【「春日宮曼荼羅」や北斎「渡船山水図」も】
神戸市立博物館で開催中の開館50周年記念特別展「よみがえる川崎美術館―川崎正蔵が守り伝えた美への招待」の会期(10月15日~12月4日)も余すところあと約20日間。11月15日には一部展示替えで国宝『宮女図』や葛飾北斎最晩年の作『渡船山水図』、南北朝時代の『春日宮曼荼羅』などの展示が始まった。通期で展示中の狩野派の煌びやかな屏風や円山応挙の襖絵などとももう一度対面したい。というわけで再度博物館を訪ねた。(写真は川崎正蔵の肖像画から)
国宝『宮女図(伝桓野王図)』(個人蔵)=下の写真、部分=は14世紀の中国・元時代の文人画家銭舜挙の作と伝わる。男装姿の女官を繊細な線で描いた作品。中国人物画の名品といわれ、足利義政が所蔵した東山御物として長く足利将軍家で愛蔵されたという。2階第3会場の出口そばに、川崎正蔵が「命の次に大切な作品」として愛蔵した『寒山拾得図』に代わって展示されている。かつての川崎コレクションの中で国宝に指定されているのはこの『宮女図』と中国・南宋時代の直翁筆『六祖狭担図』(大東急記念文庫蔵)と『千手観音像』(東京国立博物館蔵)の3点。『六祖狭担図』は今展で11月22日からの公開が予定されている。
15日から展示が始まった葛飾北斎の『渡船山水図』(北斎館蔵)は北斎88歳のときの作品。緑の木々が生える岸壁の近くの水面を2艘の小船が進み、画面上部奥に白と藍色で描かれた険しい山が聳える。ゆったりと時が流れるような幻想的な情景は北斎の心境を表しているかのようだ。『春日宮曼荼羅』(MAO美術館蔵)は約700年前の春日大社の境内の様子を描いたもので、一の鳥居から画面上方に参道が伸び本殿や若宮社に至る。神体山の御蓋山の山頂には神鹿、その上部には春日の神と本地仏が描かれている。画面の左下には今は塔跡だけが残る東西2つの五重塔も。この曼荼羅の隣には興福寺の祈雨修法の本尊として約580年前に製作された巨大な『最勝曼荼羅』(奈良国立博物館蔵)も展示されている。
通期展示の伝狩野孝信筆『桐鳳凰図屏風』(林原美術館蔵)の右隣には雲谷派筆『韃靼人狩猟図屏風』に代わって、会期途中の11月8日から狩野探幽筆の『桐鳳凰図屏風』(サントリー美術館)=下の写真=が展示中。6曲1双で、右隻には金地に雌雄の鳳凰が雛を挟んで寄り添う場面、左隻には優雅に飛翔する鳳凰を別の1羽が岩場から見上げる場面が描かれている。この屏風も1902年の明治天皇の神戸行幸の際に制作された屏風5点のうちの一つで“名誉の屏風”と呼ばれている。
11月15日からの展示替えでは藝愛筆の『梔(くちなし)に双雀図』(京都国立博物館蔵)や同じ藝愛筆の『芦に蟹鯉図』など4点(個人蔵)、狩野山楽筆『芙蓉図』(個人蔵)、伝白良玉筆『観音図』(個人蔵)、伝王李本筆『雪中花鳥図』(東京国立博物館)、因陀羅筆・玉室宗珀賛『寒山図』、伝夏珪筆『風雨山水図』なども新たに展示されている。前回見学したのは10月28日。今回も同じ平日の午前中だったが、観客が以前にも増して多く特別展の注目度の高さを表していた。