先々週から先週頭にかけて、
青春18を使って東京・南東北を旅行してきた。
4日水曜に1日かけて東京に移動し、
5日木曜は国立劇場の南北の「絵本合法衢」の通し狂言。
仁左衛門の悪役二役を演じる芝居で、
去年、震災で中止になった公演の再演らしい。
芝居としては「お家騒動」もので仇討ちが軸となり、
そこに世話狂言を絡ませる。
仁左衛門はお家乗っ取りを企む分家の一門(殿様レベル、かな)「左枝大学之助」と、
その配下で市井の小悪党「立場の太平次」の二役。
序幕と大詰が侍、2幕目・3幕目が市井の小悪党で
それぞれも「悪」の魅力を見せる趣向。
序幕。
大学之助が主家の家老を殺害し、家宝を横領する。
この家宝がないことで主家の殿様がお咎めを受けて失脚し、
代わって自らが家を継ごう、という魂胆。
家老と仇討ちを誓うその弟は左團次で、
ここは「早替わり」で見せる。
正直、左團次は薄っぺらで好きではないが、
家老の実直そうな様子はまあまあ。
仁左衛門の「悪」を見せるところで
鷹狩の場面が入る。
孝太郎・愛之助の若い夫婦役。
この孝太郎に大学之助が横恋慕する。
愛之助の和事の役は、以前に比べて柔らかくなっていたと思う。
孝太郎も芯のあるところ、悪くなかった。
大学之助は悪の手強さはある。如何にも国を奪いそうな。
ただ、特にここは「女に横恋慕する」場面であり、
柔らかい、何とも言えない「色気」ももう少し欲しいかな、と個人的には感じた。
二幕目。
仁左衛門が今度は市井の小悪党を見せる。
ここに河原芸人の頭で、太平次に惚れている悪役の時蔵、
善人である女房役の秀太郎、
さらに道具屋の婿養子であり、実は大学之助に討たれた家老の弟にあたる愛之助が絡む。
仁左衛門の太平次は流石。
道具屋の場面での一見真面目そうな、
しかし裏では酷薄な悪役の動きや声からくる雰囲気が素晴らしい。
時蔵は少し堅く、
もう少し南北ものらしい爛れた味があっても良いかな、と感じた。
早替わり後の侍の妻役の方が、慎み深く、合っていたと思う。
ただここは早替わりで両役の違いを魅せるところだから、
前半の悪役はもっとこってりしていた方が良いだろう。
道具屋での強請りの場面がイマイチ盛り上がらなかったのだが、
その原因の一つはこの粘り気、退廃した雰囲気が弱かったためだと思う。
もう一つは、道具屋の養母など、周囲が受け流すようで、
あまり真剣に受け止める感じがしなかったためかな。
バランスの問題ではあるが。
三幕目。
倉狩峠(暗峠が元らしい)の太平次の家での場面がメイン。
ここも太平次の悪の描写がポイント。
二幕目と同様、ここでも当初善人風でありながら、
豹変し己の為に悪を働くあたりが面白い。
助けるふりをして愛之助を切る場面、
売って金に換えようとしていた女が誤って夫に切られ、
仕方なく夫婦にトドメを刺す場面など、
ある種の爽快感はある。
大詰。
仇討ちが叶わない左團次が、
傷の癒えない愛之助を弟と知らずに匿っている所、
大学之助がやってきて(左團次の居ぬ間に)愛之助を切る。
そこへ左團次が戻ってきて、愛之助が弟であることが分かり、
仇である大学之助を討つことを誓う。
その後、閻魔堂の前で腹を切って見せて油断させ、
大学之助を切って兄弟の仇を討つ、という場面。
ここは左團次が酷い、と感じてしまった。
「仇討ちが叶わない」煩悶も薄いし、
愛之助と兄弟と分かり、仇討ちを誓う心持も伝わってこない。
また、仇討ちでの立ち回りも気が抜けているように見える。
行き違った後、次に剣を交わすまでの間、休憩しているのでは?
目の前に仇がおり、何としても討たなければ、という切迫感が
感じられない。
愛之助は体が不自由で仇討ちができない悶々とした様子、
切られた挙句、最後は自ら腹を切る際の恨みなどが出ていて良かった。
仁左衛門は憎憎しさ、「国崩」の大きさがあり、流石。