【優れた品質の大和トウキ、奈良県〝復活〟に本腰!】
セリ科シシウド属の多年草。漢方薬に処方する生薬「当帰」として栽培され、6~8月頃、傘を大きく開いたような複合散形花序に白い小花を多数つける。草丈60~90cm。秋に根を掘り上げ湯通ししたうえで乾燥させ「当帰芍薬散」などに用いる。当帰は末梢血管の拡張成分を含み、冷え性や貧血、生理不順などに効果があるとして、漢方では婦人病薬に欠かせない生薬になっている。葉にはセロリに似た香りがあり、浴湯に入れると体が温まるという。
主な栽培地は北海道と奈良、和歌山県。奈良・吉野地方で古くから栽培されてきたものは「大和トウキ」と呼ばれる。『本草弁疑』(1681年、遠藤元理著)の記述などから、江戸時代前半には既に大和地方で栽培が行われていたらしい。国産のトウキは中国産の「唐トウキ」と区別するため「日本トウキ」とも呼ばれる。両者は全く別種の植物だが、その根はよく似た薬効成分を含む。
「大和トウキ」は収量では昭和に入って北海道で栽培が始まった「北海トウキ」に劣るが、品質面では大和の方が優れているといわれる。中でも和歌山県境に近い奈良県五條市大深地区で産するものが最高として「大和トウキ」は「大深トウキ」とも呼ばれてきた。ただ、奈良県内の生産農家・生産量は激減しており、今では「北海トウキ」が主流に。一方で、中国産の「唐トウキ」の輸入も増えている。
こうした中で奈良県が「大和トウキ」の復活へ動き出した。2015年7月、官民一体で栽培量の増加や新商品開発、販路開拓などに取り組もうと「奈良県漢方のメッカ推進協議会」を設立した。既に葉を加工したお茶などが商品化されており、肉まん、つみれ、チリソースなどの試作品づくりも進む。さらに化粧品などへの活用も検討中という。「当帰よりあはれは塚の菫草」(松尾芭蕉)