新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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参院選で示した朝日新聞の無力

2016年07月11日 | メディア論

 

世論の本音を知らない

2016年7月11日

 安倍政権はまたも参院選で圧勝しましたね。自公で改選過半数、改憲勢力で3分の2を獲得しましたから、悲願の憲法改正が視野に入ってきました。安倍政権に真っ向から対抗しようとしてきたのが朝日新聞です。朝日の論調、報道紙面は世論を動かす力をすっかり失ってしまいました。


 つい最近まで元気があった弟分のテレビ朝日は、交代したキャスターが現場レポーターの域をでず、世論に対する影響力は感じられません。一方、他の新聞メディアには大衆迎合ならぬ権力迎合の傾向が強まっています。民放テレビはますますバラエティ番組化しています。日本の民主主義のために政治を監視し、けん制する場は必要です。新しいメディア論の登場を期待しています。


 選挙前の世論調査で、「改憲勢力が3分の2迫る」という見出しで、朝日などの新聞が一斉に掲げました。「このままでは、憲法改正に踏み込み、大変なことになるぞ」というけん制効果を期待したのでしょう。朝日が期待したけん制効果は全くありませんでした。その通りの選挙結果になりました。


後出し改憲を察知しながら投票


 世論の大勢は「こういう国際情勢のもとでは、憲法改正が必要だ」と、思っているのでしょう。朝日の社説(11日)は「後出し改憲に信はない」との見出しで、選挙対策から、選挙前に「首相は憲法改正への意欲を積極的に語らなかった」と指摘します。もっともらしい批判です。11日の朝日新聞はまるで「改憲近づく」の雰囲気を警戒しているようですね。「改憲は必要」という有権者が、実際は多いのではないでしょうか。


 朝日を始め「後出し改憲」への警戒を多くのメディアがくどいほど強調していましたから、有権者が「後出し改憲」の気配を知らないはずはないのです。それを承知の上で投票に行ったのでしょう。世論調査の数字と、有権者の本当の気持ちのずれ広がっているような気がします。それを踏まえない限り、新聞の主張は上滑りするだけです。


 もう一つの事例は原発問題です。世論調査では過半数が再稼働に反対し、脱原発に賛成です。朝日は「安倍首相は推進か脱却か、多くを語らなかった。有権者には判断材料が乏しいままだった」と、指摘します。そうなんでしょうか。戦後最大の事故となった原発問題を、首相が言及してもしなくても、有権者の判断が左右されることはないでしょう。


原発反対でみる有権者の現実感覚


 有権者の本心は「原発はないほうがいいに決まっている。問題はそれが現実的な選択で、可能なのだろうか」にあると、思います。国政選挙の争点から原発問題は比重がどんどん下がっています。原発が立地難、廃棄物処理の行き詰まりから徐々に廃炉にしてくかしかない、というところでしょう。


 もっとも身近な大惨事を体験して、有権者が「原発は絶対になくせ」と思っているとするならば、原発許容派の安倍政権が、国政選挙で4連勝もするはずがありません。有権者にも許容派が多いのでしょう。


 世論の本音にメディアが迎合してしまうのも問題です。経済・財政政策で安倍政権は見え透いた手品を使いました。消費税10%への引き上げ先送りについて、「以前の選挙公約に反するので、こうした新しい判断の是非を参院選で問う」と首相は語りました。これを最大の争点にする構えを見せました。


アベノミクスはスローガンで踊る


 有権者の多くが歓迎するであろうし、民進党も同調してしまった「消費税先送り」が争点になるはずがありません。それについて、11日の朝日新聞は、「アベノミクス、逆風下の経済政策」と、書いています。ユーロ危機もあり、円安、株高が止まり、相場水準は政権発足時のレベルに戻ってしまいました。


 選挙公約にある「アベノミクスをふかし、前進する」をさらにやられたら、日本の財政赤字は拡大し、異次元緩和の金融は後戻りできない危険水域に突っ込みます。世論はほとんど危機を感じていないようですね。まだまだ新聞メディアが果たすべき分野はあると思いますよ。

 

 

 



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