懸け詞です。「ふみ」、手紙を返されて、私の涙で袖はいつも濡れていますよ。どうぞ私の気持ちをお察しくくださって、何とかご返事ください。と云う意味を込めた歌です。もう一回その歌を
”我が恋は ほそ谷河の まろ木ばし
ふみかへされて ぬるヽそでかな”
です。しかし、ご存じでしょうが、今、普通に我々が読んでいる平家物語とは、少しばかりその内容の異なる「長門本」があります。それに書かれている通盛の歌は
“踏みかへす 谷の浮橋 うき世ぞと
思ひしりても ぬるヽそでかな”
です。この歌には「ほそ谷河」と云う名前はありませんが???
このようにそこに書かれている歌の内容は、聊か、違いがるものの、兎も角、「この落とし主は誰ぞ」と、女院はお尋ねになられます。しかし、女房達からの返事はありません。しかたなく、心の中では、薄々とは察しておられたのでしょうが、そのお文を声に出してみんなの前で御読みになられます。その時の小宰相の気持ちはいかほどだったでしょうか、平家物語には何も書いてありませんが、お察しください。
これ又、この場を演じるとしたらいかなる所作で、十二単衣の女優さんは演じるでしょうか。考えても楽しくなる場面ではないでしょうか。登場人物の心のありようを写し取る難しさが分かるような気がします、私はあの大女優の京マチ子の姿を思い浮かべながらこの文を書いております。
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