熱燗を初めて口にしたのは、大学の帰りに立ち寄った千両だった。おでんはいいとしてどこが美味いんだ!と尖った気持ちしかなかった。
ただ熱燗で少ない肴をアテにカウンターの一人酒には大人の男を感じていた。
82歳の父は地元の花春という昔で言う二級酒を燗して呑んで一日を終えるのが日課だ。口癖は酒は人肌に限る!
そんな歴史と刷り込みを経て、今日みたいに芯から冷える陸奥では、酒場で、我が家で燗酒が呑まれているのに違いない。
風呂に入る前に南部鉄瓶に徳利を浸していくと燗の具合が熱すぎず緩すぎず人肌なのだ。ひとりで今日一日を回想し、喉という回廊を通り胃の腑という金堂まで酒が滴り落ちるのを感じつつ、痩せてはいるが磯の香りがするメヒカリを味わい、深く息をついて、厳冬の今宵、無事是名馬となる。
*磁器のお猪口買いました!器の口当たりも酒を上手くするんだなぁを