沼河比売が冗談めかして歌をオホクニに送りますが、それを悪いと反省されたのでしょうか???続いて、歌を歌うように戸外に呼びかけます。
“阿遠夜麻邇。比賀迦久良婆<アオヤマニ ヒガ カクラバ>
「青山に日が隠れたならば」です。声の調子までも違っていたのではと思います。此処から以後は、乙女心をこめて歌います。辺りは静まり返っております。オホクニの耳にようやく届くばかりの声の小さきは、余計に、ヒメの真剣さが伝わるはずです。やや間を置いてから、再び、語りかけます。
“奴婆多麻能。用波伊伝那牟<ヌバタマノ ヨハ イデナム>”
「ぬばたま」は夜の枕詞ですが、広辞苑では「ヒオウギの種子で丸くて黒い」 で「むばたまの」になると「「夜、黒、夕、月、暗き、今宵、夢、寝、などの枕詞」と説明があります。また、宣長は、ある人が
「烏扇の葉は、羽に似たる故に、此の草を野羽(ぬば)と名け、その実を野羽玉(むばたま}とは云うなり。」
と、言っていると紹介しております。烏扇とは檜扇の事だそうです。
なお、これを読んで始めて知ったのですが、「ぬばたま」と云う言葉が「枕詞だ」と思っていたのですが、本当は、「ぬばたまの」で、「の」が付いて始めて枕詞となることがです。「八十の手習い」???ではないのですが、お恥ずかしいことですが、これもまた、「目にうろこ」です。