杜若:燕子花;いちはつ;一八:鳶尾花(アヤメ科)池沼あるいは湿地に育つ。葉はやや広い剣状で、花菖蒲とは異なり、中央に縦に通る主脈がふくれていない。初夏、70cm位の花茎の先端に濃紫の花菖蒲に似た花を開く。紫紺の燕がひるがえるさまに見えるので燕子花と書く。「から衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」と三河の八橋に咲き匂うこの花を見て、都への切なる思いを詠んだ、『伊勢物語』の業平の故事もある。今も愛知県知立町八橋の無量寺には、沢山の杜若が栽培されている。「いちはつ」も同類であるが、剣状の葉の主脈が太くふくれている。花茎の丈の30cmとやや低く杜若よりもひなびた趣である。花の色はふつう白色、紫色もある。大風と火事を防ぐといわれ、昔は屋根の上によく植えられたものである。「一八とも鳶尾花」とも書く。「降り出して明るくなりぬ杜若 山口青邨」「杜若までの寂しさ消えにけり 永田耕衣」「高きよりおつる筧や杜若 橋本鶏ニ」「燕子花水のにほひをのばらしむ 朝倉和江」「水の面の暮色いつより燕子花 根岸善雄」「いちはつの花すぎにける屋根並ぶ 水原秋桜子」「いちはつを手に使せし妻かへる 百合山羽公」「袱紗解くごといちはつの花ひらく 轡田 進」(一八も 杜若なる 紫紺の花 ケイスケ)