中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第915話 ステイホーム週間は本を読もう(11)

2020年05月05日 | コミュニケーション

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。さて、いつもはビジネスに関わる内容をお届けしているこのブログですが、ステイホーム週間に合わせて「お薦めの本」を紹介しています。11冊目です。

「羊と鋼の森 (文春文庫) 」宮下奈都

 映画化もされたベストセラー小説です。2016年の本屋大賞にもなっています。しかし、万人受けする内容かというと、決してそうではありません。こう書くと、熱烈なファンとアンチに分かれていそうな感じです。Amazonのカスタマーレビューを見ると「静かに、淡々と進む物語」が良いという人と、退屈だという人に分かれています。4:1くらいで前者が多いのですが。

 この本は1人の少年がピアノの調律の世界に入って成長していく物語です。その過程でいろいろな出来事が起こりますが、全体としては内省的な語り口で淡々と話が進みます。

 「・・・一音、一音、音の性質を調べるように耳を澄まし、チューニングハンマーを回す。だんだん近づいてくる。何がかはわからない。心臓が高鳴る。何かとても大きなものが近づいてくる予感があった。なだらかな山が見えてくる。生まれ育った家から見えていた景色だ。・・・」

 調律という音との対峙を詩的に表現しています。音感の無い私にとっては不思議な世界ですが、想像力を掻き立てられます。この本をつまらない、退屈だと思う人は、まさにこうした表現がつまらない、退屈だと思うのでしょう。そのせいか、カスタマーレビューの「良い」と「悪い」の理由がまったく同じになっています。静かで単調な物語だからこその評価といえるでしょう。

 この本と同様な物語としてすぐに思い当たったのは「リトル・フォレスト」(五十嵐大介、2004年)というマンガです。この物語もまた静かで、淡々とストーリーが進みます。橋本愛の主演で2014年に映画化されました。他にも「かもめ食堂」や「舟を編む」など同じような映画や本を思い出しました。

 私は、「真逆の」スティーヴン・キングやダン・ブラウンも大好きです。それでも、ステイホームの時にはこうした「手に汗かかない」静かな物語に浸りきるのも、読書の大きな楽しみのひとつだと思います。

羊と鋼の森 (文春文庫) Kindle版

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第914話 ステイホーム週間は本を読もう(10)

2020年05月04日 | 仕事

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。さて、いつもはビジネスに関わる内容をお届けしているこのブログですが、ステイホーム週間に合わせて「お薦めの本」を紹介しています。10冊目です。

「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」山口 周

 今回はたしかに「お薦め」なのですが、非常に批判的に書きます。すでに本書を読まれて好意的な感想をお持ちの方には、「申し訳ありません」と先に述べておきます。批判するなら、お薦めしなければいいのでは?そう思われた方も多いと思います。それでもここで紹介する理由は「なるほど。商売とはこうやってはじめるのか!」と感心したからです。

 本書の主張は極めてシンプルです。「おわりに」の一部を引用します。

「本書が、世の中で通説とされている「生産性」「効率性」といった外部のモノサシではなく、「真・善・美」を内在的判断する美意識という内部のモノサシに照らして、自らの有り様を考えていただくきっかけなれば、著者にとってこれほどの幸福はありません。」

 以上です。従来のようなロジック中心の「サイエンス重視の意思決定」ではこれからは立ち行かなくなる、ビジネスエリートは「アート」を学んで「美意識」を鍛えなければVUCA(ご存じない方は調べてください)の時代においてビジネスの舵取りをすることはできない、乗り切れないというわけです。

 その「美意識」は絵画を鑑賞し、哲学者の言葉に耳を傾けることで培われます。欧米のグローバル企業で働くエリートたちが、世界的に著名なアートスクールに通うのはそうした理由だからだそうです。今までの考え方の中心にある「サイエンス」を批判し「アート」へと導こうというわけです。

 ところが、「サイエンス」を批判する手法が極めてサイエンスなのです。最先端の経営学の学識を身に付け、ボストン・コンサルティングやコーン・フェリー・ヘイなどの超一流コンサルティングで働いた経験を持つ著者だけのことはあります。

 この本はベストセラーとなっています。「得意な技」を使って「得意な分野」を批判する。そりゃあ上手く行くわけです。「なるほど!商売が上手です!」と思わずうなってしまいました。

 さて、本書の中で、スティーブ・ジョブズについて触れています。「(ジョブズの意思決定は)一瞬の直感に導かれて行われていたことは確かようです」、「ジョブズは製造コストや在庫のシミュレーションを行うことなく・・」と書かれています。

 これには爆笑してしまいました。その理由にご興味のある方は以下のサイトをご覧ください(有料ですが)。 

https://www.businessinsider.com/apples-steve-jobs-was-an-expert-in-supply-chain-management-2018-3

 

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」

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第913話 ステイホーム週間は本を読もう(9)

2020年05月03日 | コミュニケーション

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。さて、いつもはビジネスに関わる内容をお届けしているこのブログですが、ステイホーム週間に合わせて「お薦めの本」を紹介しています。9冊目です。

「絵で見る十字軍物語」塩野七生 

まず塩野ファンの方々にお詫びしておきます。「ローマ人の物語」のような気宇壮大な歴史絵巻ではありません。私がこの本を入手した理由は、ドレの絵が見たかったからです。つまり画集として買ったわけです。私は19世紀の画家(イラストレータ)ギュスターヴ・ドレの絵の大ファンで「神曲」、「聖書物語」、「新約聖書」、「旧約聖書」などを持っています。

そうした「画集」の中では、「絵で見る十字軍物語」は異質です。この本は11世紀からはじまり16世紀まで続く約500年の「聖戦かつ愚行」の記録でもあります。

本書の構成は、左右見開き2ページになっています。右ページの上半分には地図とその出来事が起こった場所が〇で示されています。その下には「ごく簡単な解説(著者)」が書かれていますが、単なる解説文ではありません。ニュース記事のように簡潔でありながら、文学的とも言える上質な文章で綴られています。塩野ファンが多いのもうなずけます。

そして、左ページはドレの版画です。一切手抜きの無い写実的な表現で、「聖戦かつ愚行」と表現したように、信じられないほど愚かしい戦闘行為が次から次へと描かれています。その一方、物語の挿絵らしく詩的なイメージも伝わってきます。

さて、この本の中で一番かっこいい絵は「サラディン、登場」(88p)です。サラディンは、内輪揉めでなかなか統一ができなかったイスラム側を、聖戦(ジハード)の旗印を掲げて統合した最強の指導者です。これを描いたドレはフランス人ですから当然キリスト教徒であり、サラディンは敵の親玉です。それなのに馬上のサラディンは、剣を掲げるハンサムな騎士に描かれています。

次にかっこいい絵は「先頭に立って、獅子奮迅の働きをするリチャード」(110p)です。獅子心王リチャード(Richard the Lionheart)は第3次十字軍の英雄です。「ライオンの心」と名付けたのはイスラムの兵士たちと言われていますので、よほど強かったのでしょう。絵の中のリチャードは、戦闘の真っ只中にいますが、残念ながら防具に隠れて顔は見えません。

そして、この本の中で「絵が無い人物」が1人だけいます。「一人も殺さなかった十字軍」(142p)で登場する第6次十字軍を率いた神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ2世です。フリードリッヒはなんと外交交渉だけでキリスト教の三大聖地(エルサレム、ナザレ、ベツレヘム)を獲得しました。しかし、イスラム教徒を1人も殺さなかったという理由で、ローマ法王はこの業績を認めなかったそうです。ドレがフリードリッヒを描かなかったのも同じ理由なのかもしれません。とはいえ、そのことを「愚行」と言って笑えるほど、私たちは成熟しているのかといえば、疑問が残ります。

絵で見る十字軍物語

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第912話 ステイホーム週間は本を読もう(8)

2020年05月02日 | コミュニケーション

「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。さて、いつもはビジネスに関わる内容をお届けしているこのブログですが、ステイホーム週間に合わせて「お薦めの本」を紹介しています。8冊目はベストセラーです。

「失敗図鑑 すごい人ほどダメだった! 」大野正人

ベストセラーといっても子供向の本です。漢字にルビがふってありますから小学生が対象でしょう。挿絵はかなりマンガっぽいですが、飽きずに読ませるための工夫です。

そんな本ですが、すべてのビジネスパーソンにお薦めしたいのです。

その理由は、なによりも面白いからです。最初に出てくるトーマス・エジソンが「失敗王」であることは大人なら(子供でも?)知っているのではないでしょうか。「失敗=上手くいかない方法の発見」というのは、なかなか魅力的な表現です。登場人物はライト兄弟からカーネル・サンダース+αまで、幅広い分野の有名人が失敗譚を面白おかしく語っています(+αの登場人物は偉人ではないと思います)。

さて、ビジネスパーソンにとって参考なると思われるのは、失敗した時の偉人さん(?)たちの態度です。エジソンのような肯定的態度をとる人はほとんどいません。ほとんどの人がいじけて暗くなり、愚痴を言ったり怒ったりしています。失敗が人に与えるものは間違いなくダメージです。私たちが仕事で失敗をしでかすと感じるあの嫌な気持ちを、偉人さんたちもしっかりと、時には大げさなほど味わっていることがわかります。

この本の中でも、孔子の話はビジネスパーソンの例に近いように思いました。孔子といえば、小柄で白髪の温和な老人を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、実際の孔子は身長2メートル16センチの不細工なおっさんです。孔子の人生は、とにかく出世したくていろいろな会社(国)に就職したけど上手くいかず、最後までパッとしなかったビジネスパーソンのそれです。たくさんの弟子を引き連れて放浪し、優れた思想や言葉を伝えていったことは間違いないのですが、とにかく愚痴が多かったようです。もちろん、アンラッキーなことが多くて、本当の実力が発揮できなかったとも言えますけれど。

本の中に「失敗相談室」というコーナーがあって「いろいろな悩みを一気にかいけつ!」とあります。Q1「勉強ができなくて、バカにされた」からQ8「モテません」まで子供向けに書かれているのですが、8問全部、大人に置き換えてもまったく違和感がありません。Q1~Q8へのA(回答)は、ぜひ本を読んで確認してみてください。

 

失敗図鑑 すごい人ほどダメだった!

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第911話 ステイホーム週間は本を読もう(7)

2020年05月01日 | 研修

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「さぬきうどんの小麦粉の話―なぜおいしいのか・どうしたらもっとおいしく出来るのか」木下 敬三

この本は、書名の通り小麦粉について書かれています。「小麦粉の話」というなんとなくやさしそうなタイトルと、美味しそうなカバー写真から気軽に読めそうな感じがします。しかし、この本の実体は、あらゆる方面から小麦粉を科学した学術書と言って差し支えありません。小麦の品種や精製過程での化学的分析はもちろん、2万3千年前から始まる製粉の歴史の解説もあり、まさにこの1冊をマスターすれば、(素人レベルなら)堂々と「小麦粉博士」を名乗ることができます。

さて、学術書と言いましたが、論文調の硬い文章かといえば、そんなことはありません。あたかも著者が目の前で、読者にやさしく(しかし手抜きはせず)語りかけてくれるような文章になっています。たとえば、私たちは「このうどんはコシがあって良いね!」などと言います。その「コシ」とはなんでしょう。

「茹であげ直後のうどんは、中心部の水分が約50%あるのに対し、表面近くは80%になっています。この水分の差により、最初に噛んだときには、軟らかいけれど、内側は硬く、その差がうどんのコシとなって感じるわけです。別の言い方をすれば、軟らかいけれども噛み切ろうとすると力がいるうどん、と言うことになります。」(第6章 うどんの味の科学)

このように、全体を通して伝わってくるのは「うまいうどん」を作ることに対する著者の情熱です。とはいえ、ただ単純に「熱く」語っているのではなく、様々な視点から淡々と「おいしいっていうのは、こういうことです」と解説してくれるのです。

他にも良い小麦粉の選び方、打ち方、そして最高の品種「さぬきの夢2000」の話など、大変おもしろい本であることは間違いありません。もしあなたがうどん好きなら、読み終える頃には、うどん屋を開こうと思うことでしょう。

最後に、この本を手に取った理由をひとつ。

10年以上前のことですが、飯田橋の「悠讃」という、うどん屋さんでお昼を食べていた時のことです。あるお客さんが店主らしき人に「このうどん、ウマいね!」と声をかけました。すると店主(?)は「ありがとうございます!うちは香川県の木下製粉から粉を仕入れてますからねっ!」と、とても大きな声で答えていました。そのとき、私の大学時代の恩師・木下富夫先生が香川県坂出市のご出身で、弟さんが製粉会社をやっている、と聞いたことがあったのを思い出し、「!」ときました。先生に聞いてみると、まさにその通りでした。そして、先生の弟さん(木下敬三氏)が書いたこの本を読むに至ったわけです。本の内容が専門的で正確なのは、著者の経歴を見れば納得できます。

さぬきうどんの小麦粉の話―なぜおいしいのか・どうしたらもっとおいしく出来るのか

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