英語と理科とソフトの一体教育
2017年6月6日
珍しく榊原経団連会長が正論を吐いています。「国会で集中審議すべき項目は山ほどある。優先順位からすると、加計学園ではないだろう」と。国際的な電機メーカーの役員を務め、工学博士号を持つ知人も「獣医学部を一校分、新設しても、産業力の強化にわずかな効果しかない。政治が扱うべき最重要政策があるではないか」と、憤懣やるかたない様子です。
加計園問題は安倍政治の体質を象徴し、強引で異論を黙殺する姿勢が国民に対して非礼であり、食らいつく口実を野党に与えています。もっと優先度の高いテーマは押しのけられています。日本の経済力や産業力が低下し、どう再生させるかはその一つです。安倍政治がことあるごとに口にする「成長戦略」は言葉の上滑りに終わっています。
その知人が自分の見解を寄せてきました。まず、「企業評価の重要指標である株式時価総額の世界ランキングを見てほしい」。1位アップル(83兆円)、2位グーグル(70兆円)、3位マイクロソフト(58兆円)、4位フェースブック(48兆円)などなど。「トップ10の9位までが米国企業。上位はほとんどがソフト産業です。米国の富を稼いでいるのは、ソフト産業、バイオ産業、ハードとソフトが融合した産業です」。トランプ大統領も米国産業の実態をどこまで知っているのでしょうか。
ソフトこそ大儲けの源泉
日本が得意とした家電、自動車などのハード産業(モノ造り)からソフト産業(コンピューター、IT、人口知能など)に、世界の比較優位は移っています。家電も自動車も、ソフト力で性能、品質が決まる融合型産業になってはいても、ソフト産業の日米格差は大きいのです。「パソコンを1台、買えば何十㌦かがマイクロソフトに自動的に支払われる仕組みになっている。ソフトというと、おまけのように思われる。実は違う。最も利益を稼ぎだすのがソフトだ」と、指摘します。
ではどうすればいいのか。「答えは教育です。システム工学部の増設、ソフト技術者の育成が急務です。これこそ国の最重要政策として推進すべきです。それに比べると、獣医学部の増設は小さな話です。子どもたちにソフトの面白さ、ソフトこそが価値を生み出すことを教えるのです。米国はそうしている」。
知人は米国の研究所にも長年、おりました。提案はさらに続きます。「ソフトのベースは英語です。英語で資料を読み、頭の中で翻訳しているようではだめです。最初から英語で発想し、プログラムを英語で作成する能力が不可欠です。耳から英語を学ぶ小学校での週1時間は、大学の10時間に相当します。小学校での英語教育の重視を」。
さらに「ソフト、英語、理科教育を一体とした教育体系の構築を改革の柱にすべきです。米国では低学年から、このような教育を始め、大学にはしっかりとしたシステム工学部がある。有能な学生はどんどん留学させる必要がある」。中国はそうしています。このままではソフト力の日米格差、日中格差、ひいては経済力格差は広がる一方でしょう。「日本では、理系を専攻した優秀な学生でもこぞって、給料の高い商社、銀行に就職してしまう。残念でたまりません」。
成長戦略とはソフト産業の育成
安倍政権は、幼児教育の無償化、高等教育の無償化に何兆円も使おうとしています。学校でどのような教育をすれば、日本の産業、経済力の再生につながるかを考える前に、教育予算を組もうとするのは順序が逆です。「国家戦略特区における獣医学部の増設」は点の話であり、「ソフト重視の教育整備による産業再生」は面、立体に広がる次元の話です。世界的企業のトップ10のほとんどがソフト企業という事実は重いのです。「成長戦略」と「ソフト産業の育成」は同義語でしょう。
小学校から英語教育の強化をというと、「日本人ならまず日本語で物事を考える基礎を教えるのが先だ」という保守思想の抵抗に会います。小学校の教科書のデジタル化さえ、新聞協会が「紙と活字の重視」を理由に、反対しています。ともに世界の将来性、時代の流れの急速な変化が読めていないのです。
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