象が転んだ

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素数の基本を理解しよう”その1”〜バ○で人生を終えたくない人の為に

2023年08月01日 09時50分04秒 | 数学のお話

 あるフォロワーの記事に”素数ゼミ”の事が書かれてあった。最初は素数ゼミナールの話かと思ったが、何とセミと素数のお話である。
 素数に関しては、リーマン・ブログで数多くテーマにしてきたつもりだが、素数ゼミの事をすっかり忘れていた。つまり、セミだけでなく数学が生き延びてきた上で大切な役割を果たしてきたのが素数である。
 古代から人々を魅了してきたこの素数だが、今でも数多くの数学者を惹き付けて止まない。
 そこでまずは、(バカで人生を終えたくない為の)素数の基本の基についてのお話です。


素数と生存戦略

 アメリカでは、13年あるいは17年ごとに大量発生する”周期ゼミ”が羽化する。
 この周期ゼミには、13年周期が3種類と17年周期が12種類知られている。2021年6月に発生した17年周期の”素数ゼミ”は、周期ゼミの中でも最大規模を誇る。何とその数は数兆匹にもなる。
 因みに、素数ゼミの起源は氷河期にあるとされ、必然的に幼虫として地中で過ごす期間が長くなった。つまり、17年周期なら17年間を幼虫として地中で過ごし、成虫として地上に出れば僅か2週間で死ぬ。
 故に、セミの生存戦略としては、この短い間に数多く交配する必要がある。その為には、莫大な数の雄と雌のセミを短期間で羽化させる必要がある。言い換えれば、超膨大なる瞬間的”集団合コン”といえば、理解しやすいだろうか。

 しかし、なぜ周期ゼミのサイクルが13年と17年なのだろう?15年や16年周期は存在しないのか?
 実は、周期ゼミの祖先には12年~18年まで様々な周期で羽化する群れがいたとされる。が、長い歴史の中で13年と17年周期以外のセミは絶滅した。理由は、13と17だけが素数だからだ。故に、現存する周期ゼミは”素数ゼミ”とも呼ばれる。
 そこで、素数ゼミが生き残った理由を初歩的な数学で考えてみる。

 仮に、セミの天敵である捕食者の発生周期を3年と想定する。例えば、12年周期ゼミは(3と12の最小公倍数である)12年ごとに捕食者と同時発生し、羽化する度に捕食者に食い潰される。
 一方、13年周期の素数ゼミが3年周期の天敵と同時発生するのは(3と13の最小公倍数である)39年ごとだ。つまり、天敵と同時発生する機会が少なければ、その分絶滅の危険も少ない。

 また、周期が異なる雄と雌が交雑すると、親とは周期が異なる幼虫が生まれ、群れがバラバラになり、小さくなる事も指摘されている。
 例えば、15年周期のセミと18年周期のセミは、(15と18の最小公倍数である)90年ごとに同時発生する。一方、15年周期のセミと17年周期のセミが同年に羽化するのは255年ごと。異なる周期のセミと交雑する機会が少ない17年周期のセミは、生存競争上で有利なのだ。
 つまり、素数である13と17は最小公倍数が大きくなるという初歩的な数学的事実が、周期ゼミの絶滅を免れた事を説明してくれる。
 以上、「セミの大量発生!納得の理由」(永野裕之)を参考にでしたが、セミの生存戦略が素数にあるとは、セミもなかなかの数学オタクなんですね。恐れ入りました。


素数を理解しよう

 2,3,5,7,11,13,・・・と続く素数ですが、数学的な定義では”1と自身以外に約数を持たない2以上の整数”の事です。わかり易く言えば、”自分以外の数では割り切れない数”とも言える。
 人間で言えば、”自分以外に(心を割って話し合える)友達がいない人”とも言えますかね。

 例えば、50までの素数を列挙すると、2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47と、とても不規則な並びになる。
 この絶妙なる不規則性が多くの数学者を惹き付け、悩ませてきたんですが。この不規則性は今でも解明されていない。
 ただ、この素数の不規則な並びに一番近づいたのが(素数ゼミではなく)、我が人類の最高の知性の1人であるベルンハルト・リーマン博士でした。
 つまり、素数は数学史上最大のスーパースターとも言える。

 そんなスーパーな素数ですが、かつて2018年12月に”最大の素数が更新される”と言うニュースは世界を駆け巡りました。
 2486万2048桁という途方もない巨大な素数が発見され、これは51番目の知られているメルセンヌ素数である。因みに、メルセンヌ素数とは2ⁿ−1の形をした素数の事で、上の最大素数は2^{82589933}−1となる。
 こうした巨大な素数の発見が大きなニュースとなるのは、単なる数学上の発見という理由からではなく、私達の日常生活の中で如何に素数が重要な役割を果たしているかを物語っている。
 私達が頻繁に使うネット上のパスワードは、まずは数字に変換されて暗号化される。この暗号化には(RSA暗号の様に)巨大な素数が使われ、この巨大素数の発見の困難さが我々と社会の安全性を守ってくれている。
 つまり、素数の不規則さという数学の難しさが我々の安全を守ってくれてるのだ。逆を言えば、数学が簡単な学問だったら、いや素数が規則的な数だったら、パスワードもネットもSNSも危なっかしくて存在しなかったでしょうか。
 素数(数学)が、人類とその生存戦略に一役買ってるとも言えますが。言い換えれば、今やネットにどっぷりと浸かってる人類は、素数と数学なしでは生きていけないのだ。  
 

素数の謎

 そんなスーパーマン的存在の素数だが、TVドラマや映画にもしばし登場する。
 「相棒~殺人の定理」(テレ朝)や「犯罪化学分析室~電子の標的」(TV東京)や映画「容疑者Xの献身」などがある。
 これを見ても判るように、素数は数学の華である。が、素数だけを作り出す公式は未だ発見されてはいない。
 例えばオイラーは、n²+n+41という素数生成の式を考案した。事実、n=0の時は0+0+41=41で素数となり、以下、n=1の時も1+1+41=43で素数、n=2の時も4+2+41=47で素数となる。更に、nが39まで40個連続して素数を生み出す。
 しかし、n=40の時は41の倍数となり、素数ではなくなる。うーん残念!

 素数が自然界と関係してる例として”素数ゼミ”を挙げたが、セミが自然淘汰されない為の進化が素数の周期にあったというのは、非常に興味深い。
 実際、数論学者の加藤和也氏は素数ゼミにヒントを得て”(我が息子が所有する「ウルトラマン怪獣全集」を見てると)チルソニア星人はセミから進化した宇宙人であり、彼らの星では我ら地球よりも数論がずっと進化してるに違いない”と語っている。

 セミの生存戦略には欠かせない素数だが、自然数の中でどれだけの割合で存在するのだろうか?
 例えば、1から100までの素数の個数は23個で25%の割合で存在する。1~1000では168個で16.8%、1~10000では1229個で12.29%、1~100000では9592個で9.592%、1~1000000では78498個で7.8498%。
 以上より、大きな数になる程に素数が現れにくくなる。故に、大きな素数が発見されると大きなニュースになる。
 ではなぜ、大きな数ほど素数が少なくなるのか?理由は単純である。
 2より大きい整数では、2の倍数は素数になれない。3より大きい整数では、2の倍数も3の倍数も素数になれない。4より大きい整数では、2の倍数も3の倍数も4の倍数も素数になれない。この様に、kよりも大きい整数では、2からkまでのどんな倍数も素数にはなれない。
 つまり、大きな数になるほど様々な倍数が繁茂し、素数の出現割合は小さくなる。

 
素数を解明するには

 大きな数になるほど、何かの倍数になる確率が高くなるのなら、それらの倍数を除去し、素数の規則性を発見できないだろうか?
 例えば、(3以上の整数では)2の倍数も3の倍数も素数になれない事から、まずは2の倍数により自然数の半分が偶数となり、3の倍数よりその他の半分のうち1/3を素数でないとして、素数を取り出せそうだが、事はそう単純じゃない。
 例えば、6の倍数は2の倍数と3の倍数の重なりであるから、二重に取り除く事になる。つまり、取り除く倍数の種類が増える事で、除去すべき倍数の正確な数はより複雑になる。
 故に、裏をかいたつもりが、倍数の除去を考える事で素数の不規則さをより思い知る事になる。
 一方で、あるパターンの数が”素数でない”事は簡単に判る。例えば、ある2桁以上の整数nの末尾が0,2,4,8なら、nは偶数となり素数ではない。また、末尾が5ならnは5の倍数なので素数にはなりえない。
 故に、nが素数であるには末尾が1,3,7,9のいずれかである必要がある。が、その場合でも素数とは言えない。21,33,27,39はみな3で割り切れるので素数となる。つまり、末尾では”素数でない”事は判別できるが、”素数である”事は判定できない。

 では、与えられた整数nが”素数か否か”を判定するにはどうしたらいい?
 最も素朴な方法として、「ルートによる素数判定」というのがある。
 仮にnが素数でなければ、2からn−1までの数で順にnを割っていけば、必ずどこかで割り切れる。例えば、91を2で割り3で割りと順に割っていけば、7=91÷13と7で割り切れ、91は素数でない事が判る。他方で97は、96までずっと割り切れず、素数であると判定できる。
 しかし、96まで延々と計算する必要があるのだろうか。答えは、10以下の数の計算だけで事足りるのだ。
 ここで97が素数ではなく、2以上の整数a,bを使い、a×bで表せると仮定する。
 この時、a,b共に10以上の数ではない事は明らかで、aかbの一方は10未満となる。故に、2から順に9まで試し、97が9で割り切れない時点で、97=a×bは矛盾し、素数と判定できる。
 以上を一般化すれば、”nを2から順に割っていき、√n以下の数までで割り切れないなら、nは素数である”となる。
 証明は、97をnに置き換えるだけで事足りる。まず、nが素数ではなく、2以上の整数a,bを使い、n=a×bで表せると仮定する。
 この時、n=√n×√nより、a,b共に√n以上の数ではない事は明らかで、aかbの一方は√n未満となる。故に、2から順に√nまで試し、nが√n以下の整数で割り切れない時点で、n=a×bは破綻し、素数と判定できる。
 しかし、この方法は確実ではあるが、以下で述べるピタゴラスの手法と同様に、数が大きくなる程に計算が困難になる。
 以上、「世界は素数で出来ている」(小島寛之著)やウィキやその他を参考にまとめました。

 私達が当たり前のように思ってる素数ですが、長い長い歴史と様々な不規則な要素が詰まった神秘的な数でもあります。
 多くの数学者を虜にしてきた素数ですが、私達を取り巻く世界の成り立ちや大自然、そして宇宙の真理すらも解き明かす大きなヒントを与えてくれる。
 つまり、素数を知らずして人生を終えたくはないですよね。 
 いつもの事ですが(悲)、少し長くなったので初回はここまでです。
 次回は素数に惹かれた数学者たちについて書きたいと思います。



7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
本日NHKで (平成エンタメ研究所)
2024-09-29 08:15:42
本日9月29日(日)「ダーウィンが来た」(NHKよる7時30分~8時)で、『素数ゼミ』の話をやるようです。
17年ゼミと13年ゼミで221年ぶりに数兆匹が大量発生!

https://www.nhk.jp/p/darwin/ts/8M52YNKXZ4/episode/te/Q73X4ZR4WK/
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ビコさん (象が転んだ)
2023-08-03 09:08:23
確かに
悪魔のような数字でもありますよね。
そんな私も素数を勉強する度に、何かに囚われた様な気分になり、頭がおかしくなりそうな時もある。
ここ数日は素数にのめり混んでますから
第一回の記事は素数の美味しく優しい部分なのでストレスなく読めるんですが、これからは結構大変な内容になるかと思いますが・・・

いつもコメント有り難うです。
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paulさん (象が転んだ)
2023-08-03 09:02:41
返事遅れてスミマセン。
レイランド数ですか、初めて知りましたが。とても美しい数ですね。思わずウットリしました。
言われる通り
素数は”他人の介入を許さない孤高な数”なんですよ。だから同じく孤高の数学者が惹かれる。
私を理解してくれるのは素数しかいない。だったら私達も素数を理解しようって・・・
でもそこからが大変な労苦が待ち構えていた。
17が忌み嫌われた素数であるように、素数の呪いで頭がおかしくなった数学者もかなりいたでしょうね。
まさに素数の呪いと言ったところでしょうか。

コメント今日も勉強になりました。
いつも有り難うです。
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Unknown (1948219suisen)
2023-08-02 12:03:11
素数に対して無知でしたから、この記事で大いに学ばせていただきました。お陰で馬鹿なまま死ぬことは何とか免れたかもしれません。これからもこの大馬鹿者を少しでも啓蒙するような記事を書き続けてくださいますように!

素数って、神秘的かつ悪魔のような存在でもありますね。
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素数の魔力と迷信 (paulkuroneko)
2023-08-02 11:22:22
他人の介入を許さない孤高な数というイメージが数学者を素数の虜にするんでしょうか。
また、7という素数はラッキーナンバーとされるし、11はサッカー以外では不思議と目立たない素数で、13という素数は忌み嫌われる。

その次に来る素数の17は、大谷選手の背番号ですが、かつてピタゴラスが嫌った数でもありました。4×4の正方形と3×6の長方形の中間にあるという事が理由だそうですが。
一方で、17は3番目のフェルマー素数であり、正17角形の作図が可能なことがガウスによって証明されました。
そういう意味ではおめでたい素数ですが、素数ゼミも17年周期でしたね。
更に言えば、17はレイランド数の中でも最小の素数とされますが、x^y+y^xの見事な形をした数字で、素数の場合はレイランド素数と呼びます。
古代ギリシャだけじゃなくイタリアでも忌み嫌われた17という素数ですが、神秘というより迷信に近いような気もしますね。 
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エンタメさん (象が転んだ)
2023-08-02 02:32:39
堅苦しい記事にコメント有り難うです。
こちらこそ貴重なヒントを与えてもらって感謝してます。

素数というのは身の回りに溢れてるにも関わらず、なかなか理解してもらえない数字でもあり、一方で縁担ぎの数字でもあるような気もします。
野球選手も素数を背番号にしてる人って以外に成功してますよね。イチローは61で大谷は17。日ハム時代はダルも大谷も11でしたか。少し調べたら、素数の背番号は人気があるらしいですね。

自分以外には約数(仲間)を持たない素数ですが、そうした神秘性が好まれるのかもです。
NASAの信号の件も実に興味深いです。
素数は宇宙の全てを知り尽くしてるのかもですね。
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楽しみにしております (平成エンタメ研究所)
2023-08-01 15:04:25
ご紹介いただきましてありがとうございます。
実は、画像と同じ本をもとに、あの記事を書きました。

素数については、NASAが地球外の知的生命体と接触を取るために「素数の光の信号」を展望台から送り続けているという話を聞いたことがあります。
知的生命体なら素数を理解しているので、何らかの反応をして来るだろうというわけです。

象転さんの素数の話、楽しみにしております。
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