悪夢のような出来事だった。仕事から家に戻るとヘルパーさんがばあちゃんの食事の準備に来られていた。洗濯して乾いたばあちゃんの衣類を自分でタンスにしまってもらうためにばあちゃんに渡すと、ばあちゃんが突然、ヘルパーさんが今頃、勝手に私のタンスから衣類を出してくると怒り出した。着ていたものを洗濯したことを説明しても、これは私が着ていない衣類だと頑として認めようとしない。その上、これから私の部屋にヘルパーさんが勝手に入らないようにして欲しいと言い出した。ヘルパーさんにお世話いただいて生活しているんだから部屋に入らないようにはできないというと、長生きしたいとは思わん、楽になる薬があるんだったら出しておくれとまで言いだす始末。興奮は収まるどころか上がるばかり。おまけに最近、敷布団の下に置いている私の財布のお金が減っているとまで言い出した。滅多なことを言うもんじゃない。一体、財布の中にいくら入っていたん?と尋ねると、そんなことはわからんと言う。それでは減ったのか増えたのかもわからないはず。論理では説明できないのでは為す術がない。
認知症が進行するとお金がなくなると言いだすことは知識としては知っていたけど、現実に目の前で興奮して騒ぐばあちゃんを見て、情けなくて悲しくなってしまった。
毎日、朝晩の食事作りに来ていただいている何人ものヘルパーさんに対しても失礼千万なこと。あまりにも申し訳なくて仕方がなかった。ヘルパーさんに平謝りしてひたすら非礼を詫びた。ヘルパーさんは多くの認知症の老人と関わってこられた経験からか、少しも動揺されておられなかったけど、ただ申し訳なかった。
礼儀正しく優しいばあちゃんのまま天寿を全うして欲しいと願っているけど、これから先はそう理想的には生きられないのかもしれない。老いの現実は厳しいものだ。