象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

フォアマンの衝撃と奇悲劇とその豪打と、その1〜”象をも倒す”男が引き起こした”キングストンの惨劇”

2019年09月21日 02時56分45秒 | ボクシング

 この記事は、1年程前に書いて温めてたんですが、投稿するきっかけが中々掴めず、お蔵入りしてたものです。
 元々フォアマンの大ファンで、ボクシングの概念を一変させた神様だと今でも思ってます。ボクシング経験者なら、アリよりもフォアマンの偉大さに畏怖するでしょうか。

 そこで、3回に渡り、プレデター級の破壊王”ジョージ•フォアマン伝説”です。


噛ませ犬とは?

 ボクシングの世界では、よく”噛ませ犬”という言葉が使われる。金メダリストらのシンデレラボーイを大切に育て、王者にする為に、確実に勝てる対戦相手の事を言います。
 つまり、強過ぎても困るし、キャリアがなく弱すぎても困る。程々のテクニシャンで程々に弱い選手が、噛ませ犬としては理想なのだ。

 この”噛ませ犬”路線と言えば、デラホーヤやメイウエザーJr、カネロらが有名だが、逆に、パッキャオみたいな雑草上がりの、無類でタフな王者も沢山いる。チャンプと言えど、玉露混合の世界でもある。
 日本でも、亀田兄弟や村田諒太のケースが有名だが、世界ではずっと昔から平然と行われていた。

 そこで今日は、その”噛ませ犬”路線の第一人者である、ジョージ•フォアマンに登場してもらう。
 誰もが、え?あの”象をも倒す”フォアマンでしょ?って疑う人も多いだろう。
 そうフォアマンこそが、”温室育ち”のチャンピオン第一号だったんですね。


ジョージ•フォアマン誕生

 ”僅か3発で象をも倒す”と怖れられた”プレデター”級の男は、当然の如くボクシング世界ヘビー級王座を獲得した(1973)。
 しかし、”キンシャサの奇跡”(1974)でモハメドアリに敗れ、僅か28歳の若さで引退。その10年後に復帰し、何と45歳で世界ヘビー級王者に返り咲いた伝説のチャンピオン、ジョージ•フォアマンの奇悲劇を紹介する。

 貧しい黒人家庭で、7人兄弟の5番目の子供としてテキサス州マーシャルに生まれた。
 喧嘩•飲酒•窃盗に明け暮れる何処にでもいるスラムの不良少年で、中学すらまともに卒業していない。因みに、フォアマンだけが唯一父親が違う、奇妙な血縁でもある。
 16歳の頃、偶然TVで目にした”君にもセカンドチャンスがある”という広告を見て、職業部隊に加入した。職業訓練を受けながらも、ボクシングと出会い、見事に更生する。ま、ここまでは何処にでもあるスポ根物語ですな。
 でも写真で見る限り、札付きのワルを遥かに超えてます(怖)。

 ヘビー級王者ソニー•リストンを育てた名トレーナー、ディック•サドラーの指導受けた。お陰で、アマチュアボクシングから、僅か2年足らずで国内選考会を勝ち抜き、メキシコ五輪のヘビー級米国代表選手に選ばれる。
 1968年、旧ソ連のイオナス•チェプリスをKOで破り、金メダルを獲得。
 まだ19歳のフォアマンだったが、身長192cmでリーチ202cmと、恵まれた体格と圧巻のパンチ力が武器であった。
 当時は、スリムだった事もあり、軽快な動きと鋭いジャブは、非常に印象に残る。


とうとう世界の頂点へ

 五輪後の1969年には、前述のディック•サドラーとマネージャー契約し、元ヘビー級王者ソニー•リストンのスパーリングパートナーを務める。
 トレーナーにはサンディ•サドラー、防御にはアーチー•ムーアと、最上級の指導でフォアマンの持つ至高の才能を、プロ仕様にデザインしていく。
 デビューの年は13連勝(11KO)、翌年も12連勝(11KO)。但しこれは、”温室路線”の徹底した”過保護プラン”の賜物でもあり、当初は”メダルに胡座を掻いて雑魚に勝ってるだけ”と揶揄された。

 しかし、3年目は7試合に絞り、突貫型の強打者を選んで対戦させた。ターゲットが、当時の世界王者のフレージャーである事は明らかだった。
 翌1972年は、5試合と更に試合数を落とし、豪打と巨漢だけが取り柄のフォアマンを、更に研ぎ澄ましていく。
 温室育ちではあるが、こうした揺るぎない一貫した路線により、テキサス生まれの気弱で純朴な青年は、自信に満ち溢れた”超獣”に変貌していく。 

 1973年1月、37戦全勝(34KO)という戦績を引っ提げ、WBA•WBCヘビー級王者ジョー•フレイジャーに挑戦する。
 フレイジャーもまた、1964年の東京オリンピックで金メダルを獲得した後、プロに転向し、1970年にはヘビー級の世界統一王者となる。蒸気機関車のような突進力で”Smokin' Joe”と恐れられた。

 誰もが知る、あのモハメド•アリを初めて敗北させたボクサーでもある。29戦全勝(25KO)の圧巻の戦歴を誇るフレイジャーも、この防衛戦では強い挑戦者が待ち構えてたが、敢えて温室育ちでビッグネームのフォアマンを選んだ。
 お陰で、誰もがフレイジャーの楽勝だと予想した。多分、フォアマンが勝つと予想した人は、一人もいなかったろう。

 因みに、モハマド•アリ(当時はカシアス•クレイ)がソニー•リストンの持つ世界タイトルに初挑戦した時(1964)も、リストンは、温室育ちで安全牌と言われた”ホラ吹きクレイ”を迎え入れたが、逆にKOされタイトルを失う。その後のリターンマッチは、もっと悲惨な結果となった。


”キングストンの惨劇”

 さてと、場所はジャマイカのキングストン国立競技場。後の”キンシャサの奇蹟”、そして”スリラー•イン•マニラ”へと続く、発展途上国が国威発揚の為に、招致した3部作の第1弾と言ったら出来過ぎか。
 王者フレイジャー29歳、フォアマン25歳。そして、東京とメキシコの金メダリスト同士の戦いと、これまた出来過ぎのメガファイトとなった。その上、二人とも無敗!
 しかしフレイジャーの29戦(25KO)に対し、フォアマンは37戦(34KO)と、若き挑戦者がKO率でも試合数でも上回っていた。

 ”雑魚相手に試合を重ねただけ”と、メディアもファンもフォアマンを見くびった。勿論、フレイジャーの油断もあった。
 試合は火を見るより明らかだった。フォアマンの豪打がフレイジャーの突進を軽々と捉え、粉々に粉砕した。
 今風に言えば、プレデター(捕食者)と人間(獲物)との戦いを見てる様で、完全KOというより、”捕食”そのものでしたな。
 しかし、元々気の弱いフォアマンは、フレイジャーと睨み合った時、”膝が震えた”と漏らしてます。 

 ゴングが鳴るとフレイジャーは、得意の破壊力抜群の左フックを、何度もフォアマンに見舞います。しかし、間一髪の所で空を切る。
 この狂気じみた重戦車級のロングフックがまともに直撃してたら、”フォアマン伝説”も、4年を掛けたサドラーの”温室路線”も、全くの無に帰したでしょうか。

 事実、試合後にフォアマンは、”あのパンチで殺されると思った。しかし気が付いたらヤツの方が倒れてた”と漏らした。
 フォアマンの豪打スタイルの特徴として、左右のロングフックとショートアッパーが特徴です。
 距離を取る相手には、”僅か3発で象を倒す”と怖れられた超ド級のメガフックが有効だった。
 一方、突進型の距離を詰めるファイターには、ジャブで相手の出鼻を封じ、器用で精度の高いアッパーカットが決め手となった。
 お陰でフレイジャーはモロ、このショートアッパーの餌食になったんですね。

 全く成す術もなく、最初のダウンを奪われたフレイジャーは、フォアマンの容赦ない豪打を浴び続け、計6度のダウンを喫し、僅か2Rで王座を奪われた。

 無敗のアリに勝利し、絶対王者と言われたフレージャーが、何度もキャンバスに転がされた無残な様は会場の名をとり、”キングストンの惨劇”と名付けられた。
 今なら、”プレデター級の衝撃”とでも言えますね。


フォアマンの絶頂

 その後、1974年3月”アリの顎を砕いた男”ケン•ノートンを、これまた僅か2RTKOで下し、2度目の防衛を果たす。
 厳しい荒野を生き抜いた世界最強のフレージャーを、エリートボクサーであるノートンを、完膚なきままに打ち砕いたフォアマンだった。
 しかし、予め引かれた線路を走る心地よさを知ってしまったフォアマンが、この”惨劇”の1年と9ヶ月後に、”神をも恐れぬ男”アリと対峙した時、純朴で気の弱い素性を曝け出したのは、ある意味必然だったのか。
 それとも、アリ陣営が仕掛けた毒殺?だったのか。

 アリさえ、いや”ロープアドープ”さえなければ、フォアマン•プロジェクトは完璧な形で終わっていたかもしれない。
 私的に言えば、温室育ちのフォアマンに毒を盛った”キンシャサの奇劇”(1974)であったと言えなくもない。奇跡を奇劇にモジッてます、悪しからず。
 事実、その後のアリのファイトは、”ぬるま湯に浸った安住の路線”を、ダブついたお腹とふらつく脚で、よたよたと歩いてる様に思えた。

 現役引退後の二人の生き様を見てると、結果として”毒を盛られた”のはアリの方ではなかったか。
 このキンシャサの奇悲劇?に関しては次回で述べる事にします。今日はここでオシマイです。 



2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
象をも倒す (hitman)
2019-09-21 16:21:37
象が転んだというより象が躍動したってか。
転んだサンがフォアマンにぞっこんなのが手に取るようにわかります。

フォアマンてペンネームの起源にもなったんだよね。
返信する
象が跳んだ (象が転んだ)
2019-09-21 18:34:12
厳密には沢木耕太郎さんの「象が跳んだ」から来てます。あの本でフォアマンの大ファンになりました。本当に素晴らしい人格者だと思います。

それに比べたら、モハマド•アリなんて名前からして偽善ですよ。人格もペテンぽいし、でもアリの度胸と勇気は凄いですね。

因みに、猪木はフォアマンにも異種格闘技をやろうと誘ったらしい。だから猪木はアホなんです。リング上だけで全てが決まると思ってんですかね。
返信する

コメントを投稿