誌は除外するのでしょうか。必需品でも、知識でもないでしょう。出版社、とくに大手ほど、そうした弱みがあるため、「軽減税率の適用を」と強く要求していないように見受けられます。あまり細かく議論すると、際限のない線引き作業にはまりこみますので、「いっそのこと、出版物全体を対象とする」と、割り切る考え方はありえますがね。

 

 「新聞の公共性に関する研究会」は座長は憲法学者で、税制の専門家は入っていません。軽減税率をもうける際に、インボイスをあわせて導入すべきだ、という動きがでてくるでしょう。税務当局はそういう考えのようだし、多くの税制関係の学者もそう主張しています。これはかなりやっかいな問題です。企業にとっては、面倒な作業が増えるし、税務当局が取引の実体調査に踏み込みやすくなるので、あまり歓迎しないでしょう。新聞界は税務と軽減税率の関係について発言していません。

 

 欧州では、適用税率、税額の記載を義務付けたインボイス方式(取引の相手方が発行した請求書の保存を義務付ける)をとり、取引の透明性を高め、税務調査にもきちんと対応できるようにしています。日本は単一税率できたので、帳簿上だけで、消費税の支払い、控除、その差額の納付をしてきました。それが今後も押し通せるのか、実務的な検討をしていかねばなりません。

 

 安倍政権は、消費税を10%に引き上げる次の段階で、軽減税率を考える(恐らく導入する)といっています。それに先立つ2014年4月に軽減税率を認めさせるためには、関係各界は連携し、複数税率の下ではインボイス方式が不可欠なのかどうかを含め、考え方を早くまとめていかないと、時間切れになってしまいます。

 

 

 

 

 



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