子どもを真ん中にした学校作り~作文で表現力を育てる
◯学校ぐるみの研究
先日、大阪市平野区の先生方の研究発表会が開催された。「書く楽しさを味わい、自分の言葉でいきいきと表現できる子どもを育てる」という研究テーマで、長吉出戸小学校の先生方が報告された。3年間にわたる学校ぐるみの取り組みだ。講堂の壁面には、たくさんの授業で読み合った作文が、大きく拡大コピーされて貼られていて、子どもらの声が聞こえてきそうな会場だ。
授業の技術や数値化された評価などが論議の中心になり、子どもはどこへ行ったと思う研究発表が多い中で、まさしくここは、子どもを真ん中にした研究の発表だ。
研究の経緯は、こんなことだった。子どもたちの暮らしが厳しく、なかなか落ち着いて学習できる環境になく、とりわけ言葉でものを考え、自己を表現する力が十分でなく、学力の底上げが必要だ。
そのためにも、子どもをていねいに見つめ、自己表現を大切にし、それを読み合って、お互いを知り理解し合って、学級という集団を豊かに育てたい。その取り組みを学校全体ですることで、学校の再生もはかれる、と研究が始まった。
私が校内研修会に講師として参加して以後、私の所属している「なにわ作文の会」と共同研究という形で取り組むことになった。秋に開催される「大阪作文教育研究大会」の会場校になり、一年~六年まで各学年1クラスが公開授業を実施。授業をやらせてくださいと立候補する若い先生方が、実に頼もしかった。
研究会が近づくと、そのためだけの一発研究が多い中で、ここでは日常的に月に1回は書き、その作文を日々読み合い、授業もするという取り組みが3年間続けられたうえでの研究発表だった。
多忙で管理的な空気の強まる大阪市の中でこんな研究が継続され、何よりも「書くことが好きになった」という子どもたちが80%を超え、「書きたいことが書けた」と満足している子どもが90%以上もいるという報告は、実にすばらしかった。
そして、先生方は、子どもをいろんな角度から捉え、子ども発見、子ども理解が進んだというのも圧巻だ。
さらに、学級で自由に自分を語るという安心した雰囲気が生まれ、共感の関係が築かれる中で、自分の言葉でいきいきと表現する力が育ってきたと言うのだ。
◯市の指導教官から励まし
寒い会場であったが、作文を読む子どもの声が流れる度に、くすっと笑ったり、「あっかわいい」というつぶやきが漏れたり、なんともあったかい会場になった。疲れ果てて駆けつけて来られた先生方に笑顔が生まれている。
発表の後、いくつかの質問を受け、最後に大阪市の国語部の責任ある方のお一人がまとめをなさった。これがまた圧巻で〝大阪はたいしたもんや〟とうれしさが込み上げてきた。
第一、民間の研究サークルと共同で一つの学校が研究を進めてきて、その成果を区の研究発表会で報告するということ自体、他府県ではあまり聞いたことがない。京都や東京の友人たちは「奇跡に近いことだ」と驚く。
指導に来てくださった先生は第一声「子どもを中心にした研究のすばらしさ、しかも学校あげて、自分の言葉で表現できる力を育てる研究はとても意義深い」
しかも「書く力を国語科の一領域の狭い取り組みにせず、学級や学年、学校全体にかかわる人間を育てる取り組みに位置づけ、書くことの日常化をめざしてきたことはすばらしい」
「今、指導要領には『作文教育』という文言は消えているが、友だちの良さをみつけ、自分発見しながら、書く力、自分の言葉を育成することは、指導要領で大事にされている」と語り、厳しくなった現場を熱く励ましてくださったのだ。
帰りがけに、一言お礼をと思い校長室に入ると、その指導教官がカバンの中から拙著『子どもたちに表現の喜びと生きる希望を』を出され、「この本でたくさん勉強させていただいた」と付箋のいっぱい付いた本を見せてくださった。この謙虚さに頭が下がった。大阪もたいしたもんや!
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)