■沸き立つ業界
電子書籍を読むにはそれを読むためのリーダー(端末)が必要だ。パソコン、携帯電話、携帯ゲーム機はすでに身近にある。これにiPadのようなタブレットPC、キンドルなどの電子ペーパー専用のリーダー、そして今、携帯各社が売り出しているスマートフォンなどだ。それぞれの備える機能によってどんな内容の電子書籍を読むのがふさわしいか、得意分野が想定されている。
では、電子書籍は何がどう便利であり、いったい読者の生活にどのように役立つのだろうか。
この点について、リーダーメーカーや電子書籍販売者や出版社などは、これをビジネスチャンス拡大と考え、ほとんどがその立場から発言している。電子書籍の利便性については「宣伝文句」的要素が強いが、おおむね以下のようなことが喧伝されている。
①印刷・流通コストが圧縮されるから、紙の本よりも安価な価格で提供できる
②絶版した本の復活、有効利用が可能
③出版社は在庫を抱えなくて済み、倉庫が不要になる
④読みたいときに瞬時に読みたい本を入手できる
⑤売れ筋本の重版待ちという状態がない
⑥Webサイトへの接続によって、読書内容をさらに深められる
⑦動画や音声を付け加えることで、視聴覚障害者や高齢者などにも役立てることができる
⑧大量の本を携帯端末に収納でき、いつでも好きなときに読める
こうして見ると、読者、出版社、それぞれにとっても、いくつかの利点があるのは確かだろう。しかし、ことが簡単に進むには、今の環境では難しいのが現実だ。
■7割が読書量減
毎日新聞が実施した「第64回読書世論調査」の結果発表(2010年10月26日付)の見出しは「電子書籍に戸惑い、紙の印刷愛着深く」。
まず、「以前に比べて読書量が減った」と感じる人が7割以上いて「増えた」人を大きく上回っている。生活スタイルが変化し読書よりも他のことに時間を費やすことが増えたのが主な理由だ。
■拒否感持つ人77%
電子書籍を読んだことがある人は、10%にとどまっている。
電子書籍を読んだことがない人の77%が「読みたいとは思わない」と答えている。
一方「読んでみたい」は21%で、その理由は、「書店に行く必要がない」「かさばらずに持ち歩ける」など、主に便利さを理由に挙げている。
しかし、「読みたくない」理由の第1は「紙の本に愛着がある」が33%、次いで「目が疲れる」30%の順で、電子書籍の利便性とはかみ合わない理由で拒否されていることがわかる。
■利便性だけでは…
この調査結果を見る限りでは、電子書籍の前途はまだまだぼんやりしている、というのが率直な感想である。もちろんそれは、これから電子書籍を広めていく側の姿勢如何によって大きく変化する可能性も含んでいるのだが…。
電子書籍が日本で広まるためには、発信側・制作側にまだまだクリアすべき技術的事柄などが多くあるが、それ以上に大きな壁は、読者、つまり作ったはいいが、果たして誰がそれを欲して読むのかという問題が大きく横たわっているようだ。果たして、読書に利便性がどれだけ求められているのか。
以上、電子書籍はこれから広まるのかという視点で個人的に思っていることを記したが、実はまだまだ考えないといけない事柄がある。それは、読書とは、出版とは、そして人間とは…というようなちょっと厄介なテーマになる。それはあらためて暇なときに考えよう。
ということで、残された喫緊の問題は、機関紙出版センターはどうするのかということである。すでに大手出版社を中心に多くの出版社が電子書籍に取り組んでいるが、果たしてその流れに合流していくのか、しないのか。いろいろ考えるべきことがたくさんあって、率直に言ってまだまだ様子を見ないとわからないというのが現状なのだ。