稽古なる人生

人生は稽古、そのひとり言的な空間

No.78(昭和62年8月7日)

2019年11月06日 | 長井長正範士の遺文


○健康法について
全国信用金庫組合長 小原鉄五郎氏(85才)は、
1.何でも食べる、2.頭を使う、3.体を使う、4.苦労する、5.わだかまりを持たぬ。
人間はいじわるをしてはいけない。夜ねむれない。これが私の健康法だと言われている。

なるほど良いことを言われている。私もおそまき乍ら見習って実行したい。
尚、小原鉄五郎氏は下の仕事をしている人には、
1.正確な仕事をせよ、2.公私の別、はっきりせよ、3.エチケットを重んじる。
相手と気持ちよくつき合う、よい感じを与える。という方針を徹底されている。
私共剣道家の学ぶべきところである。

此頃の若者の中にはエチケットなんてどこ吹く風、世の中は乱れたものである。
皆、私共は“三尺さがって師の陰を踏まず”と習った。今までこれを怠ったことはない。
今は三尺飛び上がって師の頭をなぐる時代で嘆かわしいことである。

以上一応健康長寿についての項は終る。

○剣道に於ける左足の大切さについて
まず左足の大切さを申し上げる前に言っておきたいのは、
左手、左足は自分を守る大事な手足であり、右手、右足は攻撃の手足であるということを
大略承知して貰った上で本論に入りたい。

○左足は一足一刀の間合に於いては自分であること。
右足は相手であるということ。従って左足(左拳も)は相手に対し正中線に真っすぐむけ
(左拳も自分の中心からはずさない)外むき(撞木足)にならないよう、又、
軽くたなごころで立ち力まず、かかとを異常なまであげないこと。
(右足も同様たなごころで立つ)つま先に力を入れて立つと盗み足が出来ない。
盗み足は以前に申し上げたが尺とり虫のように、つま先で屈伸をくり返し進むことをいうのである。
眞剣勝負で、寸、秒を争う間合の攻め方に、こうして、じりじり攻めていったのである。
つぎ足を盗み足と勘違いしている人があるが、これは間違いである。

一寸横道にそれましたが左足は攻防打突に於いて、いつでも軽く踏みしめ、
ハッとした時、打ちに出る瞬発力の手助けをしなければならない。
若し左足を力んで構えて、そのまま力を入れて右手右足で打ちに出ると
起こりがしらが大きく、相手に見破られ打たれるのである。

一刀流では特にこの足ずかいをやかましく言っている。
竹刀剣道は主に送り足であるとは誰しも承知の上であるが、
私は一刀流を学んで17年、此頃ようやく次のように感じとり私は実行している。

即ち、送り足は歩むが如しと。ある時は後へ間をとる時、前の右足から下がり、
即ち右、左と下がる。その時、相手が面を打って来た時、すかさず左足を約30度左へ開き、
相手の出がしらの甲手を打つ(完全に体さばきが出来ている)手前みそではあるが、
これが私の得意のわざである。

これもひとえに一刀流のお陰である。
若し相手が正面を打ってきた時、体さばきすることなく直線的に右足前で、
その出がしらの小手を打ったとしても余り効をそうさない。面の方が有効打となる。
それを左足前で体を左(約30度)へさばき、小手を打てば、
相手は眼の前に相手が居らず自分の右へ開いて、小手を打たれたのだから精神的ショックは大で、
ハッとして「参った」と感じるのである。これが相手の心を打つという一つの例ではなかろうか。

では一刀流ではどんな形の中に以上のような足ずかいがあるのか次回に謹んでご紹介申し上げたい。
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