先日「いわゆる「ハマキョウレックス事件」と「長沢運輸事件」の最高裁判決について(1)」というタイトルで
書いた分の続き。
前回は「有期契約社員と正社員の手当の格差」について書いてみたが、
今度は「有期契約社員」の中でも特殊な「定年後再雇用社員」の取り扱いについて考えてみたい。
今回は、一部の手当の不支給については違法としたが、
特に問題となる基本給(「能率給」「職務給」の部分のようだが)の「賃下げ」については
違法ではない、という判断になった。
個人的には、今回の結論としては妥当かも知れないが、
根本的に様々なことを考える必要はあるだろう、と感じた。
まず前提として、「定年後再雇用社員」の趣旨を踏まえる必要があると思う。
年金受給年齢の引き上げ等を受けて、
従来60歳定年が義務付けられていたところを、
「従業員が希望すれば、65歳までは雇用を確保する」趣旨から、
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」第9条で
以下のいずれかの「高年齢者雇用確保措置」を講じることが義務付けされている。
1 65歳以上への定年の引上げ
2 継続雇用制度の導入
3 定年の定めの廃止
実際には、特に大企業では、
60歳定年はそのまま、定年後は改めて「有期契約」を交わす形で
65歳までの雇用を保証する「継続雇用制度」を導入しているケースが多い。
※平成29年「高年齢者の雇用状況」集計結果 |報道発表資料によると、
従業員31人以上の企業156,113社の内、定年制の廃止および65歳以上定年企業は計30,656社(19.6%)にとどまっている。
その背景は、恐らく日本の「年功給」の発想のためだろう。
従業員の入社から定年退職までをトータルで見た場合、
「会社に対する貢献が大きい時期」と「収入が多く必要な時期」にはギャップがある。
一般的には若い頃は「必要な収入<会社に対する貢献」であり、定年間近であれば「会社に対する貢献<必要な収入」になる。
それを踏まえて、特に大企業では、入社から定年退職までのトータル(帳尻)が合うように
昇給や昇進、賞与支給等を決めているだろう。
ここで、定年が「60歳から65歳」になった、としよう。
定年間近では「収入>会社に対する貢献」になっている状態で「60歳までで帳尻が合う」ように、
制度が構築されているところを、
途中で「65歳で帳尻が合う」ように調整するのは非常に困難。
「今まで払い過ぎていた」とか言って従業員から返してもらうこともできない。
となると、60歳定年でいったんリセットし、
その時点での「収入」と「会社に対する貢献」を見て契約し直す、という
「継続雇用制度」の導入が最も適切、ということになる。
国も「60歳から給与が下がる」現実に対応しており、
低下分の一部を補填するものとして雇用保険から「高年齢雇用継続給付」が支給される。
このように考えていくと、今回の「賃下げ」については、
(低下した額等を含めて)妥当、というか「仕方ない」のでは、というのが
個人的な感覚。
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ただ、今後の「同一労働同一賃金」を考えると、
ラディカルには「年功給」の発想が妥当なのか?というのは
頭の片隅には入れておかなければならない問題。
「給与が上がるからには、それに見合うだけ企業への貢献度合を上げなければならない」は建前としては当然だが、
現実には「生活を維持するための給与」という役割を考えれば
「貢献度合が上がっていなくても、或いは低下していても、給与を上げなければならない」場合がある。
この後者の側面を完全に無視されると、働き続けるのは困難だろう
(そのための「ベーシック・インカム」はあり得るかも知れない。)
しかし、「同一労働同一賃金」の考えからすれば、
(同一労働の前提で)「年齢」が違うから、と言って「賃金」に差を付けるのは
日本でも「不当」と考えられる余地が増していくのではなかろうか。
このあたりを踏まえて、どのような制度を構築していくか、
或いは現行の制度をどのように改めていくか(この方がはるかに困難)、
といったことを個々の企業が検討していく必要があると思う。