驚く事の程でもないが、天神の一等地にそびえ立つイムズホール(写真)が32年の幕を閉じる。
福岡市中央区の繁華街・天神にある商業施設”イムズ”が8月31日、市の再開発促進事業「天神ビッグバン(計画)」に伴う建替えの為、32年の歴史に幕を下ろす。
開業当時はバブル景気で消費が活発だったが、ここ最近は半分程までに収益が落ち込んでいた。
建物は地上14階・地下4階で、八角柱をモチーフにした外観は金色に輝く有田焼のタイルに覆われ、開業した1989年から天神のランドマークとして親しまれた。
中央部分は地上8階から地下2階までが吹き抜けになり、各フロアには物販や飲食といった店舗が入る。特徴的だったのは、それ以外の展示スペースや学びの場を重視していた事だ。
福岡市の所有地を”情報発信”を打ち出した三菱地所と明治生命保険が130億円(処分価格)で買取った。
因みに、イムズの名は”InterMediaStation=情報発信基地”の頭文字の”IMS”である。
この”情報発信”の象徴が、開業から2013年まで続いた4階の自動車ショールームだった。トヨタ、日産、三菱、スバルの4社が最新モデルを並べ、敷居の高いディーラーでなく、気軽に生の新車に触れる事ができた。
他にもアートギャラリーやコンサートを開催できるホールなどを備え、音楽や美術などの各種イベントを開催した。
ビル内の約半分がモノを売らない場所だった事もあり、イムズの古場治館長は、”価値あるひまつぶし空間”をサブコンセプトにしていたと振り返る。
イムズに入居するテナントの売上高は、約140億円だった95年度をピークに伸び悩んだ。
96~97年には、同じ天神にある百貨店が売り場面積を広げたり、博多区に大型複合商業施設「キャナルシティ博多」がオープンした結果、市内で商業施設の競争が激しくなっていた。
建て替え後の計画については、商業機能だけではなく、都市部で不足する高機能オフィスや高級ホテルなどを施設内に加える事も検討してるという(毎日新聞)。
重複し過ぎた大型商業施設
天神には、イムズホールの目と花の先にソラリアプラザがあった。コンセプトと外観は殆ど同じである。
イムズの場合は、筒抜けのホールの周りをトグロを巻く様に様々なテナントが入る。
確かに、本格的なギャラリーやコンサートホールを備えてはいいたが、それに見合うコンテンツはなかった様に思う。
そういう私も、ソラリアプラザには映画や結婚式で何度か足を運んだ記憶があるが、不思議とイムズホールには、これと言った印象がなかった。
それに”情報発信”と言っても、今やスマホで済ませる時代。わざわざ、天神の繁華街まで足を運ぶ好き者もいない筈だ。
福岡市にプロ野球の球団(西鉄→太平洋→クラウン)があった頃、野球観戦の為に天神にはよく足を運んだが、当時は何もなかった。
大相撲九州場所の会場となってた福岡スポーツセンター(後のソラリアプラザ)と天神岩田屋があったくらいで、ほんと何もなかった。
その後、球団(クラウンライター)が去り、廃墟と化した様相を呈した時に、タイミングよく複数の商業娯楽施設やホテルや大型百貨店がそびえ立った。
1989年のイムズホールも同様であった。
車好きだった私は、4階の自動車ショールームだけは何度か足を運んだ記憶があるが、なぜかすぐに飽きてしまった。
私の目には、イムズホールもキャナルシティも他の大型商業ビルと同じく、見てて疲れるだけのコンクリとガラスの巨大な無機質な塊にか映らなかった。
そもそも、”情報発信”というよりかは、田舎者のカッコつけや目立ちたがり屋の浅薄なコンセプトにも思えた。
”価値ある暇潰し”という事で言えば、中洲の歓楽街の方が、ずっと魅惑的で誘惑的で想像を掻き立ててくれた。”情報発信”という点でも様々にエロい事を吸収できた。
無機質な多目的ビル
こうした大型複合商業ビルは、パッと見は豪華絢爛で新鮮に見えるが、慣れてくると無味乾燥なビル群に思えてくる。
とにかく見てて疲れる。
派手なメイクを施したド田舎の軽い女と同じく、顔を背けたくなる程にウンザリなのだ。
しかし、何処の地方都市にもこうした多目的商業ビルは存在する。
佐賀市でも再開発という陳腐な名目で、古くから続く歓楽街を半分潰し、斬新な複合ビルを建てたが、案の定、街そのものの覇気が亡くなり、大半が廃墟と化してしまった。
全くこれと同じ事が、今の天神地区でも起きている様に思える。
鼓動や魂は吹き込むもので、コンクリートブロックにシャンデリアを飾り付けたからとて、躍動するものでもない。
派手なテナントを様々に寄せ集めても、そこに創造性がなければ、複合ビルとしての生命は育まれない。
同じ複合ビルなら、イムズと同じ1989年に開場した西鉄が建てた(天神駅と直結する)ソラリアプラザ(地下2階・地上17階)みたいに、ファッションビルとホテルをメインに、昔ながらの岩田屋と高速バスターミナルと地下鉄と地下街を隣接させ、今や天神地区の象徴(アイコン)に君臨したのをモデルにすべきだったろう。
デザイン的に余計な洒落っけがない分、庶民に幅広く受け入れられた。
何でもそうだが、ウケを狙うと大体において失敗する。悲しいかな天神の”情報発信”地はここソラリアであり、”価値ある暇潰し”もここソラリアだけで事足りるのだから・・・
イムズは潰れるべくして潰れたのだろうか?それとも天神再開発の為に、敢えて潰したのだろうか?
天神再開発とビッグバン計画
イムズに隣接する天神コア(地下2階・地上8階・130店舗、1976年開業)や天神ビブレ(地下2階・地上8階・90店舗、1982年開業)も昨年初めに閉店した。
共に、女性向けのアパレル系ファッションビルが故に、一度も足を運んだ事はない。
コロナ渦でなくとも、衰退しつつあったアパレル業界の下火が引き金になったと考えられなくもない。
事実、中洲川端商店街に隣接する博多スーパーブランドシティ(地下4階・地上13階、1999年開業)は僅か3年で破綻した。その後、2015年に博多リバレインとして復活し、”高級路線”から脱皮したが、芳しい噂は聞こえてこない。
しかし昨今、福岡は中国や韓国をはじめ、アジア各国からの渡航者がそのアクセスの良さから増加傾向にある。アジアでも随一の拠点都市を目指す天神を、更に近代的な街へと発展させるのを目的とする為に、大規模な再開発が推し進められている。
天神再開発(ビッグバン)は、天神交差点を中心に天神南駅や西鉄天神駅を含む半径約500m圏内がメインの開発地区となる。
特に、(天神の一等地にある)天神コアとビブレと福ビルは西鉄が一括して管理してる為に、これを1つにまとめた「天神ビジネスセンター」(地下2F・地上17F、高さ89m)の着工が予定されている。
もう一つの目玉は、旧大名小学校跡地に24階建ての高層ビルが建設され、リッツカールトンホテルが誘致されるという。他にコミュニティ広場や高級オフィスが入る予定だ。
再開発用のHPだから派手には聞こえるが、第三セクターの愚かさをそのまま具現してる様な気持ちにもなる。
オリパラ開催と同じで、失敗すると判りきってても、日の丸精神で前のめりになるインフラ業者の無能さには、呆れてものが言えない。
こうしたインフラによる雇用創出は、単なるその場凌ぎの危く脆い経済対策でもある。
スーパーブランドシティでの事業総額978億が無駄になった様に、同じ奇悲劇が繰り返されようとしている。
最後に
九州唯一の若者の街である天神は、天神大通りをはさみ、西と東ではその勢いと躍動には大きな差がある。
今となっては福岡市の中心は、博多からソラリアプラザを中心とした天神、そしてヤフオクドームがある西神や姪浜に広がりつつあるのは、街を歩いててもその空気で感じ取る事が出来る。
故に、天神地区の東側を再開発しても、大きな恩恵は受けられない。つまり、街の空気そのものが、古く濁ってるのだ。
多分、2021年の東京オリパラと同じ様に、天神ビッグバン計画は頓挫すると思う。
再開発するのなら、天神西地区をターゲットにし、七隈地区まで広げるべきだった。
そうすれば、アジアでも有数の新時代ハイブリッドな国際都市になる可能性もなくはない・・・
バブルの余計な置土産でした。
特に三菱地所はバブル期絶頂の頃にロックフェラーセンターを爆買いし、大失態をしでかしました。それ以降は大半が失敗してますね。
今度の天神再開発も小規模の再開発のみで中断するかもしれません。