【原産地は中国、室町時代に渡来】
芳しい香りの花の代表格といえば、クチナシにキンモクセイ、そしてこのジンチョウゲだろうか。甘い香りが遠くまで匂うことから「千里香」という別名もある。ジンチョウゲ科の常緑低木。3~4月ごろ、枝先に10~20個の小花を手まり状に付ける。先が4つに裂けて花びらのように見えるのは全てガクで、花弁そのものはない。
和名の沈丁花は同じジンチョウゲ科の香木ジンコウ(沈香)とフトモモ科のチョウジ(丁子・丁字)に由来する。原産地は中国南部。日本には室町時代の1480年代に渡来したといわれる。雌雄異株だが、日本で見られるのはほとんどが雄株のため果実を見かけることは少ない。花色は内側が白で外側が紅紫色のものが一般的だが、園芸種には花全体が白い「シロバナジンチョウゲ」や葉の回りが白く縁取られた「フクリンジンチョウゲ」などがある。
中国では「瑞香」と呼ばれる。昔、山林の中で寝入ってしまった僧侶がいい香りで目覚めると、辺り一面にこの花が咲いていた。そこで初め「睡香」と名付けられたが、吉祥を表す瑞を当てて「瑞香」の名前が与えられたという。ジンチョウゲは中国で「名花十友」または「名花十二客」の1つに数えられ、古くから南画の画題としてよく取り上げられてきた。
香りがいいジンチョウゲは日本の歌謡曲などにも多く歌われてきた。有名なのは松任谷由実の「春よ、来い」。♪淡き光立つ俄雨(にわかあめ) いとし面影の沈丁花……。ほかにも石川さゆりや石川優子の持ち歌にもずばり「沈丁花」という題名の歌があった。ジンチョウゲは東京都武蔵野市でツツジやスイセンなどとともに「市民の花」に選ばれている。「部屋空ろ沈丁の香のとほり抜け」(池内友次郎)。