「許遠婆<コオバ>”「以上です。」と、オホクニは沼河比売に妻恋い歌を歌うのです。あなたならどうしますか???自分の家にまで来て、それも夜中にですよ。人目を憚るどころの話ではありません。大声で歌うのです。まして相手は乙女です。恥ずかしくて戸を開けるどころの話ではありません。
「まあ!!!何と図々しい男なんでしょう。恥ずかしいたらありゃしないは・・・・」
と、最初は思ったに違いありません。だから戸は堅く閉じたままです。それでも、オホクニの恋の歌は続きます。次から次へと流れ来るオホクニの言葉は、聞いておりますと、乙女ににとって、それはそれは天地が避けるほどの大変うれく久頼もしい、今までに経験したことのない求愛の言葉です。身に余る褒め言葉が次から次へとせせらぎの音のように流れきます。
“佐加志売遠<サカシメヲ>・・・・久波志売遠<クワシメヲ>”
と、歌の中で自分が呼ばれたのですよ。「賢くて、その上、麗しい姫君よ」とです。乙女にとっては、それはそれは天地がひっくり返るほど歓喜な気分になる言葉なのです。大変うれしく、すぐにでも戸を開けたいようなうっとりとする気分になるのが普通です。当時の社会では、女性は、特に、人前に出歩くことなどしない、深窓のそれこそ御令嬢です。「あなたが好きです」なんてことを、大声で直接に訴えられ、それも、直接、自分の耳にするなんてことは、決して、現実にあり得る話ではありません。それが、自分の目の前で、今、行われているのです。でも、直ぐに、「はいそうですが。分かりました。どうぞお入りくださいな。」だなんてことは、乙女にとっては、そんな端たないことは出来るはずがありません。
だから、暫く戸を開くことはしません。それを古事記には
”沼河比売未開戸。自内歌曰”<ヌナカハヒメ イマダ トヲヒラカズテ ウチヨリ ウタヒタマハク>
とあります、手紙か何かに自分の今の思いを書き送ったのでしょうか。此処では”歌曰<ウタッテイワク>“とありますが???乙女が身も知らぬ男性に、直接、声掛けするなんてことは当時の社会にはなかった事だと思うのですが、・・・・・でも、「イザンギ・イザナミ」の先例がありますが、どうでしょうかね????