じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

鳥飼玖美子「英語教育の危機」

2018-08-04 12:06:06 | Weblog
英語教育の危機 (ちくま新書)
クリエーター情報なし
筑摩書房


☆ 鳥飼玖美子さんの「英語教育の危機」(ちくま新書)を読んだ。痛快な本だった。

☆ 1970年以降の公教育における英語教育の変遷、2020年からの英語教育についての批判と問題提起が書かれていた。まさに正論だと思う。

☆ こうした正論が異端視されたり、無視されるところに、英語教育の課題があるように感じた。最近の英語教育改革を見ていると、教育的文脈ではなくて、政治的思惑(アメリカ合衆国の51番目の州を目指しているのではないか)さえ感じざるをえない。そもそもなぜ「外国語」が英語一辺倒なのかという疑問ももった。

☆ さて本書、4章で構成されている。
  第1章は、英語教育「改革」史
  第2章は、2020年からの英語教育ー新学習指導要領を検証する
  第3章は、大学入試はどうなるのか?-民間試験導入の問題点
  第4章は、「コミュニケーションに使える英語」を目指して

☆ 第1章、文科省の「慢性改革病」を批判し、「『批判的思考』や『アクティブ・ラーニング』という器だけを輸入しても、器の中身や作り方を吟味してカリキュラムのありかた自体を転換しない限り、教育改革も表層的なもので終わってしまう」(59頁)という。そして、そもそも「日本社会は本当に『自立した個人』を育てたいのか」(60頁)と疑問を投げかける。

☆ この指摘は鋭い。そもそも日本の教育の方針をつくっているのは有識者と呼ばれる一部の学者と文部官僚だ。背景には政治的な思惑や忖度もあるだろう。いずれにせよエリートたちである。彼らはタテマエでは「批判的精神」などと言っているが、ホンネは、一部の「将」たる人々はともかく、その他大勢の人々は「卒」として従順であって欲しいと願っているのではなかろうか。

☆ 第2章では、新学習指導要領について、「英語を英語で教えること」の是非を中心に課題が提示されている。

☆ 第3章では、大学入試に民間試験が導入されることに対して、それぞれの民間試験の特徴や課題が示されている。高校が民間試験対策に注力し、結局は「使えない英語」の再生産に終わるという指摘は全くその通りだと思う。

☆ 第4章では、そもそも「コミュニケーション」とは何かが問われている。少々専門的に感じたが、本来はここから掘り下げて考えるべきなのだろう。

☆ あとがきでは「学習のてびき」で著名な国語教師、大村はまさんの「ことばを育てることは、こころを育てることである」という言葉を紹介し、「『こころを育て、人を育てる』教育であって欲しい」と結んでいる。


☆ 考えさせられる本だった。著者が指摘するように英語教育は改革の連続だが、「使える英語」が浸透しているとは思えない。むしろ最近感じるのは英語力の低下である。その根本は中途半端なコミュニケーション偏重主義だと思う。それに国語力の低下だ。

☆ 公教育における「英語」はミニマム・エッセンシャルをどう設定するかということだ。日常会話を目的とするならサバイバルイングリッシュを反復練習すれば良かろう。シチュエーションを変え、ロールプレイングをすればよい。

☆ 「読み・書き」も含めるとなると、文法、構文、単語は必須だ。それに、テレビやラジオ、新聞や出版物と言った媒体を通して、長時間英語に触れなくてはならない。そこまでするかどうかだ。全生徒に課すかどうかだ。

☆ 大学入試で「英語」が用いられるのは、それを通してその人の学習能力を見ようとしているのであろう。「英語」はどれだけ学習に時間をかけたかを見る尺度として好都合だ。いわばそれだけのものである。あとは大学に入ってから、あるいは企業に入ってから必要な語学力を身につければ良いのだ。機会(幼少期に外国で暮らすとか)に恵まれ美しい発音ができる人は幸いだが、その臨界期を逃した人は、文法からしっかりと基礎固めをした方が結局効果的だと思う。

☆ 国語力の低下については別の機会に譲るが、英語学習の弊害について一言。英語学習には多くの時間が必要だ。将来、英語で生計を立てようとする人はともかく、英語学習に時間をとられることは他の時間を削ることになる。今日の大学入試はむしろ英語偏重とさえ思える。 
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「シン・ゴジラ」

2018-08-04 00:00:09 | Weblog
☆ 映画「シン・ゴジラ」(2016年)を観た。面白かった。

☆ この「ゴジラ」は、大人向けの映画だ。といって決してエロや暴力があるわけではない。人生経験を積んだ方が面白さが味わえるという意味だ。

☆ 「ゴジラ」が原子力発電所の比喩であることは容易にわかる。暴走した原発にどう立ち向かうか。会議に翻弄される政府首脳の様子は実にリアルだ。(環境大臣を演じた横光さんなど少し前まで本当に代議士だったし。)

☆ かといって、意思決定が回りくどいということで、即、憲法改正、「緊急事態条項」などと暴走するのはちょっと違うと思う。ここは冷静にならなくては。

☆ 政治家、官僚、学者、「劇」だから誇張されているのだろうが、それぞれの特徴が出ていて面白かった。人って「らしく」なっていくんだなぁと思った。

☆ 豪華なキャスト陣。映画会社の意気込みが感じられた。


☆ はるか昔、モノクロの「ゴジラ」を観たとき、よくできた特撮だったが、作り物だとすぐにわかった。それに比べて、特殊効果の技術の進歩はすさまじい。あまりのリアルさに感心した。自衛隊の装備も公開できるものは余すところなく披露されていた。それもリアル感につながっている。 
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