稽古なる人生

人生は稽古、そのひとり言的な空間

No.83(昭和62年8月20日)

2019年11月15日 | 長井長正範士の遺文


○さて、この左足の大切さについては、去る 58年8月12日(金)の朝げいこの
時、一刀流刃引の形のうち「裏切」と「拳の払」との仕方の左足の使い方を実
際にやって見て貰いましたが、その頃まだコピーをして皆さんに差し上げてお
りませんでしたので、この際、記録に残しておくため書きとめておきます。

「裏切」は打方が仕方の右小手を打ちにくるので、仕方はこの剣を打ち落とす
とき、左足を左に寄せ、半ば右向きになり打落します。これは先ず左足を左に
寄せ、それから打落とすのではなく、これを一拍子で行うのです。

「拳の払」では打方が仕方の左拳を払いにくるので、仕方は左足を右に寄せ(
右足の後ろへ)半ば左向きになり、剣を打落すのです。このように「裏切」で
も「拳の払」でも自由自在に左足を働かせていることに留意して貰いたいので
す。

○次にこの左足について大変興味深い記事を剣友、澤田兼男教士に頂いたので
皆さんにも参考になるやも知れんと思い転記させて頂きます。

毎日新聞(夕刊)昭和59.2.7に、東京工大教授、平沢弥一郎氏のお説、これを
編集委員の今吉賢一郎氏が次のように書かれています。以下要約させて頂きま
す。

雪の東京でたくさんの人が転んだ。19日から23日まで、雪による転倒事故で救
急車は1430回も出動、入院は 722人にもなった。どうしてこんなに転んだのだ
ろう。平澤教授(59)(保健体育)は「左足ですよ、左足に注目すべきです」
と云われた。足の研究30余年、著名な“足の博士”の学問的裏付けのある発言
である。

東京に雪が積もっている間、平沢教授は、たびたび外に出て人々の歩き方、転
び方を観察した。右足を滑らせたか、左足を滑らせたかで、大変な差るようだ。
左足を滑らせた人は、そのまま倒れてしまうことが多い。右足だと、滑らせて
も、左足が安定している限りは大丈夫だ。

平沢教授が観察した転倒例は一件の例外を除いて、すべて左足を滑らせたもの
だった。転ばないように慎重になっている人は左足を安定した場所に置こうと
するようだ。マンホールの鉄の蓋の部分は雪が早めに融けて安全な場所となっ
ていた。平沢教授がじっと観察していると、なんと、この部分には、通行人の
大半が左足を乗せて通った。

教授の学説は既によく紹介されているが、一口で言えば「人間は左足で立つ」
ということ。「右大脳半球が支配する左足を主軸として立っている」「左足が
人間の大黒柱」といってもいい。これは教授自らから開発した測定機器によっ
て数万人の歩行を観察した結果である。

「左足は支持脚、右足は運動脚」多くのデータから一般に右足より左足の面積
が大きいこと。何かを目ざして歩行する時、真っすぐ目標物に向かっているの
は左足であって右足ではないことなどが明らかになった。「左足は安定保持と
方向性、右足はスピードコントロールと全身の器用性の役割を分担している」
と教授は結論ずけた。

左足が主軸として、その安定保持の役目を十分に果たしていればいい。左足が
不用意のため、その役割を果たしきれなくなった時が、転倒につながる危機だ。
東京に雪が積もっている間、平沢教授が知人と別れる時のあいさつはこうだっ
た。「お気をつけてください。左足」

○いつも「左足が主軸」になっている人は身構えも整うし、危なげない。それ
なら日常的に「左足が主軸となるように訓練のようなことが可能だろうか。
「可能だし、歩き方が下手になってしまった(続き)
コメント
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