昨日、上野の東京国立博物館で開かれている「長谷川等伯展」に友達と行ってきた。
テレビや新聞で話題の日本を代表する巨匠の展覧会のため、すごい人ではないかと予想していたが、さすがに中高年の美術愛好家の数はすさまじく、疲れ果ててしまったほど。
ちょうど展覧会に行く前、パリ在住の画家、早川俊二氏とメールのやりとりをしていた。
早川さんには等伯の代表作である国宝「松林図屏風」の空間表現に多大な影響を受けたと前々からインタビューでも言われていたので、私が展覧会に行くことを報告したかったからだ。
しかし、すでに早川さんのもとには、等伯展に行った人からの報告がメールできており、「2時間待ち」「朝一でいって、20分待ち」などと書かれていたため、私たちは朝早めに出かけたが、国博に着いたら、長蛇の列で、「30分待ち」と書かれた看板。
展覧会でのこんな列は今まで見たことがない。
大昔の「モナリザ展」などは、美術館の周りをぐるりと囲むほどの列だったそうだが、長期間アメリカに住んでいた私としては、こういう日本の展覧会の状況が理解しがたい。
評価が確立されている画家の展覧会に殺到する構図はいつの時代も変わらない。
展覧会に関する国博のホームページを見ると、すでにこの展覧会は20万人を動員し、金曜日から最後の三日間は夜の8時まで開館を延長とある。
史上最大規模の等伯展とはいえ、メディアの力というのはおそろしい!
ぴったり30分並んで入るが、第一会場は込んでいたので、後期の水墨画中心の作品のある第二会場から入る。
吸い込まれるような濃淡の墨絵の世界。
フラットが特徴の日本画なのに西洋画にも通じる奥行きのある世界が広がっている。
ふんわりとした筆跡には、押し付けがましくない雰囲気を感じさせる。
黒と白だけの空間にいるおだやかな鳥たち。
霧のもやっとしたなんともいえない空気が伝わってくる。
さて、いよいよみんなのめざす「松林図屏風」だ。
しかし、そこには黒山の人だかり。
だめだ、じっくり味わうのは不可能!
思い切り人の中に分け入って、前から見るが、すごい人の数で片方の屏風部分しか見れない。
片方でさえ、人が気になって、この稀に見る名画を味わうことができない。
遠くに離れてみても、人の頭で上の部分しか見ることができない。
何年も前に1回この名画に出会ったときは、ひんやりした空気を感じることができて、この、松林の中に自分がすうっと入っていくような気配まで感じることができたのに・・・
あまりのすさまじい人波との闘いにヘトヘトになって帰って、早川さんにメールで報告したら、「やはり人気のある展覧会の終盤は行くべきではないですね。始まってすぐ行くのが賢明です」と厳しいお言葉。たしかに!
私が「中高年が多かったので、もっと等伯は若い人たちに見てもらいたい」と書いたら、早川さんも「等伯の世界が人気があるというのは嬉しいことですが、確かに若い人達にみてもらいたいですね。同感です」
ところで、早川さんからは、最近今年度の挨拶状が届いていた。
一部を紹介しよう。
(略)
個展では沢山の人に絵を見て頂き、皆様から感想を聞かせて頂き、大変勉強になりました。
「ロマネスク教会のマリア像を見ているのと同じ思い。」
また、「東北の旅の途中、突然に現れた紅葉した山に出会った時の感動、真っ赤に染まった山の現象と、山の量という存在感が一挙に押し寄せてきた感動と重なる」・・・
頂いた感想を僕が間違えて捉えているかもしれませんが、この二つの感想は、僕が求めている方向の両面を要約してくれており、多くの人が同じような感想を持たれたようで、大変嬉しくなりました。
身の回りにある日常的な小さな静物や、人物を描いているだけなのですが、描かれているものの先にあるものを観て頂いている様子が実感でき、これからの製作に力を与えて頂きました。
(中略)
この地球の薄い岩盤の上に、偶然か必然か僕には分かりませんが、生命現象として一緒に立ち現れた全ての生命達と、生きている喜びを末永く分かち合えるような意識、人類独尊ではなく共存の意識を高めねばならないと切に思います。
人も自然の一部であり、それを忘れて自然から逸脱している現代人は、身体の奥深いところにある自然感覚を取り戻さねばならないことでしょう。
未来があらゆる生命にとってよりより環境であることを祈って。
パリ 2010年2月 早川俊二
230人ものおそらく個展を観てくれた人々にこの挨拶状を送られているという律儀な早川さん。
後数人で挨拶状を書くのが終了するらしい。
その誠実さに頭が下がる思いである。
最後のメールに「これで昨年の個展が終了した感じですね。これから未来に向かって頑張ります。見ていてください」と力強い言葉で結ばれていた。
私にとっては、過去の長谷川等伯より今を突き進む早川俊二のほうが気になる存在なのである。
写真はアスクエア神田ギャラリーの去年の早川俊二展にて
左側の早川さんとツーショットで撮りました。
テレビや新聞で話題の日本を代表する巨匠の展覧会のため、すごい人ではないかと予想していたが、さすがに中高年の美術愛好家の数はすさまじく、疲れ果ててしまったほど。
ちょうど展覧会に行く前、パリ在住の画家、早川俊二氏とメールのやりとりをしていた。
早川さんには等伯の代表作である国宝「松林図屏風」の空間表現に多大な影響を受けたと前々からインタビューでも言われていたので、私が展覧会に行くことを報告したかったからだ。
しかし、すでに早川さんのもとには、等伯展に行った人からの報告がメールできており、「2時間待ち」「朝一でいって、20分待ち」などと書かれていたため、私たちは朝早めに出かけたが、国博に着いたら、長蛇の列で、「30分待ち」と書かれた看板。
展覧会でのこんな列は今まで見たことがない。
大昔の「モナリザ展」などは、美術館の周りをぐるりと囲むほどの列だったそうだが、長期間アメリカに住んでいた私としては、こういう日本の展覧会の状況が理解しがたい。
評価が確立されている画家の展覧会に殺到する構図はいつの時代も変わらない。
展覧会に関する国博のホームページを見ると、すでにこの展覧会は20万人を動員し、金曜日から最後の三日間は夜の8時まで開館を延長とある。
史上最大規模の等伯展とはいえ、メディアの力というのはおそろしい!
ぴったり30分並んで入るが、第一会場は込んでいたので、後期の水墨画中心の作品のある第二会場から入る。
吸い込まれるような濃淡の墨絵の世界。
フラットが特徴の日本画なのに西洋画にも通じる奥行きのある世界が広がっている。
ふんわりとした筆跡には、押し付けがましくない雰囲気を感じさせる。
黒と白だけの空間にいるおだやかな鳥たち。
霧のもやっとしたなんともいえない空気が伝わってくる。
さて、いよいよみんなのめざす「松林図屏風」だ。
しかし、そこには黒山の人だかり。
だめだ、じっくり味わうのは不可能!
思い切り人の中に分け入って、前から見るが、すごい人の数で片方の屏風部分しか見れない。
片方でさえ、人が気になって、この稀に見る名画を味わうことができない。
遠くに離れてみても、人の頭で上の部分しか見ることができない。
何年も前に1回この名画に出会ったときは、ひんやりした空気を感じることができて、この、松林の中に自分がすうっと入っていくような気配まで感じることができたのに・・・
あまりのすさまじい人波との闘いにヘトヘトになって帰って、早川さんにメールで報告したら、「やはり人気のある展覧会の終盤は行くべきではないですね。始まってすぐ行くのが賢明です」と厳しいお言葉。たしかに!
私が「中高年が多かったので、もっと等伯は若い人たちに見てもらいたい」と書いたら、早川さんも「等伯の世界が人気があるというのは嬉しいことですが、確かに若い人達にみてもらいたいですね。同感です」
ところで、早川さんからは、最近今年度の挨拶状が届いていた。
一部を紹介しよう。
(略)
個展では沢山の人に絵を見て頂き、皆様から感想を聞かせて頂き、大変勉強になりました。
「ロマネスク教会のマリア像を見ているのと同じ思い。」
また、「東北の旅の途中、突然に現れた紅葉した山に出会った時の感動、真っ赤に染まった山の現象と、山の量という存在感が一挙に押し寄せてきた感動と重なる」・・・
頂いた感想を僕が間違えて捉えているかもしれませんが、この二つの感想は、僕が求めている方向の両面を要約してくれており、多くの人が同じような感想を持たれたようで、大変嬉しくなりました。
身の回りにある日常的な小さな静物や、人物を描いているだけなのですが、描かれているものの先にあるものを観て頂いている様子が実感でき、これからの製作に力を与えて頂きました。
(中略)
この地球の薄い岩盤の上に、偶然か必然か僕には分かりませんが、生命現象として一緒に立ち現れた全ての生命達と、生きている喜びを末永く分かち合えるような意識、人類独尊ではなく共存の意識を高めねばならないと切に思います。
人も自然の一部であり、それを忘れて自然から逸脱している現代人は、身体の奥深いところにある自然感覚を取り戻さねばならないことでしょう。
未来があらゆる生命にとってよりより環境であることを祈って。
パリ 2010年2月 早川俊二
230人ものおそらく個展を観てくれた人々にこの挨拶状を送られているという律儀な早川さん。
後数人で挨拶状を書くのが終了するらしい。
その誠実さに頭が下がる思いである。
最後のメールに「これで昨年の個展が終了した感じですね。これから未来に向かって頑張ります。見ていてください」と力強い言葉で結ばれていた。
私にとっては、過去の長谷川等伯より今を突き進む早川俊二のほうが気になる存在なのである。
写真はアスクエア神田ギャラリーの去年の早川俊二展にて
左側の早川さんとツーショットで撮りました。