![]() | いじめの構造 (新潮新書 (219))森口 朗新潮社このアイテムの詳細を見る |
★ 学校教育病理は私の最も関心のあるテーマの1つではあるが、日々生徒と接しているとあまりにもリアルな事象なので、できれば触れたくないという意識がはたらく。しかし、恐いもの見たさで本書を読み始めた。
★ 本書は巷にはびこる「いじめ論」を批判するとともに、いじめのメカニズムの解明に果敢にチャレンジしている。本書の最大の貢献は、「いじめ」はキレイゴトでは手におえない現象であることを声高に叫んだことと、「スクールカースト」という概念を世に知らしめたことであろう。
★ 私が最も関心をもったのは第二章と第三章である。
★ 第二章では「いじめ」という現象をどう捉えればよいのか、先行研究を土台にしてモデル化を試みている。その際、「スクールカースト」という概念を導入しているのは実に新鮮だった。この概念はいじめ問題を理解し、また対処法を考える際に実に有効であるように思える。
★ 第三章では内藤朝雄氏の理論を紹介しながら、いじめのメカニズムに迫っている。やや抽象的で難解ではあるが、数字やグラフばかりで結局何の役にもたたない研究が多い中で、異彩を放つ「いじめ学」事始である。思わず内藤氏の著作も発注した。
★ いわゆる「いじめ学」はまだ端緒についたばかりの感がある。「いじめ」という現象が極めて人間的であるがゆえに、社会学も心理学も手探り状態の感じがする。
★ その点、本書もまだ発展途中の感じがした。「新書」という形の限界もあるのだろうが、研究書として読むべきなのか、意見文として読むべきなのか、とまどうところもあった。それだけ著者の熱意がこもっているということだろうか。
★ メカニズムの解明とともに、対処法についてより具体的な提言があるとありがたいと思った。今後の研究に期待したいところだ。
★ 「いじめ」というものは、人間の深いところに根ざしているようだ。仏教で言うなら苦しみが欲から生まれ、苦しみを断ち切るには欲を断ち切るより仕方ないということか。しかし、そんなことが簡単にできるわけはない。煩悩があるからこそ人間ともいえる。
★ そうであるなら、「いじめのない社会」などと言った絵空事を唱えるばかりではなく、「いじめ」とのつきあい方を体得していく方が有効であると思った。