軍事大国への歯止めになる景気後退
2022年5月20日
バイデン米大統領が日韓両国を訪問し、首脳会談に臨みます。インド太平洋地域で存在感を増す中国をにらみ、米国は主導権を確保しようとしています。ロシアのウクライナ侵略から学んだのは、暴虐に走る専制主義国家への備えを固めておかなければならない時代に入ったことです。
日本のメディアも軍事外交面での対中政策の強化は最重要課題と考えているのに、経済面では対中依存の意識から抜け出ていない記事が少なくない。軍事、外交、経済を総合的に把握する報道姿勢が必要です。
日経新聞の一面トップ(20日)は、「日本の自衛隊が運用する早期警戒管制機(AWACS)と同じ形状をした構造物(実物大の模型)を中国はウイグル自治区の砂漠地帯に設置していることが判明した」という記事です。
3枚の衛星写真が添えてあり、「日経新聞が複数の専門家と解析して確認した」とありますから、調査報道によるスクープといえます。2面にも関連記事として、「米空母を模したと見られる構造物」、「台湾の海軍基地を模したと見らえる構造物」の写真6枚が載っています。
「米衛星運用会社が過去に撮影した写真を日経新聞が解析した」と説明しています。「過去に」とわざわざ断っているのは、米大統領の来日のタイミングに合わせたリークではないと、言いたいのでしょう。
日経はメガデータや衛星写真の入手、解析のノウハウを蓄積しており、この記事は中国の軍事戦略の一端を伝える生々しい写真です。
ミサイル攻撃の訓練用の仮想標的でしょう。AWACSが破壊されると、日本は「空中司令塔」を失うことになり、制空権に重大な影響が生じます。バイデン大統領の来日直前というタイミングの記事で、日本、台湾、韓国を含む東アジア情勢の緊迫度の高まりを感じさせます。
これに対して、中国経済の減速、失速の記事になると、「マイナス成長懸念」とか「失速の影響注視」とか、中国当局と同じ次元に立って、経済の現状を心配しているのが目立ちます。日経に限らず、全国紙は同様です。
日経の2面に「ロシア経済のモノ不足が深刻」という記事が載っています。「米欧の経済制裁で自動車部品の輸入が止まり、4月の新車販売が8割減少した」「半導体や化学品の禁輸措置は、兵器からオフィス用品まで生産現場を直撃している」と。
ウクライナ戦争ではっきりしたのは、「ロシアは軍事大国であっても、経済小国である。経済面から侵略を後押しすべき継戦能力が低下している」ということでしょう。経済が停滞すれば、国民生活への影響も深刻になり、世論も戦争反対の声が強まっていく。
このことは中国にもあてはまります。日経は「中国経済失速の影響注視を」(17日)という社説で、「上海の都市封鎖などで、上海港は物流が滞っている」、「中国の成長目標5・5%前後の達成は容易ではなく、日本経済への影響も避けられない」と、心配しています。
経済や景気のことになると、「対中輸出が減る」、「中国からの部品輸入に支障がでる」とか、メディアは目先のことばかりに気を奪われています。中国がこれまでのようなペースで成長を続けたら、軍事力もどんどん強化される。経済減速、失速は西側にとって歓迎すべきことです。
中国当局にとっての「中国経済の失速」は、西側にとっては「中国経済の正常化」という側面があると思います。
さらにロシアのウクライナ侵略とそれに対する経済制裁、中国の外交姿勢を見て、「グローバリゼーションの時代(地球大の相互依存の時代)は終わった」という指摘が強まっています。
民主主義国家対専制主義国家と、グローバリゼーションが「二分」されるのか。「二分」とはいかなくても、日米欧中心と、中露を軸に結束するグループにどこまで分かれていくのか。とにかく「分断の時代」に入っていく。
「経済の相互依存が深まれば、国家間の対立が消えていくという時代」から、「経済の相互依存は国家の安全保障にとってリスクとなる時代」に劇的に転換してしまったともいえる。
多くの有力企業はロシアから撤退しているばかりでなく、中国の供給網への依存も修正しようとしています。目先の混乱に目を奪われず、「中国経済の減速は中国の正常化」という視点がほしいのです。
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