中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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スティーブ・ジョブズからの教訓「生かさず、活かせ」

2013年11月05日 | コンサルティング

今から20年ほど前のことです。私は某メーカに勤務していました。仕事はNeXTというunixワークステーションの国内販売促進でした。

ある日の夕方、NeXT社のCEOが会社にやって来ました。私も会議室に呼び出されて行くと、CEOのスティーブ・ジョブズ氏がテーブルの端に陣取っていました。そして、私に向ってこう言いました。

「この会社は、日本で最も大きな潜在顧客を見逃している」

・・・はあ?日本市場のことを詳しく調べたのかな?と思ったのですが、ジョブズ氏はこう言いました。

「それは、この会社だよ」

確かに社内でNeXTを使っているところは多くはありませんでした。数日後、私に社内普及プロジェクトのお鉢が回ってきました。

それから数か月間の語るも涙の苦労話はさておき、ずっと後になってからですがとても大きな気づきを得ることができました。

それは自社製品の未来に対する態度です。

日本の会社は、ハードでもソフトでも自社製品を使うことに対しては非常に積極的です。自分たちが作った製品を自ら使い、問題点をフィードバックしてより良い製品作りに生かすこともよく行います。もちろん、それはアメリカの会社でも同じです。

ただし、その先が違います。

ジョブズ氏はNeXTが利益を上げ始めてさてこれからというときに、NeXTをAppleに売却し、自らもAppleの(暫定)CEOとしてカムバックしました。それから後の展開を見ればわかりますが、NeXTの技術的資産をMacに移植し、後のiPhone、iPadに活かします。

この、製品の「活かし方」こそアメリカの会社らしい感じがします。

日本の会社は、どうしても愛着のある自社製品を「生かそう」とします。・・・活かすのではなく。

良い製品が完成してベストセラーになると、どんどん新しい機能をその製品に加えていきます。やがて他社に追いつかれて陳腐化が始まっても、最初の製品に固執しがちです。売れなくなってくると、次のような声が社内から聞こえてきます。

「会社の利益を稼いできたのはこの製品だ」、「なんだ、まだまだ売れているじゃないか」、「新製品に使う金があったら、もっと販促に回してくれ」・・・

本当は、良いところだけを取り出して新しい製品に「活かす」べきところを、最初の形態を「生かそう」としてしまうわけです。

それが自社製品に対する愛情の形なのでしょう。

しかし、多くの場合「生かそう」とした製品は他社製品によって滅ぼされてしまいます。

自分の作ったものは愛おしいけれど、それを否定してでも次の製品に活かすことが必要です。それが本当の、自社製品を愛する態度ではないでしょうか。

P.F.ドラッカーは「Managing for the Future」で次のように述べています。

Being the one who makes your product, process, or service obsolete is the only way to prevent your competitor from doing so.

「他者による陳腐化を防ぐ唯一の方法は自ら陳腐化させることである。」

(人材育成社)