象が転んだ

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ピタゴラ数の神秘と古代バビロニア人の驚異(補足)〜フェルマーの最終決着”番外編”

2021年07月20日 06時17分34秒 | 数学のお話

 今から4000年も前の古代人が、我ら21世紀の現代人よりもずっと高度に発達した知能を持っていたとしたら?
 映画「猿の惑星」(1968)は、猿が支配する2063年の地球を描いたSFパニック大作だ。
 かつて人類が遺した遺品や文書が次々と発見され、ずっと昔の過去に人類が高度に発達した文明を誇ってたという事実に、猿が混乱する様をユニークにかつリアルに描く。
 映画では、人類は知能も低く、文明や言葉を持たない野蛮な下等動物として描かれている。しかし、支配下層である猿も言葉が喋れるだけで、文明は勿論、文化と呼べるものは殆どない。

 これは映画だから笑って済ませるが、これと同じ様な発見が、ある数学者によってもたらされた。
 オットー・エドゥアルト・ノイゲバウアー(1899-1990)は、古代バビロニアの粘土板の研究を通し、古代バビロニア人たちが従来認識されてきたよりも、ずっと多くの数理的知識や天文学的知識を持っていた事を明らかにした。
 1951年にノイゲバウアーは、古代バビロニア人が遺した粘土板(Plimpton322=写真)に記された楔形文字を解読し、ピュタゴラス数の表である事を指摘する。但し、古代エジプトでもピタゴラス数の記述があるが、定理を発見してたかまでは異論もある。
 ”x²+y²=z²”という「三平方の定理」で知られるピタゴラスの定理は、ピタゴラス(紀元前582-同496)が発見されたものとされてきた。  
 ピタゴラスは、”直角二等辺三角形のタイルが敷き詰められた床を見て、この定理を思いついた”などの逸話があるが、ピタゴラスが発見したかどうか正確には判っていない。
 以下、「整数論の源流」と「フェルマーの大定理が解けた」を参考です。


ピタゴラ数の謎とディオファントス

 一方で、ピタゴラス数を求める問題は、フェルマーが自身の最終定理(予想)を書き記したとされる、3世紀頃に書かれたディオファントスの「算術」にも紹介されてはいない。しかし、完全な公式を導く事は可能である。

 因みに、ディオファントスの「算術」とは200題代弱の問題と解答からなり、現在では”不定方程式論”と呼ぶ数論の一分野に属する。
 彼は、”x²+y²=a²又はx²+y²=a(但し、a有理数)の有理数解x,yを求めよ”とし、幾何学的解法でそれらの有理数解を求めた。
 まず、x²+y²=a²ー①の円を描き、円上の点P(0,a)を通る直線はy=tx+aー②より、①と②のPでない交点Q(x,y)はx=−2at/(1+t²),y=a(1−t²)/(1+t²)と書ける。
 ここで、x=−2at/(1+t²)とy=a(1−t²)/(1+t²)が共に有理数と仮定すると、後者からt²=(a−y)/(a+y)も有理数である筈だ(∵有理数の四則演算の結果は有理数)。故に、前者からt=−(1+t²)x/2aも有理数である。
 ここで、tが有理数ならx,yも有理数である事は明白で、以上より円①上の有理点が全て決まる。事実、ディオファントスはa=4,t=−1/2の時の答えを与えている。
 次に、x²+y²=aの円の場合は、簡単な考察からP(2,3)という有理点を用意し、x²+y²=13の円上にあるとする。P(2,3)を通る直線はy=t(x−2)+3となるから、後は上と同様に確かめる事が出来る。

 以上の様に、ディオファントスの不定方程式論は、自然数解ではなく有理数解のみを扱った「算術」である。故に、整数論はピタゴラス派、有理数論はディオファントスによって創始されたとも言える。
 このディオファントスの方程式が後のフェルマーに大きな影響を及ぼしたのは確かである。 
 「その2」でも少し紹介しましたが、ピタゴラス数とは、x²+y²=z²を満たす(互いに素な)自然数解x,y,zであり、(3,4,5)や(5,12,13)や(8,15,17)など無数に存在する。しかも、それらを定める一定の法則がある。
 それは、(x,y,z)=(d(m²−n²),2dmn,d(m²+n²))と書ける。d,m,nは自然数で、(d,m,n)=(1,2,1)とすれば、(x,y,z)=(3,4,5)と、(d,m,n)=(1,4,1)とすれば、(x,y,z)=(8,15,17)となる。


古代バビロニア人の高度な知能

 このピタゴラス数を求める問題は、紀元後3世紀のディオファントスでも、ギリシャ時代のプラトンでもユークリッドでもなく、紀元前6世紀に生きたピタゴラスよりも遥か昔に知られてたのである。誰がピタゴラス数を発見したのかは判らないが、少なくとも紀元前16〜19世紀の頃には古代バビロニアで知られてた事が今では判っている(勿論、これに対しては異論もある)。
 今から4000年も前の人類が、何の目的でこんな驚異の公式を発見したのかは明らかではない。
 しかし、古代バビロニア人がこうした(当時としては)高度な整数論に興味を持ってたとも言い切れない理由が、前述のノイゲバウアーが粘土板(Plimpton322)解読したピタゴラス数の配列の仕方から解るという。
 つまり、バビロニア人が発見したこの配列方法(底辺の大きさの順に並ぶ)を知れば、幾何学における”ピタゴラスの定理”などはそれよりずっと前に知られてた事になるから、驚き以外何ものでもない。

 つまり、数学というのは現代人だけでなく、4000年も前の古代人の驚異の知能によって支えられてきたのである。
 多分、ディオファントスはこうした結果をわきまえてて、基礎知識として「算術」活用したのだろう。
 こうした古代バビロニア人の発見は、古代オリンピックなんかよりもずっとずっと偉大で脅威な歴史であり、数学史における20世紀最大の発見でもある。


最後に〜無能の民にこれが解けるか?

 ここまで真面目に読まれた読者様(多分いない)に、1つ宿題を与えるとしよう。
 かのピタゴラスやプラトンでさえも完璧には成し遂げられなかった”ピタゴラス数”の決定法ですが。
 おめでたくも、知らなかった人には4000年も前の古代人と知恵を競うあうのも「猿の惑星」っぽくて、オツなものであろうか。

 以下、簡単にやり方を紹介しますが、とはいっても現代人には簡単じゃない。
 そこで少しヒントを与えます。
 x²+y²=z²の整数解x,y,zを求める事は、ディオファントスがかつてそうした様に、x²+y²=1の有理点を求めると同値である事に気づけば、上でやった様なやり方で簡単に解けます。
 しかし、それでも難しいという人には、もっと初等的なやり方を紹介する。
 x,yは互いに素(1以外の公約数を持たない)だから、x,yの何れか一方を偶数に出来る。
 これは背理法による証明が本当は必要で、最後で紹介する事にして、先へと進みます。
 そこで、yを偶数とし、y=2Yをx²+y²=z²に代入し、Y²=((z+x)/2)((z−x)/2)と変形。この積が平方数で互いに素なら、各々も平方数である。
 つまり、(z+x)/2=m²,(z−x)/2=n²となり、x=m²−n²,y=2mn,z=m²+n²を得る。
 ここでdをx,yの最大公約数とすれば、4000年前の古代バビロニア人が発見した(であろう)ピタゴラ数の公式”(x,y,z)=(d(m²−n²),2dmn,d(m²+n²))”となる。

 答えを知ってしまえば、ナンテ事ないのですが。これを「猿の惑星」のゴリラが解いてたとしたら、人間としては鬱になりますよね。
 でも数学の世界では、先人が現代人よりも遥かに高度な数学力を持つ事はよくある事で、文明という点では、現代人の方が上なんでしょうが、純粋に知能という点では、先人の方がずっと勝ってますかね。
 菅老人や小池婆らのアホズラを古代バビロニア人が見たら、ここは「無能の惑星」かって卒倒するでしょうか。
 そう思うのは私だけだろうか?


追記〜数学が苦手な方へ 

 寄せられたコメントに、”互いに素とか公約数が1とかよく分からん”とありました。
 これは、互いを1以外の数で割り切れないし、各々の公約数が1だけという意味です。でも互いに素でも、共に偶数はあり得ないし、3と5みたいに共に奇数の時がある。
 故に、どちらかが偶数(奇数)になるという証明が必要で、これが少し特異というか数学的で、これには背理法を使います。

 x²+y²=z²にてx,y,zは整数ですから、xとy共に奇数と仮定すると、x²もy²も奇数となり、z²は偶数となる。また、zは整数よりzも偶数となる。同じ偶数でもz²=6ならz=√6=√2√3となり、整数にはなりえませんから。
 そこで、z=2k,x=2l−1,y=2m−1とおいてx²+y²=z²に代入して計算すれば、4k²=(2l−1)²+(2m−1)²=4(l²−l+m²−m)+2となる。しかし、左辺は4で割り切れ、右辺は4で割り切れない。

 よって仮定は矛盾するから、xとyが共に奇数はありえないし、故にどちらかが偶数となる(証明終)。

 この様に数学には、独特のトリックが散らべられてます。要はこのトリックを見抜けるか?否か?それに掛かってるんですね。
 難しいというより如何に仕掛けを見破るか?数学が苦手な人はバカ正直に取り組む所があるんです。

 推理小説のように何処かにトリックが存在する筈だから、そのトリックを見抜くが如く取り組めば、少しは数学アレルギーも吹っ切れるでしょうか?
 勿論、数学という学問は神の領域を遥かに超えたとても難解な学問です。でも古代バビロニア人は元々、そういうのに長けてたんでしょうか。
 以上、補足でした。


6 コメント

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人間やめま〜す (hitman)
2021-07-20 08:47:27
解ける解けないというよりも
互いに素とか公約数とかでアウトぉ〜
4000年前の人間が
こんな難しいのを計算してたとは
最低でもこういうのは理解してたでしょうが

なんだか人間をや〜めたくなるような発見で
アグネスチョウじゃないけど
やっぱり喜べませーんとなりそ
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人の深層心理と似てる (Little harbor)
2021-07-20 09:35:21
そう言えば、若き日に数学で出てきましたね
ややこしいけど、嫌いではなかった数学
答えを解くカギがあるからですね
人は素晴らしい生き物だけど
人生を解く方程式が見つけられない
人生を彷徨う旅人みたいです
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hitmanさん (象が転んだ)
2021-07-20 17:37:39
よく覚えてましたね。
”互いに素”とか喜べませーん。
難しく考えんでいいですよ。互いを1以外の数で割り切れんし、各々の公約数が1だけとはそういう事です。
でも互いに素とても、共に偶数はありえないが、3と5みたいに共に奇数の時がありますね。
故に、どちらかが偶数(奇数)になるという証明が必要で、これが少し特異というか数学的なんですね。これには背理法を使います。

x²+y²=z²にてx,y,zは整数ですから、xとy共に奇数と仮定すると、x²もy²も奇数となりz²は偶数となります。そこでzは整数よりzも偶数となります。同じ偶数でもz²=6ならz=√6となり整数にはなりえませんね。
そこでz=2k,x=2l−1,y=2m−1として計算すれば、2k=(2l−1)²+(2m−1)²=4(l²−l+m²−m)+2となる。しかし、左辺は4で割り切れ、右辺は4で割り切れない。よって矛盾するから、xとyが共に奇数はありえないし、故にどちらかが偶数となる。
この様に数学には独特のトリックが散らべられてます。要はこのトリックを見抜けるか?否か?それだけに掛かってるんですね。
難しいというより如何に仕掛けを見破るか?
古代バビロニア人はこういうのに長けてたんでしょうね。
早速補足しときます。
返信する
Little harborさんへ (象が転んだ)
2021-07-20 17:42:52
人生を解く方程式が求め、彷徨える旅人とも言えますね。
数学も素晴らしい学問ですが、上のコメントでも述べたように、特異で様々なトリックを使うんですね。
そういう私も一度はアレルギー的なまでに厭になりましたが、今ではこの奇怪なトリックに魅了されてばかりです。
コメント有り難うです。
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プリンプトン322の謎 (腹打て)
2021-07-21 06:08:33
<(古代バビロニア人は)角度や円ではなく、短辺と長辺の長さの比率に基づいた新しい種類の三角法を使用し、直角三角形の形状を説明した>
とオースラトリア人数学者のマンスフィールド氏は2017年に述べている。
これは少なくとも、3700年以上前に古代バビロニア人が三角法を研究した証拠を示したものだろう。

ロブソンの異論は有名だが、過去のこうした粘土板解読の例からプリンプトン322も<書記見習い程度のテスト宿題>程度のものだと判断されていた。
しかし解読が進み、古代バビロニア人が素因数分解と60進表記の両方を使いこなしてた事も知られている。特に、既約ピタゴラス三角形の辺長の積が必ず60の倍数になるとの事実からすれば、古代バビロニア人の大発見は単なる偶然ではない。

プリンプトン322に記された三角数のうち、短辺と長辺の比が最大の三角数は 56対90。これは原始ピタゴラス数の{45,28,53}になる。更に既約ピタゴラス三角形で表すと{2,7}。
実際に、短辺と長辺の比が1.6と黄金比の近似になり、長辺の長さが調和数になる{m,n}の組合せは、m<n<10000の範囲では{2,7}しかない。
つまり古代バビロニア人は自ら発見した数字の偉大さに、神の存在を感じたのではないか。

以上は、BlackLogさんのコラムを参考にしたが、満更でもないのかな。「数学史の5千年」の中にも、古代バビロニア数学研究者・室井和男氏の完全解読が書かれてるけど
これが果たして偶然か?必然か?神のみが知ることになるだろうね。
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腹打てサン (象が転んだ)
2021-07-21 12:30:05
色々と調べて下さってとても感謝です。
古代バビロニア人の原始素数列の発見は噂には聞いてましたが。これほどまでの精度で三角法を計算してたとは・・・
これが事実だとしたら、地球の歴史はひっくり返りますね。

色んな遺跡が発見され、解読がもっと進めば、数学の歴史も根本から塗り替えられるかもですが、神のみぞ知る領域に既に古代バビロニア人は達してたということでしょうか。
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