(1986年角川大映/原作 赤江瀑)
何度観ても、最高である。
これは、まるで三島文学。
大学生になって刀術を始めるお子さんのために模擬刀をリサーチ
しているお父さんから、ある模擬刀の標準仕様について「龍図の
金具と菖蒲の鍔というのは何だろう」という話題が出た。
私はこれは「五瑞の合わせでは」と即答したが、果たして合っている
かどうかは分からない(笑)。
画題では、文人画などでは五瑞という概念がある。
ちょっと調べてみた。
これは中国の天子が公・侯・伯・子・男の五等の諸侯に賜ったとされる
瑞玉に始まり、瑞相としての画題では文人画に五瑞が多用された。
植物おいては、葵(あおい)、菖蒲(しょうぶ)、蓮(はす)、柘榴(ざくろ)
および枇杷(びわ)を五瑞とした。
これとは別に、漢代に黄龍、白虎、喜楽、甘露、木連理を五瑞とした
ことも、画題設定の際には関連して来るだろう。
その五瑞については、以下だ。
黄龍・・・こうりゅう。五行思想に現れる黄色の竜。黄金に輝く竜との
異説あり。
白虎・・・びゃっこ。中国の伝説上の神獣である四神の一。五行説では
白は西方の色とされ、白虎は西方を守る。
喜楽・・・きらく。中国の戦国から漢代に発生した黄老思想の中の一。
甘露・・・かんろ。古代中国で天子が仁政を行なった治世に天が降らせた
という甘いツユ。
木連理・・・もくれんり。中国における祥瑞(しようずい)の一。根や幹は
別々だが、枝がひとつに合わさっている樹木。『白虎通』封禅篇では、
王者の徳のめぐみが草木にまで及ぶ時、朱草や連理の木が生ずると
してある。別意は男女の契が深い仲の喩え。日本では『続日本記』の
大同年間の出典が初見。
まあ、武士は中国故事の瑞相をつとめて好んだ。
龍図と菖蒲は、黄龍(おうりゅう、とも)と菖蒲=勝負の掛け合わせ、
「五瑞の合わせ」であろうと私は推察している。
あながち、外れていないと思うが、詳しいことは美術史の学識経験者
に尋ねたほうが正確かも~(^^;
まあ、なんといっても、中国は今はあんな国になってしまったけど、
古代中国は世界大文明の一であるので、理知的な思想等も世界
トップクラスの叡智を備えていた。「中華=世界の文化は我らから
始まる」とする思想の通り、その学問や哲学的深さは地球の中で
突き抜けていた。西方なら古代ギリシアのように。
龍と菖蒲の合わせ画題は、哲学思想からすると違和感は無いと
私は思います。
ただ、龍は龍で、いろんな龍があって、これまた意味が深い。
絵描きさんというのは、特に日本画や南画を描く人たちは、こうした
中国故事にも精通していたのだろうなぁ。
ということは、日本刀の刀装具の職方たちも、絵師と同じく一般的な
常識的学識としていろいろ知っていたということだよね。
絶対に現代社会のあたしたちのほうがバッカ~ンのような気がする。