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リーマン予想と素数の謎、旧その3(20/7/25更新)〜オイラーからディリクレ、そしてリーマンへ〜

2018年05月29日 20時14分20秒 | リーマンの謎

 ”旧その1”では、リーマンゼータ関数の概略を、”旧その2”ではオイラーにより発見されたゼータ関数が複素数上でも定義できる事を大まかに述べました。
 リーマンは、この謎深きゼータ関数を解析接続し、複素数s=1以外の全ての点で定義できる様に拡張したのですが。
 このリーマンゼータ関数ζ(s)=Σ(n=1,∞)1/nˢ=1/1ˢ+1/2ˢ+1/3ˢ+•••、(Re(s)>1)で示され、且つ収束します。
 元々このリーマンゼータ関数は、Re(s)>1の時しか成立しませんから。Re(s)≤1の複素数sでζ(s)は発散します。例えば s=1の時、ζ(1)=1+1/2+1/3+•••=∞と発散し、調和級数の形になります。


オイラーとリーマンの関数等式と

 そこで、何とか左側(≤1)に定義域を拡げたいんですが。”旧その1”で述べた様に、リーマンは関数等式を使って解析接続を進め、定義域を広げていくんですが。
 元々、オイラーが1749年に発見した非対称型関数等式ζ(1−s)=ζ(s)2(2π)⁻ˢΓ(s)cos(πs/2)を変形した、リーマンの非対称型関数等式ζ(s)=2ˢπˢ⁻¹sin(πs/2)Γ(1−s)ζ(1−s)を見れば、s=1の時、右辺のsinとΓが同時に発散するのが判りますね。
 故に、s=1で1位の極を持つと言います。厳密に言えば、s=0,1,2,3,...も極となり、これらを纏め、1位以上の極とも呼びます。

 因みに、このリーマンの関数等式は、Γ(s)の相反公式と倍角公式を使い、ζ(s)=π^(s−1/2)*Γ((1−s)/2)/Γ(s/2)ζ(1−s)とリーマンの対称型関数等式置き換えれます。
 これを見ると、この関数等式は、ζ(s)がRe(s)=1/2を対称軸とする美しい対称性を持つ事がイメージできます。
 多分、オイラーもリーマン予想に近いものを感じてたんではないでしょうか。
 因みに、強引にs=−1を代入すると、ζ(−1)=1+2+3+4+•••=−1/12となるから、全く奇妙です。これは、”旧その4”で述べるゼータ関数の特殊値を参照です。


ゼータ関数とオイラー積
    
 また、ゼータ関数と素数との関連は、オイラーによって示され、このζ(s)は、”オイラー積(表示)”(1737)でも表せます。
 リーマンゼータ関数は、”全ての素数pをわたる無限積”により、ζ(s)=Σₙ1/nˢ=Πₚ{1/(1−1/pˢ)}”無限和=無限積”の形で表されますが、この右辺こそが”オイラー積”となるのです。よく理解しておきましょう。
 また、Πは総乗(無限積)の事で、ζ(s)=Πₚ(1/(1−1/pˢ))=/(1−1/2ˢ)×1/(1−1/3ˢ)×1/(1−1/5ˢ)ו••×1/(1−1/pˢ)ו••と展開できます。
 この美しい等式こそが、”ゼータの始まり”と言われ、素数の逆数が発散する事の証明にも繋がるんですが。
 この”素数の逆数の和の発散=素数が無限大に存在する”事を発見したのがオイラーで、2千年越しの偉業の始まりです(”2の4”参照)。
 
 この”オイラー積”の証明ですが。”2の4”での”素数の逆数の和の発散”の証明と流れは同じです。
 無限等比級数の公式”1+p⁻ˢ+(p⁻ˢ)²+(p⁻ˢ)³+•••=1/(1−p⁻ˢ)、|p⁻ˢ|<1”を用いれば、自然数は素数の積に一意的に表される(4=2・2,6=2・3,8=2•22,9=33,,,より明らか)から、
1/(1−1/2ˢ)×1/(1−1/3ˢ)×1/(1−1/5ˢ)ו••
=(1+1/2ˢ+1/2²ˢ+1/2³ˢ+•••)
×(1+1/3ˢ+1/3²ˢ+1/3³ˢ+•••)×
(1+1/5ˢ+1/5²ˢ+1/5³ˢ+•••)ו••
=1+1/2ˢ+1/3ˢ+1/4ˢ+1/5ˢ•••と展開され、故に、ζ(s)=∑ₙ1/nˢ=∏ₚ(1+1/pˢ+1/p²ˢ+1/p³ˢ+・・・)
=∏ₚ1/(1−p⁻ˢ)が成立します。
 因みに、”2の10”で紹介する”エラトステネスのふるい”を使うやり方もありますが、ここでは素因数分解のやり方を紹介しました。


オイラーからディリクレへ

 このオイラー積とはディリクレ級数を素数に関する総乗の形で表した無限積でもあります。
 Σₙa(p)/nˢ=Πₚ1/(1−a(p)/pˢ)と、級数a(n)を使って表示されます。これもディリクレ級数のオイラー積と言います。
 つまり、このディリクレ級数はリーマンゼータ関数と一致し、まさに、”ゼータ関数の一般化”になっている訳ですね。
 因みに、ディリクレ級数L(s,a)とは、複素数列a(n)(n≥0)を用い、複素数sに対し、L(s,a)=Σₙa(n)/nˢで定義されます。
 全ての整数nで、a(n)=1とすれば、前述のオイラー積とゼータ関数(級数)となります。
 故にL(s,a)はL関数と呼ばれ、ゼータ関数の親父版とでもいいましょうか。 

 このヨハン•ペータ•ディリクレ(1805〜1859 イラスト左上)というドイツ生まれの数学者は、ゼータ関数にて、オイラーとリーマンを結ぶ貴重な役割を果たします。
 上述の素数の逆数の和の発散という”オイラー予想”を一般的な形として証明した(1837)ディリクレの偉業は、”ディリクレの算術級数定理”と呼ばれ、互いに素なa,bに対し、an+bと書ける素数が無限に存在し、更にこの様な素数の逆数和は発散するというものでした。
 この大偉業は、オイラー積の発見から丁度100年目の事です。
 故に、このディリクレの証明こそが”解析数論の始まり”と言われ、1859年のリーマンの研究を促したと言われます。しかし悲しい事に、彼はリーマンの成果を見る事なく他界します。


ディリクレ級数のオイラー積

 このディリクレ級数のオイラー積の証明ですが。先述のオイラー積の証明と同じ流れです。
 L(s,a)=Σₙa(n)/nˢにて、まず、a(n)が”乗法的関数”という条件で、素因数分解する事で証明を進めます。この乗法的関数とは、互いに素なmとnに対し、a(mn)=a(m)a(n)という積で表されます。
 故に、Σₙa(n)/nˢ=a(1)/1ˢ+a(2)/2ˢ+a(3)/3ˢ+a(4)/4ˢ+a(5)/5ˢ+a(6)/6ˢ+•••
=a(1)/1ˢ+a(2)/2ˢ+a(3)/3ˢ+a(2²)/2²ˢ+a(2)a(3)/(2•3)ˢ+•••、と同様に変形できます。
 ここで注意ですが。a(2²)≠a(2)a(2)、互いに素ではないより。また、a(1)=1です。

 これを素数ごとのべき乗の逆数の和の無限積にまとめると、
Σₙa(n)/nˢ=
(a(1)/1ˢ+a(2)/2ˢ+a(2²)/2²ˢ+a(2³)/2³ˢ+•••)
×(a(1)/1ˢ+a(3)/3ˢ+a(3²)/3²ˢ+a(3³)/3³ˢ+•••)
×(a(1)/1ˢ+a(5)/5ˢ+a(5²)/5²ˢ+a(5³)/5³ˢ+•••)ו••、とキレイな形に積分解できます。
 以上を纏めると、Σₙa(n)/nˢ=Πₚ(1+a(p)/pˢ+a(p²)/p²ˢ+a(p³)/p³ˢ+•••)。ここで、1+a(p)/pˢ+a(p²)/p²ˢ+a(p³)/p³ˢ+•••=1+a(p)/pˢ+(a(p)/pˢ)²+(a(p)/pˢ)³+•••と、a(pᵏ)=a(p)ᵏの形になる様に、完全乗法関数(全ての自然数mとnに対し、a(mn)=a(m)a(n)の積で表示)を適用します。
 初項1、公比a(p)/pˢの無限等比級数の公式により、Σₙa(n)/nˢ=Πₚ{1/(1−a(p)/pˢ)}が証明できました。
 但しこれには、級数Σa(n)が絶対収束、つまり、Σ|a(n)|が収束する事が大前提です。


オイラーの偉業とその人なりと

 "息をする様に数学をした"といわれるオイラーは、この無限個の足し算に異常なほどの愛情を注ぎました。
 ζ(2)=π²/6という”バーゼル問題”(1735)の大発見で、ゼータ関数に円周率πが登場する事を見つけた若きオイラーは、1737年、このゼータ関数が全ての素数pについて式を掛け算した形”オイラー積”に書き換えられる事に気付いた。
 つまり、”ゼータ関数が全ての素数についての情報を持つ関数"に気付いた最初の数学者でもあったんです。このスイス生まれの18世紀最大の数学者もまた、ガウスと並び称されたもう一人の数学の巨人と称されます。

 右目を失明し、"単眼の巨人"と賞賛されたレオンハルト•オイラー(1707〜1783)ですが。スイスのバーゼル生まれで、天体物理学者でもありました。特に1760年に発表した"発散級数"は、息を呑むほどに美しい。
 因みに、彼の超人なる成果を年代別に挙げると、僅か28歳のオイラーは、難関と言われた”バーゼル問題”(ζ(2)=π²/6)を解き、一躍有名になります(1735)。そして、ゼータの正の偶数の特殊値を求め、その後”特殊値表示Ⅰ”であるζ(2n)=π²ⁿ×(有理数=ベルヌイ数)を発見します。

 1737年は、先述した有名な”オイラーの積表示”ですね。同時に、”素数の逆数の和が無限大である”事を証明し、自明な定理で素数が無限個存在する事をユーグリッド哲学以来、2千年ぶりに証明したのです。
 1739年には、ζ(0),ζ(−1),ζ(−2),,,のゼータの負の特殊値(全て有理数=ベルヌイ数)を求め、”特殊値表示Ⅱ”を証明しました。
 そして、先述したオイラーの非対称型関数等式、ζ(1−s)=ζ(s)2(2π)⁻ˢΓ(s)cos(πs/2)を発見します(1749年)。 
 この(非対称型)関数等式は、上述した様に1859年リーマンが複素関数の解析接続を行うと同時に、確実な証明を与えます。
 因みに、Γ(s):ガンマ関数も1729年にオイラーが最初に導入しました。

 こうして、リーマン予想の前触れとなる、”s=−2,−4,−6,,,がζ(s)の自明な零点となる”を発見したんですが。リーマンが考案した解析接続によるではなく、発散級数を巧みに処理して収束値を求めてたというから驚きです。
 1768年にも、オイラーの第一積分表示である、ζ(s)=1/Γ(s)∫ₜ[0,∞] tˢ⁻¹dx/(eᵗ−1)を発見。これも同じくリーマンが活用します。

 オイラーはゼータ関数関連でも、これだけの偉業を成し遂げたんですが。
 それ以外にも、"世界で最も美しい"と称されたオイラーの公式(eⁱᶿ=cosθ+isinθ)、RSA暗号に応用されるフェルマーの小定理の拡張等ありますが。とにかく、オイラーなくしてリーマンやゼータ関数は勿論、現代数学も語れないという事ですね。
 オイラー、ディリクレ、リーマンの偉大なる3人の数学者がバトンを渡し、取り組んだゼータの謎だったんです。


最後に〜オイラーとニュートン力学

 オイラーの偉業は数学以外にも及び、ニュートンの力学を幾何から数学的解析に翻訳し、多くの物理の問題を解決していきました。
 これが大きなきっかけとなり、変分法、剛体力学、流体力学、音響学、航海術、船舶の設計の分野でも大きな影響を与えます。
 更に、とても難解な式変形を必要とする月の運動理論に史上初めて計算可能な近似解を与えたのは、59歳で視力を失った後のオイラーでした。恐ろしく複雑な計算を全て暗算で行ったとされます。

 オイラーは年間平均800枚の論文を発表していたとされます。これは普通の数学者が一生かかる量です。彼はそれを50年以上も続けました。まさに”呼吸をする様に数学を吐き出した”のです。
 1907年から刊行が始まった「オイラー全集」ですが、既に70巻を越えるものの100年以上掛っても未だに完結してません。論文は刊行部だけで5万枚を越え、その膨大な業績故に、新たに発見された公式が実はオイラーの発見の再発見に過ぎないという珍事がしばしば起きてます。

 まさに、”誰も評価できない”し、”誰も全てを理解できない”オイラーの偉業です。生涯の5万枚以上に及ぶ論文を読んで理解するだけでも、それは常人も数学者にも不可能といえるかもですね。
 何だか後半は、オイラー物語の様になりましたが、最後は、”神戸の自習室”さんから一部抜粋でした。



2 コメント

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何時も興味深く読んでます (tokotokoto)
2018-02-03 05:18:03
ついつい興味が湧いて、いろんなサイトを調べてますが。結構色んな人たちが、このリーマンには熱を上げてるみたいです。
実際にリーマン値を計算したりとか、かなりのツワモノもいるみたいです。

このリーマン予想には様々な数学者が登場しますが、みんな現代数学においては欠かせない偉人ばかりですね。それにリーマンその2では、複素数の説明も面白かった。仮想通貨ではなく、仮想平面。

何か、こういった複素解析というか、微積分を使った解析で株価とかが読めれば面白いのに。コールガール同様に興味シンシンです。
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Re:何時も興味深く読んでます (lemonwater2017)
2018-02-03 09:27:47
 実は、私もリーマン予想というのは殆ど知りませんでした。素数の並びがある直線上にあるという事くらいしか。
 でも、実際に調べてみると、数多くの偉大な数学者たちが関わってる事に、驚きです。謎は深い程好奇心を知性を呼び覚ますんですね。
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