第三者委ばやりを嘆く
2012年11月16日
みずほ銀行による暴力団関係者への問題融資は、銀行自身による調査、第三者委員会の調査報告書発表という段階から、金融庁の立ち入り検査の開始へと発展しています。エリート集団であるはずのメガバンクで、企業としての自浄能力が不十分だったことは、日本の企業の企業統治(コーポレート・ガバナンス)能力の不足を象徴するとともに、メディアの報道姿勢、国民の受け取め方の特徴も教えてくれています。さらに外部取締役、監査役という第三者が企業に迎えられているのに、それほど役立っていません。
少し違った視点から、この事件を見つめると、どういうことになるでしょうか。
企業の不祥事が発覚し、社会的大事件になると、トップが記者会見して、深々と頭を下げる映像、写真がメディアで流れます。今回の場合、佐藤頭取が日銀記者クラブで謝罪した時、20秒間、頭を下げたという記事を読みました。長いほうでしょう。以前、ある企業の役員に聞いた話では「不祥事の大きさによって、10秒とか20秒あるいは30秒というように、頭を下げる時間を内輪で決めており、事前に予行練習して会見に臨む」といっていました。秒数が反省の程度を図る物差しになっているなんて変ですよね。
国民、読者、視聴者はその姿を見て、頭ではなく、溜飲を下げるのです。次の課題はトップの首が飛ぶかどうかです。今回の場合、佐藤頭取は「辞任について考えたことはない。一連の問題は経営の根幹を揺るがしていない。合併3行に旧行意識があり、これをひとつにすることに全力をあげる」という発言をしました。これに対し、メディアは「危機感の乏しさを伺わせている」と批判しました。辞任すれば、これも溜飲を下げる効果を持ちます。辞任すべきかどうかは、事件の全容が確定し、トップはどこまで責任を負うかがはっきりしてから決めるべきことです。それ待たずに「辞任するかどうか」が焦点になってしまうのです。世間はとにかく鬼の首がほしいのです。
だからといって、わたしはみずほ銀行や佐藤頭取を弁護しているのではありません。わたしが大阪に出向していた時、関連会社の不良債権問題が起き、みずほ銀は「親会社(大阪本社)が保証すべき融資であり、全額、返済すべきだ」と、くどいほど要求してきました。そんなことは契約書に書いてないのに、譲る気配はなく、居丈高です。「おたくの東京のトップに、当行のトップが会いに行き、申し入れるぞ」といい、これはメガバンクとは思えない、明らかに脅しです。担当者レベルではラチがあきそうにありません。
そこで「わたしが直接、みずほ銀と話し合うので、関西の代表者が来社してほしい。こられる方は、ご自分で意思決定できる最終責任者一人にしてほしい。こちらもわたし一人で対応し、その場で最終決着をつけましょう」と伝えました。「分りました」という返事でした。お待ちしていると、会社にこられたのは二人でした。みずほ銀の大阪代表の確か専務、もう一人はみずほコーポレート銀の同じく専務でした。出身行は旧富士銀行と旧日本興業銀行です。どんな交渉をするのか、お互いに監視しあっているのでしょう。そういう経験があるだけに、合併前の旧3行の縄張り意識が根強く、不祥事が起きても、内部で隠し通すか、知っていても無関心を装う企業体質になっていると、わたしも思います。
次に第三者委員会の問題です。みずほ銀が依頼した第三者委は3人の弁護士から構成され、「組員融資が自行債権だという意識が希薄だった。コンピューターのシステム障害による混乱が重なり、問題の引継ぎがなされていなかった。取締役会に報告されたが、議論の形跡がなかった」など、事前に指摘されたことをなぞる程度の報告書を発表しました。3人とも弁護士で、うち2人は元高裁長官と元東京地検特捜検事です。報告書が不十分だったとみられ、金融庁が検査に乗り出すことになりました。彼らはそれをどう感じているのでしょうか。
このところ、企業の不祥事が起きると、問題企業がよく第三者委員会を設け、事実関係、原因分析、再発防止策を盛り込んだ報告書を発表します。ある統計によりますと、2008、09年はそれぞれ約30件、10年は約50件です。第三者といえば、社外役員、社外監査役、監査法人も企業にとっては第三者です。これらの第三者は何をしていたのでしょうか。第三者委員会が設けられたら、これらの第三者は恥ずかしい思いを抱きながら辞任すべきでしょう。
問題融資事件を起したオリコには元地検特捜部長が監査役になっています。親会社のみずほ銀は今後、元高検検事長・最高裁判事の人を社外取締役に迎えることにしました。企業の不祥事が多発する時代になって、弁護士、それも元検事、元判事が引く手あまたです。現役の検事が事件を摘発し、現役の判事が厳しい判決を下すほど、元検事や元判事に企業の社外取締役、監査役になってくれという依頼がくるのです。
第三者委はだいたい弁護士が中心になります。そこで日弁連は第三者委員会に関するガイドラインを設け、依頼企業からの独立性、報告書の構成、再発防止策の提言などについて、留意すべき点を列挙しています。第三者委員会は法曹界にとって、かれらのビジネスチャンスを広げてくれています。
妙な点があると思われませんか。多くの大企業が法曹界の人たちを企業内に第三者として、迎えているのに不祥事は絶えません。以前から不祥事があったけれども、内部告発などがあまりなく、明るみにならず、闇に葬られていたのかもしれませんがね。今では直ちに第三者委員会が設けられ、法曹界の人たち、関係者が主要メンバーになります。「企業内第三者」がしっかりしていれば、第三者委員会などを設けないですむはずですよね。
日弁連のガイドラインは、まず「企業内第三者」に就任する元検事、元判事などの弁護士向けにつくるべきでしょう。かれらが必要な働きをしていないので不祥事を防げず、不祥事が発覚すると、第三者委員会という新たな仕事の注文がまた法曹界関係者に寄せられるという循環がおきているのです。
もっとも多くの企業が「企業内第三者」を交通違反のお守り、お札程度にしか考えておらず、経営の根幹にはタッチさせないようにしていることも、事実でしょう。それならそれで、日弁連は「企業内第三者」に就任するのあたっての、ガイドラインを作られたらどうですか。
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