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北朝鮮に拉致被害者を戻す気はあるのか

2014年10月30日 | 政治

   妙な演出だけには凝る国

                       2014年10月30日

 

 北朝鮮による日本人拉致被害者らの再調査をめぐり、日朝の協議が平壌で二日間、行われ、日本側は「迅速な調査をし、報告を」と迫りました。次第にはっきりしてきたのは、北には拉致被害者を日本に戻す気があるのか疑念を持たざるを得ないということです。ひどい国です。北の政治体制が変わらない限り、本当の進展はないかもしれません。 

 

 北朝鮮という独裁国家、秘密国家との交渉ですから、彼らは何を考えているのか、日本に本当のところ何を伝えたのかは闇のなかです。日本との関係では、拉致問題は最大のカードで、核とミサイルのカードと同じように、カードを全部切ってしまったら外交の武器はなくなります。これが彼らの戦術の基本であると思います。しびれを切らさず、北の体制の転換を待つことです。圧力をかけるほど、こちらにあせりがあると思わせることになりかねないから始末に困るのです。

 

 この国を見る場合、彼らのいう言葉を反対の方向から考えたほうがよさそうですね。拉致問題について期待感を抱かせた「夏の終わりか秋の初めに最初の報告を行う」は、「夏の終わりか秋の初めには、行わない」という意味だったのでしょう。「北朝鮮を圧力でここまで追い詰めた」という甘い解釈が当時よく聞かれました。真相はそうではなく、「追い詰められたように見せかける」ではなかったのでしょうか。

 

 北朝鮮は調査の現状について「まだ初期段階、準備段階にある」との認識を日本に伝えました。その意味は「初期ですらない」、なのではないでしょうか。拉致された日本人被害者の状況はかねてから常に把握されているとみるのが常識で、相当程度のことは、分わかっているはずです。彼らの「これから調査する」は、「すでに核心の部分は分っている」の意味でしょう。

 

 今回の協議の成果がほとんどないので、日本側は「過去の調査結果にこだわらず、新しい角度から調査を深めていく」との妙な発言を評価するしかないようです。その意味は「調査はそういうものであり、新しい要素はない」でしょう。確かに行方不明者、日本人配偶者などについては、調査してみないと、全容は分らないかもしれません。結局、日本側が「最重要課題」とした拉致そのものの問題には踏み込まず、日本人遺骨問題を優先しようとしているとみられています。これで時間稼ぎをするつもりなのでしょう。

 

 金第一書記に近く、秘密警察を統括し、国家安全保衛部副部長のソ・デハ調査委員長ら責任者が全員出席し、テレビニュースにも姿が映っていました。これは「やる気がある」という形だけはみせておくことなのでしょう。会談場所の「特別調査委員会」の庁舎は、「拉致被害者・行方不明者」などと書かれた部屋もあり、報道陣はそばを通ったようです。「物音がほとんどせず、職員が勤務している様子はうかがえない」と、記事は伝えています。「箱は作った。中身はない」が真相なのでしょう。演出だけは凝っていますね。

 

 拉致被害者家族会は「失望するだけだから」と、今回の訪朝団の派遣には懐疑的でした。そうであっても、ここで派遣しなかったら、二国間交渉の糸が切れ、それでおしまいです。やはり派遣は必要でした。北の小出しと引き延ばしに忍耐強く対応していくしかないようです。新聞の社説で「北朝鮮が誠意のない対応を続けるなら、制裁を復活させることも選択肢になろう」という表現をみかけました。もともとこの国は、誠意とは異なる行動基準で動いています。「誠意」を要求するのは言葉のムダです。

 

 メディアの報道で気になってしょうがない点がありました。北朝鮮側の「通告」あるいは「通報」という表現をよく記事でみかけます。まるで日本側に「教えてやる」というニュアンスがありますね。普通なら「報告」でしょう。恐らく北朝鮮は「通告」、「通報」の意味と、「報告」の意味を使い分けているのでしょう。メディアはそこをもっと突くべきです。日朝関係では、加害者は北朝鮮、被害者は日本なのに、その立場が入れ替わっていますね。加害者の立場のほうが強くでるという転倒した関係は許せません。

 

 

 

 

 

 



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