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黒田日銀総裁の大冒険の旅

2014年11月03日 | 経済

 漂流する航海になる恐れも

                     2014年11月3日

 

 黒田総裁が率いる日銀が、あっと驚くような大胆な金融緩和の追加を決めました。困ったことに、アベノミクス(安倍政権の経済政策)の中心的な役割を背負っている異次元金融緩和の最終的な評価を下すには、何年も必要になるかもしれないのです。金融緩和は景気回復にある程度、即効性がある一方、怒涛のように放出したマネーの回収、日銀による巨額の国債購入の後始末を見届けるには長期の期間が必要です。その時には、黒田総裁も安倍首相も今のポストには恐らくおられないのではないでしょうか。大胆な選択、恐ろしい選択という両面を見ていかねばなりません。

 

  日銀の歴史の大転換

 

 黒田総裁ほど大胆な政策転換を図った例は、稀有ではないでしょうか。日銀の歴史をひっくり返すようなことをやってのけています。①政府からの中央銀行の独立性がまるで眼中から消えている②正統的な景気回復よりも、資産バブルによる景気回復効果を重視している③巨額の国債購入のリスクを心配せず、中央銀行の健全性への配慮が後退している、などしょう。この3つは一身同体、三位一体なっています。

 

 こんな選択をするのも、世界経済が構造的な危機に沈みかけており、日本は20年に及ぶ長期のデフレからまだ脱出したといえず、欧州は日本のデフレをまるで再現するかのような状況に陥っています。危機が巨大、深刻ですから、これまで許されなかった非伝統的な金融政策を許す空気が広がっているのです。米国はリーマンショック以降、これも6年間、怒涛のような金融緩和を行い、最近になってやっと量的緩和の終了を決めました。その米国もゼロ金利政策は「相当な期間」、継続するとしてますから、異例の危機対応はまだ終わっていないのです。

 

   米国は出口を見つけるのに6年間

 

 黒田総裁の大冒険の旅は、こうしたことが背景になっています。「とにかくやれることをやってみな」の空気です。シェールガスが湧き出し、エネルギー問題を一気に解決し、ノーベル賞受賞者を多数、輩出し、科学の最前線を疾走する米国でも、6年かかって異次元緩和の出口にかろうじてたどりつけたのです。それでも6年かかったのです。潜在力が劣る日欧が同じことをしたら、マネーの洪水の海から無事、帰港できるかわからないのです。

 

 中央銀行の独立性に触れましょう。経済、特に財政状態は政治の決断に左右され、政治の決断は、苦しい道を嫌がる有権者の選択に左右されます。政治が不況対策のツケを金融政策(日銀)にまわしてこないように、中央銀行は政府から独立して、政策判断をしなければなりません。財政も中央銀行も深傷を負ってしまっていたら、民間経済がどうしようもないような危機に陥ったとき、救うことはできません。「そんなことをいっている場合かね」という点で、黒田総裁は安倍首相と一体であり、一体であるからこそ総裁に任命されたのです。

 

 その景気回復の手法は、株価、土地などの資産価格を引き上げるバブルを重視しているようです。異次元緩和で最も顕著な反応を起したのは株高、不動産価格の上昇です。低金利、金融緩和でじっくりと景気回復を図るより、このほうが手っ取り早いのです。今回の追加緩和の直後、株が700円以上も上がりました。資産家、株式保有者はめでたし、めでたしです。企業も自分の株価があがり、経営者は満足しています。株高が景気、経済全体にプラスの波及効果を生みだすには、時間がかかります。

 

   禁じ手に踏み込む

 

 日銀の追加緩和で、日銀国債保有残高をさらに毎年30兆円(これまでは50兆円)ずつ増やし、80兆円することにしました。来年末には日銀が保有する国債は350兆円となり、経済規模がまるで違う米国の中央銀行(連邦準備理事会)の450兆円に迫ります。政府が国債をどんどん発行しても、日銀が7割を買うよう仕向けているのです。これでは、政府は安心して国債を発行し、財政規律が緩みます。実質的に日銀による国債引き受けに相当し、伝統的な政策では禁じ手にされてきました。国債を出しすぎて、いつか相場が下落したら、その損失は日銀がかぶります。

 

 黒田総裁の大冒険は、短期的には即効性を感じられても、よほど景気、経済の好循環に入っていかないと、中長期的には、重大な問題をはらんでいくのです。好循環に入り、心配されている懸念が払拭されていく可能性はあるかもしれません。そこに至らない可能性もあります。金融政策決定会合(投票者9人)で4人もの政策委員が反対票を投じるという異例の展開になったのは、そこをおそれているのでしょう。海外からは、歓迎する声と、デフレ対策が金融政策に傾斜しすぎているとの懸念の声が両方、聞かれます。

 

 重大な懸念があるにもかかわらず、大冒険を安倍政権、マネー市場の大勢が歓迎しているのは、財政・税制と違い、金融緩和のコストが目に見えにくいからです。後になってから分るのです。借金でガソリンを満タンにして、アクセルをふかすのと似ています。ガソリン代は後ほど、回収させてもらうということです。「とにかく行っておいで」、なのです。異次元の金融緩和は「行きはよいよい、帰りはこわい」なのです。

 

 

 



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