上段の霞:(中略)仕方、右足、左足と後へ引き、とっさに剛の意に転じ、打
方の水落を突いて勝つ。
逆の払:(中略)仕方、右足、左足と二歩退き云々。・・・等、いずれも後へ
下がるのに前の右足から先に左足の後ろに引き、ついでに左足を右足の後ろに
引く。この辺のところ、いずれも仕方が左足が地に着く瞬間、打ちに出るよう
に組太刀で作ってある。即ち前々から私が何遍も申し上げているように、左足
に力を入れ、ふんばってから(左足を後ろへ蹴るように力んで打ちを出す)打
ちを出さないよう、これらの形で体得(足におぼえさすまで)しなければなら
ない。勿論打方はここをよく承知の上、自分も亦、足運びに気をつけ仕方に呼
吸を合わせるよう呼吸を合わせえてやることが大切である。如何に左足が軽快
に動かなければならないかおわかりと思う。
尚又、更に言うなれば前述の如く、勝負は殆んど歩み足で勝っており、特に左
足前で体捌きをして勝つ技も多いことに注目して頂きたい。例えば、
拳之払:これは切先をつけて相手の心を試み、打ち間を知るのを読心というの
であるが、この拳の払で読心術を学ぶにはもってこいの技である。この仕方の
足ずかいは歩み足で調子よく美しく上品に勝つ技を教えてある。
浮木:は真の真剣の理がこもり、争わずして勝つ上乗の太刀技であり、私はこ
の技をご指導頂いてから大変感銘を受け、この技を体得するに当り、どれほど
自分の人生に役立ったか計り知れない。皆さんも竹刀剣道で是非ともこの浮木
をやって貰いたいものである。これとて、心、技のとどまるところなく、歩み
足で位攻めで進んでゆく。そして争わないで勝ってゆくのである。素晴らしい。
切り返し:これも歩み足で攻めてゆき、堂々と勝つのである。
左右の払:仕方左足前で打方の右小手を打って勝つのである。
陰の払:仕方左足を軸にして右足を引き、尚左足を軸にして又右足を前に踏み
出して、打方の右小手を打ち、又右足を引いて陰の残心をとる。(これを例え
ていうと左足を扉の要のように、扉の蝶つがいのようにし、左足を中心に右足
を開いて閉めて開いてしなよくつかうのである。その他順不同になるが、
巻返:(中略)仕方は左足を引き応じて喰違いに右足出し云々・・・
引身之合下段:仕方(中略)右足を引き脇構えにはずず云々・・・
発(ほつ):微妙な左足のつかい方。(一刀流極意の本の161頁~162頁)
長短:打方左足から四歩踏み込み長駆して突きにくるに対し、仕方の足ずかい。
詰(つまり):仕方切落しざま突き進み、とまることなく歩み足で位攻めする。
尊い技。
余(あまり):仕方は「長短」と同じように足ずかいし、打方の力を余し、そ
の余力を利してわがものとなし、余すところなく勝つ。
以上、一刀流大太刀五十本の中で主な変わった足ずかい、特に左足で勝つ等の
大切な技を挙げてみたが、まだまだ細かい足ずかいが五十本の中にあるが、こ
れ等を列挙すると一刀流の組太刀五十本を全部詳解しなければ尽せない故、省
略させて頂く。詳しくは「一刀流極意」を読んで頂ければ幸甚である。
このように一刀流を毎日稽古していると思わず竹刀剣道で攻防打突の間に歩み
足で留まることなく或は右足後へ或は左足前へ、又左足斜め左前にと自由に歩
んでくれていることに気ずくのである。私は今から十年前にハッとこの足ずか
い、特に左足の軽快な動きに気ずき、それ以来私が色紙に何か書く時、関防印
(“謹んで書きはじめます”の意味で、その形は縦に長いもので、書の右肩に
押す朱印で、自分の好む詩、文を刻むもの。)
一歩不留:(一刀流極意の484頁にあり)とし、又私の終生の目標とし座右の銘
としております。さて次に左足の大切さに関連して、日本剣道形を考えて見た
い。太刀七本をみると、先先の先で勝つ技は一本目、二本目、三本目、五本目
であり(続く)
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【欄外】
◎教えてある
剣道には教えはない。ただこの道を歩めと導くのみとはずっと以前に申し上げ
たがここで教えてあると書いたのは矛盾していると感じられますが、これは相
手が教えるのではなく指導して貰ってなるほどと判って体得した自分の立場か
ら教えられたと感じとり、始めて「教えてある」と言う言葉の表現をしたので
ある。(以下同じ)誤解のなきようお願いしたい。