月曜は京都南座へ。
年末吉例の「顔見世興行」。
今年は六代目中村勘九郎襲名披露を兼ねている。
そんなこともあり、最後列から見る限り、空席なしの入り。
(1階の後ろの方は分からないのだが)
「仮名手本忠臣蔵(五段目・六段目)」
勘平は仁左衛門だが、江戸風の演出。
五段目、幕が開くと勘平が座っている。
笠を取って声がかかり、ここに千崎弥五郎が出てきての絡み、
返って与市兵衛の出、独り喋り、
藁から腕が出て定九郎が与市兵衛を殺し、
「50両」の一言のみ。
花道で猪に遭遇し、本舞台に戻ってきたところで撃たれて倒れる。
そこへ勘平がやってきて猪でなく人を殺してしまったことに気付き、
「薬はなきかと懐中を」探る内に財布に触れ、
それを持ち帰ってしまう。
特に何かある、という場面でもないのだが、
仁左衛門と弥五郎の愛之助の絡み、
糸に乗った動き・台詞回しで良い調子。
橋之助の定九郎は綺麗で良いが、
この演出、与市兵衛の藁前の独り喋りがちと長く感じる。
蚊を追う定九郎の前で繰言を言っている方が、
長さは感じずに済むかな、と思う。
六段目も江戸風の演出で、
濡れて帰った勘平がその場で礼服に着替えてしまうし、
こちらを向いて切腹する形。
個人的には、この型で良いかな、と思う。
礼服に着替えるのも「二人侍が後で来る」心持があるので良いし、
この際に財布を落として縞柄を義母に見られてしまう流れも自然。
また、この着物の色合いがおかる、義母、お才、女衒などの周囲と全く異なるのだが、
これが勘平が周囲の会話から浮き、「義父を殺してしまった」と思い悩むずれを
表現しているように感じられた。
切腹する時の驚きが強くなるので、
向こうを向いての切腹よりもこちらを向いて切腹する方が良いと思うし。
仁左衛門の勘平は、義父を殺してしまった、という思いからの
のた打ち回る様子など、よく出ていたし、何と言っても綺麗。
殺してしまったことを義母に詰られ、
金を断られ、さらに二人侍に罵られ、
結局腹を切らざるを得ないことになるが、
この当たりの衝撃が重なっていく様子がよく描写されていて良かった。
切腹せざるを得ないだろう、と感じられた。
時蔵のおかるは最初に連れられていくあたりまではイマイチ満足できなったのだが、
勘平と二人になってのクドキは流石。
このあたりは仁左衛門と良い調和になっていたと思う。
竹三郎のおかやが秀逸で、
手強いがそれが不自然でない。
与市兵衛の死骸を受けての愁嘆が激しいので、
元々穏やかな人が衝撃を受けて全力で、
「裏切り者」の勘平を責めている感じがよく出ていた。
女衒と秀太郎のお才は、まあ、普通に満足できるもの。
武士と百姓の家に踏み込んだ祇園の商人らしさが出ていた。
二人侍は、左團次の数右衛門の落ち着き、
より勘平に近い愛之助の弥五郎の勢いや裏切られた憤り、といった
違いも出ていて良かった。
ただ二人での台詞の声が少し小さくなっていたように思う。
お互いに対する遠慮があるのかも。
台詞で一つ気になったのが、
与市兵衛が「水呑百姓」だ、と言っていたところ。
(本人だったか、おかやだったか)
勘平は「田畑を売って」と言っていたように思うのだが。
「口上」
勘九郎襲名口上。
歌舞伎の口上って、本当に客に対してへり下った表現をするんだなあ。
ほとんどの役者が先日亡くなった勘三郎に触れる中、
その話をせずウケを取ろうとする左團次は貴重と思う。
「船弁慶」
勘九郎の襲名披露演目。
前半の静の舞と後半の知盛の暴れを一人の役者が踊り分ける、という点に
ポイントがあるのだろう。
全体にシャープな動き、という印象。
決まり決まりはきちっとしているのだが、
全体に「細さ」を感じた。
体格だけの問題ではなく、静であればゆったりとした匂い、
知盛であればこの世のものでない存在から吹き上がる骨太な存在感のようなものが
必要なのでは、と思う。
團十郎の弁慶はまあまあ。
最低限の仕事はしていた、という印象。
独特な声色がこの役に合っている、と言えなくもないが、
基本的に単調であり、深みはない。
藤十郎の義経が、如何にも貴種流離譚の主人公らしく、
貴族の薫りと侍の芯の強さが感じられた。
ご馳走で左團次の舟長、扇雀と愛之助の舟子が付く。
左團次があまり踊っていない人らしく、
踊りの仕草としての足さばきは良いが、
仕草として付いている訳ではない間の動きが、
役者の地に戻っているように感じられた。
「関取千両幟」
この芝居は初めて見たかな。
稲川と鉄ヶ嶽という二人の関取の旦那が太夫を巡って鞘当を繰り広げているのだが、
稲川は金がなく、このままでは負けてしまう。
鉄ヶ嶽が八百長相撲をするよう謎を掛け、
稲川が八百長をするかどうか悩む、という話。
その後の角力場の場面でどんでん返しがあるのだが、
何がなんだかよく分からない芝居ではある。
稲川の女房は孝太郎だが、これが非常に良い。
まだ若いが、これだけ糸に乗って女房役が出来るところが素晴らしい。
髪を「結う」に掛けて「言うように」働きかけるまで、
稲川に対する情愛がよく現れている。
翫雀の稲川と橋之助の鉄ヶ嶽はまあまあ。
【絵看板】
終演21時過ぎで満腹。
昔(22時頃までかかったこともあるらしい)程ではないにしても、
やはり顔見世は長いな。