中国版アジア銀行の陰に米国問題
2015年6月19日
中国主導のアジア・インフラ開発銀行(AIIB)の設立をめぐり、大論争が起きています。日本では、加盟問題の是非ばかりに焦点があたっていまい、中国批判派が大声を張り上げて反対しています。こうした加盟論よりもっと重要なのは、中国が世界やアジアで将来、どういう位置を占めていくか、それにどう対応していくか、ということこそ考えていくべき問題です。
さらに中国のアジア銀行構想の陰には、米国問題が存在します。中国などの発言権増大を認めようとする国際通貨基金(IMF)の改革案に米議会が反対して、中国がしびれをきらせています。さらに、中国の外貨準備高は4兆ドルにものぼり、主に低利の米国債で運用し、使い道に困った中国がアジアのインフラ投資に回すわけで、原資は米国が提供しているのと同じことです。新銀行の陰に米国が存在するのです。恐らくこのドルをもっと高利で融資するでしょうから、焦げ付かないかぎり、中国の金融資産は安全圏内です。
最近の報道では、新銀行の資本金は1000億ドル(12兆円)です。資本金のうち中国は25%-30%を出資し、「出資額は中国が突出し、75%の賛成が必要な重要事項を決める際、中国の一存で拒否できる。完全な中国主導で、やりたい放題できる。あんまりだ」と、評判が悪いのです。どうでしょうか。IMFをみると、米国の出資比率は17・7%で、重要案件の決定は85%以上の賛成票が必要ですから、やはり米国一国に拒否権が与えられています。中国批判と同じような対米批判がくすぶり続けており、これが新銀行設立の動機のひとつです。ここでも新銀行の陰に米国問題が存在しますね。
IMF・世界銀行のアジア版として、アジア開発銀行(歴代総裁は日本人)がマニラにあります。日米が各15・7%を出資し、主導権を握っています。経済規模が拡大した中国などが出資比率の増大を要求してきたものの、日米は譲っていません。しかも「融資のルールが細かすぎるのと、審査に時間がかかりすぎる」など、借りる側の不満が大きいのです。日米加などを除く57か国があっという間に資本参加を決めた背景の一つはアジア開銀への批判でしょう。
報道されている協定案によると、中国の独裁色が濃く、国際金融機関としての透明性にかけるという問題があります。「総裁は中国人がなる。12人の理事は非常勤で、中国に勤務する必要はない」というのは、ちょっと露骨ではないの。「融資にあたって、環境や人権への配慮があいまい」、「中国が加盟国にインフラ輸出をして稼ごうという腹なのだろう」。これらの批判はあたっており、中国が独走しないように、加盟国も国際機関も日米などのけん制していかねばなりません。
中国も東シナ海の岩礁を埋め立てなど、乱暴な振る舞いに反省しているとは思えないこともあり、日本の対中批判は悪しざまです。安倍首相が「高利貸し」呼ばわりしたり、論壇誌に「習近平は、集金平だ」とか「中国のたくらみにのるな」とか、品性に欠けた悪口が目につきます。感情論が対中論の軸になっており、世界秩序や金融秩序をどう形成していくかという冷静で大局的な論点が、メディアにも論壇にも乏しいのです。
米国議会の共和党系が「AIIBへの出資を認めない」という態度ですから、外交辞令はともかく、米政府は参加表明できません。対米関係が最大の軸になっている日本政府も、当初はどうしたらよいのか分らず、米国の顔色を伺っていました。米国がこういうことなら、不参加でしょうね。
AIIB問題が日本でこれほど大論争になったのは、加盟の難しさというより、「この中国版銀行がいずれ日米主導のアジア開銀を追い越す」、「シルクロードへの投資、開発を含め、中国が一段と巨大な存在になる」という将来予測のためでしょう。米国が神経をとがらせているのは、「国際金融秩序が米国中心からシフトしかねない」、「中国主導の世界秩序に次第に変化していく」という恐れ、懸念のためでしょう。
中国版アジア銀行構想の底流と、大きな歴史の流れの変化は重なっているとみられます。日米が参加してもしなくても、この変化は進んでいくのでしょう。日本通の米学者、エズラ・ヴォーゲル氏による「中国のような資本力のある国が投資するのは好ましい。日米が積極的に関与すべきだ」との発言が目にとまりました。対中批判に没頭し、中国と一線を画すことばかりに終始していては、得るものは少ないですね。
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