ショートストーリー5の”ニュートンの苦悩”では、ニュートンとその友人であるウィリアム(ストゥークリ)の洒落た会話を紹介しました。
そこで今日はニュートンとくれば、当然アインシュタインです。因みに、サイドストーリー風に纏めたつもりですが、難しい数式や関数式は登場しないので、気長に読んで下さい。
今回もアルバートの友人は作家のロマン•ロランです。展開に無理がありますが、悪しからずです。とても長くなりそうなので5つ程のEpisodeに分割します(多分)。
Episode1
アルバート•アインシュタインとその友人のロマン•ロランは、とあるバーで酒を汲み交わしてた。因みに、ロマンもノーベル文学賞(1915)のフランスの文豪である。
アルバートは数学者が嫌いだった。短気だったが、お茶目でもあった。勿論、敵も多かった。
”数学が美しいと抜かす数学者がいるが、そんな学問は仕立て屋にヤラせときゃいいんだ。所詮、世の中の役に立たない学問じゃないか”と、アルバートが切り出す。
”でも君は小さい頃は数学の天才と言われてたじゃないのか?てっきり、数学の道を歩むと思ったよ”と、ロマンが笑う。
”いや、オレは計算が苦手だったんだ。それに暗記が嫌で厭で堪らなかった。記号や関数を覚えるテストでは、逃げ出したかった程さ。今思うだけでもイライラする”
”でも君は僅か9歳で、ピタゴラスの定理の美しい証明法を考え出したんだろ?あの時は地球が反転すると思ったよ。それに、僅か12歳でユークリッド幾何学や微分積分を独学で習得したよな?全くニュートンの再来だと思ったぜ”
”ああそういった時期もあったかな。ピタゴラスの定理の証明には、寝る間も惜しんで熱中したさ。幾何学や微積分は数学でも一番おいしい所だよ。でも数論とかの単調な計算が苛つくんだ。算術や代数学なんて最低の学問よ”
”確かに君は、簡単な計算ミスをする事が多かったな。それに証明を言葉で説明するのが苦手だったね”
アルバートは葉巻を更かし始めた。
”計算なんて機械にヤラせときゃいい。証明なんて、わざわざ説明する必要が何処にある?数学者のバカな所は、何につけてもクソ真面目な所さ。数学者というよりは計算バカだな。あんな変態とはお付き合いしたくはないね”
ロマンはコニャックを口に含んだ。
”でも君の空間認識は凄かったな。リーマン相当のレベルだと指導教官は言ってたっけ”
”ああ、空間を完璧にイメージできたお陰で、相対性理論が発見できたんだ”
”でも君の最大の偉業である「一般相対性理論」は、リーマン幾何学のお陰だともっぱらの噂だぜ”
アルバートはテーブルを叩いた。
”リーマンは関係ない。オレは自然物理学のスペシャリストだ。幾何学の理論は全く必要なかったさ。神の領域にある空間認識能力こそが、相対性理論を生み出したんだ”
”確かに、今の数学者は計算ばかりで、幾何や空間認識能力に欠ける奴が多いね。でも君は数学の道を選んでも、リーマンの様になってたよ”
再びアルバートはテーブルを叩く。
”もう頭にくるな!リーマンの名前はオレの前では出すな!わかったか!”
”やはり、君にとってリーマンは未だに意識する存在なのか?リーマンの存在が、君を物理学の道へ進ませたというのは本当なんだな?”
”しつこいな君も。オレを誰様だと思ってる?ニュートンを凌ぐ大天才だぞ。ニュートンですら成し得なかった事を、俺は簡単に成し遂げたんだ”
”人類にライバルは一人もいないという事か?”
”その通りだ。リーマンもガウスもオイラーもオレの敵じゃない”
ロマンは大笑いした。
”随分と饒舌じゃないか。君は小さい頃は人と喋るのが苦手だったよな。でも書く事に関しては、文豪顔負けだったがね”
”リーマン幾何学と相対性理論を結びつけたがる奴がいるが。オレは僅か16歳頃に、光の中を光の速さで移動する空想をしてたんだぜ”
”子供の頃から見続けた空想が、相対性理論の原点だという訳か?さすが人類最高の天才は言う事が違うや”
”オレはね、公式や関数は見ただけで視覚的にイメージできたんだ。勿論、証明は苦手なんだが、あんなもの数学バカにヤラせときゃいい”
”そういや、リーマンも1859年の有名な論文の中では、主張ばかりで、大半は証明を飛ばしてたな。2人ともよく似てるよ”
アルバートは、3度テーブルを叩く。
”だから、リーマンの名はオレの前では出すなって!”
ロマンはそれが可笑しくてたまらなかった。
”しかし君は、頭の中のイメージを数式にして、理論化し論文化するのに10年以上掛った事になるよね”
”バカをいうな!人に説明するのが苦手だっただけだ。饒舌だったら、16歳で発表してたさ”
”でも口下手の割には、女性関係は派手だったよな?ノーベル物理学賞の賞金は、そのまんま離婚時の慰謝料に当てたんだっけ?”
”バカいうな!追い出した女が可愛そうだったから、寄付してやっただけさ。こう見えても慈悲深い男さ”
”ベロ出し事件も結構大衆を騒がせたな”
”あんなの単なるリップサービスさ。NYの有名なカメラマンが笑って下さいというので、意地悪してやったんだ。
でも今から思うと傑作だったな(笑)。相手はバカにしやがってと思ったろうが”
”最初はこれじゃ使いもにならないと、写真家は怒り狂ったが。その問題の写真は、NY新聞写真賞のグランプリを受賞したんだっけ”
アルバートはすっかり機嫌が良くなった。
”ハッハッハ、それが今では俺のイメージとして、しっかりと定着してんだぜ”
ロマンは、2杯目のコニャックを注ぐ。
”君のイメージとしては、ボサボサ頭があるね。でも若い頃はポマードでしっかりと纏め上げてたんだよな?”
”最初に結婚した時、まともな仕事がなかったんだ。保険の外交やアルバイトや執筆なんかで多忙だったし”
”天才アインシュタインにも、人には言えない不遇の時代があったという事か?”
”大学の理学部長と仲が悪かっただけだ。俺が女だったら、学部長のポコチンでもシャぶって、いきなり名誉博士に君臨してたさ(笑)。
それに化学の実験で爆発事故も起こしたしな”
”でも君は大学を卒業した後、直ぐには学問の道には進まなかったんだよな”
”ああ、最初の職は特許庁だったな。友人の父親のコネで審査員として採用されたんだ。3級だったがな”
”そこで、様々な発明理論や数式を知る機会を得たのか?”
”いやゲスな理論や発見ばかりで、全くアテにならんかったな”
”最初のカミさんのミレーバとの新婚生活は散々だったんだろ?”
アルバートは自慢のヒゲを撫で始める。
”ああ、特にアパートが酷かった。ボロなアパートで、壁や天井が歪んでたんだよ。それ以来、全てが歪んでる様に見えたんだ(笑)”
ロマンは、3杯目のコニャックを注いだ。
”あっはっは!そのヘンテコな性癖が一般相対性理論を生んだんだね”
”性癖じゃなく環境だ。でもオレの知能が神の次元でなかったら、そのオンボロアパートで野垂れ死にしてたろうな”
”でもそのボロアパートに籠り、必死で勉強したんだよな”
”ああ、博士の夢は諦めてはいなかったさ。26歳で5つの論文をかきあげた。その中でも「特殊相対性理論」が大当たりしたんだ”
”それからスターダムへ一直線という訳か?”
”2級職に昇給し、給与も上がり、物理学界でも名前が売れる様になったんだ”
”それで教授職へ転職したのか?”
”いやその前に、俺を一躍有名人にした、E=MC²がある。しかし、それ以上に生涯最高の発見をしたんだ”
”等価原理の法則か?”
”ああ、簡単に言えば、物理法則は宇宙のどこでも同じって事よ”
”それが起点となり、相対性理論に結びついたんだね”
”時間は掛ったがね。それからはトントンよ、物が歪んで見える事もなくなったな(笑)”
”上手く行けば、全ては真っ直ぐに見えちゃうんだな(笑)”
”ハッハッハ、そういう事じゃの”
アルバートは2本目の葉巻を口にした。
”しかしそれからが大変だった。家庭内暴力に、別居に、離婚(1919年)に、裁判沙汰に”
ロマンは心配そうに友人を見つめる。
”ヤッパリ歪んだわけだ(笑)”
”もう歪みっぱなしよ”
”そんな時、ノーベル賞受賞(1921年)の知らせが来た。でも受賞の理由は?”
”ああ、なんだっけな?そう、「光電効果の法則(1905)」だったかな。よく覚えてないや”
”特殊相対性理論(1905)じゃなかったのか?”
”ああ、あの理論は突飛すぎて対象にはならんかったさ。でも、その賞金はそのまんま前妻のミレーバに渡し、40を超えてた俺は新しい愛人エルザと再婚したって訳だ”
”でも意気揚々としてた頃は、第一次世界大戦が勃発し(1914)、病気が重なり(1917)、その上、スパイと間違えられ捕虜になり、と最悪の時期だったね”
”ああ、俺も30代後半になり、落ち着いて研究に打ち込もうとしてた時期だからな”
”そんな時、俺と出会ったんだよな。でも「一般相対性理論」の発表(1916年)には、流石の俺も驚いたぜ”
”でもあの頃は、研究そっちのけで平和運動一色だったよな”
”君の研究にも一役買ったんだぜ。オレの文才がなかったら、一般相対性理論の発表も上手くいかなかったろうね”
”ああ、今でも感謝してるよ”
そこで、アインシュタインは愛用の葉巻を美味しそうに蒸す。
”ああテンゾーさんよ、一息入れようや。アンタも疲れろ?”
私(転象)は軽く頷いた。そして、バーボンを口に含んだ。
”来日してすぐというのに、今夜はお呼び頂いて感謝してます”
という事で、今日はココマデです。
子供時代の空想が人類史上の大発見に繋がるというのは、大人にとっても大きなロマンでもあります。
一般相対性理論とリーマン幾何学の理論は深い所で密に繋がっていますが。アインシュタイン方程式にはテンソルの概念がふんだんに使われてますものね。
大好物の葉巻を蒸しながら、せっせと連立方程式を解いてたんでしょうね。
相対性理論が歪んだ時空に関するものということは知ってましたが。幾何学とか曲率とかいう言葉が出た途端、サッパリでした。
物理法則は宇宙の果てでも同じで、それが相対性理論に結びついたといわれると、少し理解できそうな気がします。大きな重力により時空が曲げられる現象を数学的に言えば、相対性理論って事になるんですかね。
リーマンはこの数学的な相対性理論をリーマンの幾何学で構築してたとすれば、ガッテンが行くんですが。
”アインシュタイン幾何学”と言えばそれまでなんですが。リーマンの”歪んだ”N次元空間の幾何学の論理を、宇宙空間の果てにまで拡張したんですから。
でも改めて、”リーマンとアインシュタイン”の記事を読むと、結構ムズい事書いてますね。故にこのブログに関しては、砕けた感じで書きたいと思います。