象が転んだ

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リーマン予想と素数の謎”2の12”〜n番目の素数の大きさと、素数定理の庶民的考察と〜

2019年09月07日 03時02分34秒 | リーマンの謎

 ”2の7”〜”2の11”では、少し本道を逸れ、番外編ぽくして”素数定理”を判り易く紹介したつもりですが。思った以上にややこしく、深く長い険しい道のりですね。
 因みに、チェビシェフ博士のイラストは若い時のものです。

素数の深い謎と素数定理の長い歴史

 この素数定理の謎は、リーマン予想の謎に直結し、古くはユークリッドやフェルマー、そしてオイラー(1760)の素数の研究やガウスの素数密度公式(後の素数定理)の発見(1791)に始まり、ルジャンドル(1798=最初の素数定理の発表)、ディリクレの算術級数(1837)、チェビシェフの不等式(1850)などを経由します。
 その後、プーサンとアダマール(1896)がリーマンが試みた様に、ゼータ関数や複素解析論を用いた、高度で複雑な手法で証明に成功しました。但し、彼らは、リーマンが主公式J(x)で表現した”π(x)~Li(x)=∫dx/logx”ではなく、チェビシェフ(第2)関数ψ(x)の明示公式”ψ(x)~x”を使った。

 因みに、素数定理と言う言葉が何度もでてきますが、一般にはπ(x)~x/logxと表現されますが、他にも幾つかのバージョンがあり、x/logxの精度を高めたπ(x)~Li(x)=∫dx/logxやチェビシェフ関数を使ったψ(x)~xϑ(x)~xがあります。
 チェビシェフ関数に関しては以後何度もでてきますから、ここでは詳しい説明は省きます。

 以降、素数定理の証明の簡略化が進められ、1930年代にはランダウを経て、”タウバー型定理”(ウィナー&池原)を使ったシンプルな証明が得られます。
 因みに、フーリエ解析的発想に基づくとされるタウバー型定理では、素数定理とゼータの零点の定義(ゼータ関数がRe(s)=1上で零点を持たない”の同値性が確立され、−ζ(s)’/ζ(s)のRe(s)≥0上の正則性により、上述のψ(x)~xが導けます。
 そして、セルバーグ&エルデシュ(1949)が初等的証明を与え、一応の完結を見ます。
 その後、タウバー型定理の代りに、コーシーの積分定理を使い、素数定理の解析的な別の証明を与えたのがニューマンでした(1980年)。彼は−ζ(s)’/ζ(s)の正則性から、チェビシェフの(第1)関数を使った素数定理”ϑ(x)~x”が導けます。 

 この中でも特に、ディリクレの算術級数の素数定理チェビシェフの”粗い素数定理”(ベルトラン予想)は、大きな変換点となりました。
 という事で、無謀にもこの2つの素数定理の証明をしようと思ったんですが、とてもじゃないがついて行けませんでした(悲)。
 ”2の9”(Click)でディリクレの素数定理を、”2の11”でチェビシェフの素数定理の概略を少しだけ紹介しました。でも大げさですが、ロシアから北方領土を取り返す事のの1000倍ほどややこしいです(笑)。
 遥か、2千年前のギリシャ時代から受け継がれた数学の本質が、この素数定理に凝縮されてるかの如くです。 


リーマンとチェビシェフが挑んだ素数定理

 そこで今日は、”2の6”(Click)にまで逆上り、リーマンとほぼ同世代のチェビシェフ(1821-1894)が挑んだ、”粗い”素数定理を紹介します。
 この”粗い”素数定理とは、リーマンが追いかけた素数定理が非常に精度の高い”緻密”な素数定理であった為、こういう呼び方をするんですが。”粗い”といっても、その証明は怖ろしく難解なものです。
 「素数とゼータ関数」では、著者の小山信也博士が判り易く、素数定理を”初等的”な考察として紹介してありますが、とても凡人が理解できる次元ではありません。
 そこで2回に分け、チェビシェフの粗い素数定理を素人的見地から、その概要を簡単に紹介したいと思います。
 できるだけ忠実に判り易くとも思いますが、非常に理解に苦しむ所は省略します。

 さてと、2の6では、x→∞の時に素数が非常に少なくなる、つまり素数の割合が”0%”に近い事を証明したんですが。その少なさの度合いが凡そ”1/logx”の少なさというのが、素数定理の本来の意味なんですね。
 そこで登場するのが、素数の最大のテーマでもある素数定理です。これは粗く言えば、”n番目の素数の大きさ”を求める定理でした。
 その1(全12話)では、リーマンが行ったゼータの複素解析接続がテーマでした。
 その2(全20話)では、素数定理にシフトしました。一見、繋がりがない様に見えますが。素数の最大の謎、つまり素数定理こそが、リーマンが追い求めたもう大きな目標だったんですね。
 事実、”全数学のうち、最も注目すべき大定理”とアーベルは驚嘆してます。
 リーマンは、ゼータを拡張した道具である複素解析を駆使して、自明な形の素数定理を導出しようと試みました。

 しかしこの”強い”素数定理の証明には、リーマン予想が解明される必要があったのです。ここで初めてリーマン予想というのがヨーロッパ中の注目を浴びる訳ですが、リーマン予想よりも先に素数定理が解けてしまった。
 上述した様に、”弱い”リーマン予想(Re(s)=1上にゼータの零点がない)でも素数定理は解けたのだ(アダマール&プサン、1896)。
 ただ、証明されたこの素数定理は、リーマンが追い求めた自明な形の”強い”素数定理ではなく、チェビシェフが追い求めた”粗い”素数定理の精度を上げた、素数定理(π(x)~Li(x)=∫dx/logx)だったんです。
 つまり、チェビシェフがいなかったら、素数定理は解けなかった?ろうと。故に、このチェビシェフには異常なまでに拘るんですが。 


素数定理とリーマン予想

 この素数定理ですが厳密に言えば、正の実数xに対して定義される値”π(x)=x以下の素数の個数”の挙動に関する事実であると定義されます。
 仮に、全てのx(>0)に対し、π(x)の個数が判れば、どの数が素数であるかが全て判る。つまり、素数に関する謎が全て解けます。
 故にこのπ(x)を求める事が、現代の整数論の大きな目標の1つである。
 しかし、このπ(x)が求まる万能の方程式は、未だ誰も成功してはいない。この素数に関する万能方程式をリーマンは追い求めたんです。

 但し、リーマンによって発見された1つの事実がある。それは”明示公式”と呼ばれ、大雑把に書けば、π(x)=ΣᵨM(x^ρ)という誤差項のない完全な等式として表されます。
 因みに、ρはリーマンゼータの零点(根)を表し、右辺の和はρの全体に渡る。また関数Mは、区間[1、x]の特性関数のメリン変換(フーリエ変換)です。
 フーリエ変換とは、任意の関数は様々な周期(周波数)の三角関数の線形結合で表現できる。物理の言葉でいえば、任意の波は様々な周波数の波の重ね合せで表現できるという事で、ここでは詳しい説明は省きます。
 故に、リーマンゼータ関数の零点ρを用いれば、π(x)を誤差項なしでピタリと求める事が出来ますが、それら零点ρが未解決の”リーマン予想”なんですね。

 この未解決なリーマン予想を明示公式に適用し、得られた”過渡的な成果”こそが素数定理で、π(x)~x/logx、(x→∞)でした。
 そこで前述した様に、x→∞の時に素数が非常に少なくなるが、その少なさの度合いが”1/logx”くらいであり、これが素数定理の本質だと言いました。
 これは、15歳のガウス少年が発見した、”x以下の自然数が素数である様な確率がほぼ1/logx”だと言い換える事が出来ます。

 ”2の5”で述べた様に、素数定理には精密な表示、π(x)~∫ₜ[2,x]dt/logt、(x→∞)があり、これを見ると”x以下の自然数”というより、”丁度xほどの自然数”に対するものと言える。
 故に、”2の6”で得た”0%”とは、1/logx=0、(x→∞)という極限値の事だったんですね。
 つまり、数が大きくなると素数の確率は0%(1/logx~0)に近くなると。


チェビシェフの素数定理(1850)

 そこで素数の個数に何故?対数関数logxが登場するのか?これには色んな説明が可能とありますが。
 ここでは、素数定理の”粗い”形として、π(x)の挙動がx/logxの定数倍として抑えられる事実、つまり、以下の様な不等式(チェビシェフ 1850)を満たす様な、C₁C₂の存在を示します。C₂x/logx≤π(x)≤C₁x/logxー①
 因みに、このチェビシェフの主張ですが、 C₂≤liminf[x→∞]π(x)/(x/logx)≤limsup[x→∞]π(x)/(x/logx)≤C₁の事で(infは下限、supは上限)、素数定理とはC₁=C₂=1です。
 これをチェビシェフの”第一の結果”と呼びます(”2の11”参照)。

 しかし、そこまで明確にC₁とC₂が決まらず、極限に幅がある状態を”粗い”素数定理”と呼びます。
 因みにチェビシェフは、”π(x)はx/logxから±10%以上離れる事はない”とした。これをチェビシェフの”第二の結果”と呼ぶ。これも”2の11”参照です
 なおチェビシェフは、仮に”極限値が存在するならば、C₁=C₂=1に限る”事も仮定の上とはいえ、証明してますから、実質の初等的な素数定理の証明はセルバーグやエルデシュが行ったよりも100年前になされた事になります。 
 更に、この事実を用い、”n番目の素数pₙ”の大きさの評価、つまり、D₂nlogn≤pₙ≤D₁nlognー②となる様なD₁D₂の存在を示します。

 しかし、この証明は非常にややこしく、幾つかの定義と補題と系を準備します。
 勿論、厳密に進める筈もないのですが。素数定理が、如何に世界中の数学者を悩ませた難題であるかを知って頂く為に、ある程度は突っ込んで説明します。

 今日は久しぶりという事で、ここまでにします。次回はややこしいだけの数式や関数のデパート状態ですが、悪しからずです。



10 コメント

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チェビシェフの不等式 (象が転んだ)
2019-09-08 23:17:39
実は、チェビシェフの不等式で完全に頓挫してしまい、リーマンブログを辞めようかなと思ってました。素数定理はリーマン予想の心臓部ですからね。

でも、今やっとその不等式の証明に漕ぎ着けました。何でもやってみるもんです。これからも壁に何度もぶつかるかもですが、宜しくです。
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快気祝い?! (hitman)
2019-09-08 16:01:05
リーマンの謎のとうとう復活ですね。
快気祝いといきたいところですが。
ガロアも期待しとりま〜す(@_@)
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そういう事 (象が転んだ)
2019-09-08 11:57:50
リーマンの時代は、微分積分なんかの解析学が流行ったから、近似値の概念は多く用いられたんですかね。

チェビシェフのこの近似値の幅を縮める努力が素数解明の進歩を促したんです。

チェビシェフにもpaulさんにも感謝です。
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paulサンありがとね〜 (HooRoo)
2019-09-08 10:54:56
そういうことなの
近似値を不等式でハサミうちにしたってこと

でも、素数ってまだまだ謎が多いんだぁ〜

paulサンありがとね〜👋
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いつも助かります (象が転んだ)
2019-09-07 22:23:26
挟み撃ちにして両側から縮めていき、近似値の精度を上げるきっかけを与えたのが、チェビシェフだったんですよ。
この手法は今でも使われれます。素数の間隔の難題もこのやり方を使ってます。

Hoo嬢もpaulさんには感謝で〜すかね。
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補足です (paulkuroneko)
2019-09-07 19:16:41
素数定理とは元々近似式で、リーマンが追い求めた素数定理は完全等式の明示公式ですね。

それに対しチェビシェフはそれを挟みうちにした不等式です。極値が存在する時に素数定理が成立するというものですね。

数学の世界では、結果が証明を追い越すという事が多々あるんですね。
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tomasさんへ (象が転んだ)
2019-09-07 16:53:58
素数の闇に舞い込んで、自分を見失った感もありますが。現代数学において、この単純な素数の謎が大きな影響を与え、大きく飛躍させた事を考えると、何だか感慨深いです。

これからも時間と体力が続く限り、リーマンブログを何とか続けたいと思います。
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リーマンの謎復活 (tomas)
2019-09-07 13:09:00
2が月のDLから復帰ですか。
数式や関数には付いてけませんが、文章だと何とかイメージくらいは掴めそうかな?

でも、長編小説にできそうな雰囲気が悶々と伝わってきます。
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Hoo嬢へ (象が転んだ)
2019-09-07 10:53:18
素数定理の概略はガウスが示してたんですが。チェビシェフはリーマンとは異なり、初等的考察から、素数の不等式(ベルトランの不等式)を証明したんですが。等号が成立する時の形が、素数定理の式にピタリと嵌ったんですね。

結果的に、後から追いついてきたって感じですか'。

それくらいの事しか、言えませ〜ん(笑)
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庶民的質問で〜す (HooRoo)
2019-09-07 06:52:21
リーマン予想の先に素数定理があるのはわかったけど、チェビシェフは素数定理が予想されてなかった頃に素数に関する不等式を証明してたんだよね?

つまり、素数定理の先回りをしてたってわけかな(?_?)

ではバイバイ👋
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