ロースクール労働法No.6
1 本件は、Xと男性正社員との間に賃金格差が生じている。これは、違法として未払い賃金支払請求ができるか。
2 賃金格差
(1) 前提として、賃金格差は違法か。
(2) 労基法3条は、雇い入れ後において社会的身分等の差別的取扱いを禁じている。この社会的身分は個人の意思では変更できない社会的地位、分類を指すものであり、臨時社員か正社員かは契約上の問題であり、適用はない。また、同法4条は、男女間における同一賃金同一労働の原則を定めたものであり、賃金格差について同法に反するものとして違反になるという公序にはならない。
(3) しかし、同法3条、4条の根底には均等待遇の理念があり、これは、人格の価値を平等とする市民法の普遍的な原理であるから、これに反する賃金格差は、使用者の有する裁量の範囲を逸脱するものとして、公序に違反し無効となる。
3 賃金格差が均等待遇の原則に反するか
(1) この使用者の裁量の範囲を逸脱するかどうかは、賃金格差に合理的理由のあるものかどうか、すなわち、①職務内容、②契約上または実態上期間の定めがない雇用か、③人材活用の仕組みと運用が長期的に同一かどうか、④賃金格差の程度、内容によって判断する。
(2) ①ついて
Xは、従事する職種、作業内容、勤務日数及び勤務時間、残業も行っていたのであり、正社員であるAとほとんど同じである。また、専門的な仕事も行っており、Xはパート社員といっても、正社員が500名以上いるにもかかわらず、主力店舗の店長という地位にあった。これらのことから、Xの役割及び責任は正社員であるAと同等又はそれ以上のものであるということができ、正社員と同一の職務内容であるといえる。
(3) ②について
Xは、1年契約の更新契約形態であるが、10年継続して勤務していること、店長という責任ある地位の基幹性や恒常性等を考慮すると、契約上は有期契約であるが、実態上は期間の定めのない雇用形態と同視できるといえる。
(4) ③について
Xは正社員Xと比較すると確かに全国転勤の可能性がないといえ、この点において人材活用、運用が異なっているとも考えられる。しかし、かかる転勤可能性は、実際には近距離の転勤しか行われておらず、全国転勤の実態がほとんど認められないのである。よって、店長としての地位として活用されているXについても人材活用及び運用が長期的に正社員と同一であるということができる。
(5) ④について
そして、Xと正社員Aとの賃金格差は30%もあり、このような格差を設ける合理的理由はなく、その程度も相当大きいといえる。
(6) さらに、本件Xは、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」(パートタイム労働法8条1項)といえ、差別的取扱いの禁止に反する可能性もある。
(7) よって、本件30%もの賃金格差は、使用者の裁量の範囲を逸脱しており、均等待遇の理念に反し、違法である。
4 女性差別
さらに、本件において、全国転勤のないパート社員の多くが女性であり、これらのパート社員に賃金格差を設けていること自体が女性差別をしているとして、労基法4条、男女雇用機会均等法7条に反する可能性がある。
パート社員は、出産や結婚後に就職する女性が多く、全国転勤の有無を基準に賃金格差を設けることは、女性に対する賃金格差を正当化するものであると考えられる。すなわち、このような女性は、全国転勤をすることは事実上不可能といえ、全国転勤を了承することはできず、また、全国転勤の可能性は実態上存在していなかったのであるから、結果的に女性への不利益取扱いを正当化していたものといえる。
よって、女性差別的取扱いとしての間接差別といえ、労基法4条、男女雇用機会均等法7条に違反し、無効である。
5 以上から、Xは、30%の差額支払い請求をすることができるが、賃金請求権は2年間の消滅時効にかかるため(労基法115条)、過去2年分に留まる。
1 本件は、Xと男性正社員との間に賃金格差が生じている。これは、違法として未払い賃金支払請求ができるか。
2 賃金格差
(1) 前提として、賃金格差は違法か。
(2) 労基法3条は、雇い入れ後において社会的身分等の差別的取扱いを禁じている。この社会的身分は個人の意思では変更できない社会的地位、分類を指すものであり、臨時社員か正社員かは契約上の問題であり、適用はない。また、同法4条は、男女間における同一賃金同一労働の原則を定めたものであり、賃金格差について同法に反するものとして違反になるという公序にはならない。
(3) しかし、同法3条、4条の根底には均等待遇の理念があり、これは、人格の価値を平等とする市民法の普遍的な原理であるから、これに反する賃金格差は、使用者の有する裁量の範囲を逸脱するものとして、公序に違反し無効となる。
3 賃金格差が均等待遇の原則に反するか
(1) この使用者の裁量の範囲を逸脱するかどうかは、賃金格差に合理的理由のあるものかどうか、すなわち、①職務内容、②契約上または実態上期間の定めがない雇用か、③人材活用の仕組みと運用が長期的に同一かどうか、④賃金格差の程度、内容によって判断する。
(2) ①ついて
Xは、従事する職種、作業内容、勤務日数及び勤務時間、残業も行っていたのであり、正社員であるAとほとんど同じである。また、専門的な仕事も行っており、Xはパート社員といっても、正社員が500名以上いるにもかかわらず、主力店舗の店長という地位にあった。これらのことから、Xの役割及び責任は正社員であるAと同等又はそれ以上のものであるということができ、正社員と同一の職務内容であるといえる。
(3) ②について
Xは、1年契約の更新契約形態であるが、10年継続して勤務していること、店長という責任ある地位の基幹性や恒常性等を考慮すると、契約上は有期契約であるが、実態上は期間の定めのない雇用形態と同視できるといえる。
(4) ③について
Xは正社員Xと比較すると確かに全国転勤の可能性がないといえ、この点において人材活用、運用が異なっているとも考えられる。しかし、かかる転勤可能性は、実際には近距離の転勤しか行われておらず、全国転勤の実態がほとんど認められないのである。よって、店長としての地位として活用されているXについても人材活用及び運用が長期的に正社員と同一であるということができる。
(5) ④について
そして、Xと正社員Aとの賃金格差は30%もあり、このような格差を設ける合理的理由はなく、その程度も相当大きいといえる。
(6) さらに、本件Xは、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」(パートタイム労働法8条1項)といえ、差別的取扱いの禁止に反する可能性もある。
(7) よって、本件30%もの賃金格差は、使用者の裁量の範囲を逸脱しており、均等待遇の理念に反し、違法である。
4 女性差別
さらに、本件において、全国転勤のないパート社員の多くが女性であり、これらのパート社員に賃金格差を設けていること自体が女性差別をしているとして、労基法4条、男女雇用機会均等法7条に反する可能性がある。
パート社員は、出産や結婚後に就職する女性が多く、全国転勤の有無を基準に賃金格差を設けることは、女性に対する賃金格差を正当化するものであると考えられる。すなわち、このような女性は、全国転勤をすることは事実上不可能といえ、全国転勤を了承することはできず、また、全国転勤の可能性は実態上存在していなかったのであるから、結果的に女性への不利益取扱いを正当化していたものといえる。
よって、女性差別的取扱いとしての間接差別といえ、労基法4条、男女雇用機会均等法7条に違反し、無効である。
5 以上から、Xは、30%の差額支払い請求をすることができるが、賃金請求権は2年間の消滅時効にかかるため(労基法115条)、過去2年分に留まる。