「ナイル殺人事件」(2022年)をアマプラで見たが、期待がそこそこ大きかった分、大ハズレに終わる。結果として、劇場で見なくて正解だった。
酷評する気にもなれない程の凡作だが、原作であるアガサ・クリスティーの小説も、私には平凡なミステリーにしか映らないので、こういう作品になる事は想定外でもなかった。しかし、それにしても酷過ぎた。
主演で監督のケネス・プレナーを含め、貧相なキャスト陣も、前回の「オリエント急行殺人事件」程には凡庸すぎたし、緊張感のなさとスタッフの失意が画面一杯に広がってくる。
最近は、北欧サスペンスも平坦化し、かと言って日本映画はその殆どがTVドラマのレベルに近い。コロナ渦が開けたというのに、正直劇場で見たいと思う映画が殆ど見当たらない。中国映画も多額な予算の割には雑すぎて見る気が失せてしまう。
そうなると、残るは韓国映画となる。
正直、昨今の韓国映画は、少なく見積もってもハズレがない。
「ハード・ヒット〜発信制限」(2022年)は、「ナイル・・・」を見た後だったから、余計に秀逸した作品に思えた。
“クルマから降りれば、座席の下に仕掛けた爆弾が爆発する”と謎の脅迫電話を受けた銀行支店長であるソンギュの運命は・・・
タイトル同様に、展開はとてもシンプルで、登場人物も少ないし、複雑な謎解きもない。かと言って、ロケ地である釜山を背景にしたカーチェイスは、アクションスリラーとして見ても非常に見応えがある。それに、街並みが透く程に美しく、それだけでも酔う事が出来る。
「ナイル・・」とは大違いで、俳優陣は皆、実力派ばかりで、最初から最後まで緊張が緩む事はなかった。
一方で、主演で銀行支店長役のチョ・ウジンが橋下徹ソックリ(写真左)で、笑いをこらえるのに苦労するが、娘役のイ・ジェインと顔が似てるのも実に微笑ましい。
”この様な美しい街で恐ろしい事件が起こるのは、とても面白いアイデアだ。都会のど真ん中で爆弾を載せた車を如何に表現するかにフォーカスした”と語るキム・チャンジャ監督だが、撮影許可を取る為に密集した店や建物の所有者や住人たち一軒一軒尋ねて説得したという。
サブタイトルの”発信制限”とは、発信番号表示制限電話(非通知電話)の事である。
何気なく受け取った一本の非通知電話が(将来を約束された筈の)支店長の人生を大きく狂わす。タチの悪いイタズラだと電話を切ろうとするが、目の前で同僚の車が大爆発を起こす。警察に助けを求める事も、車を降りる事も許されない絶体絶命の状況の中、男の日常は制御不能の悪夢へと塗り替えられてゆく・・・
日常のあらゆる所に潜む非凡な恐怖を、美しい都会を背景に見事なまでに練り込んだ「ハード・ヒット」にアッパレである。
追記〜「完璧な犯罪者」(2017年)
更に、もう1本・・・
この映画はハンガリー発のサスペンスだが、曖昧な作品の出来や自虐的で不可解な展開はともかく、キャスト陣が凄い。特に娼婦ペトラ役の女優には思わず埋没してしまった。
愛娘ファニを失った殺人課刑事のカメナールだが、何と娘の友人のペトラはカメナールを客としていた。やがて妻にも捨てられ、アル中に陥り、心身ズタズタになりながらも娘の復讐を誓う。が、捜査を進める内に小児性愛が絡んだ人身売買の線が浮かんできた・・・と、ここまではユニークな展開だ。
娘の殺害に娼婦のペトラが絡んでると信じて疑わないカメナールだが、彼女を自宅に監禁するも誘惑に負け、肉体関係を結ぶ。その一方で、彼女の裏に潜む売春組織を追い詰める。
しかし、娘の死因は単なる薬物中毒による自殺で、元はと言えば児童売春に手を染めていたカメナールに責任がある。
益々混乱するカメナールだが、最後は中途な愛人関係になり、容疑者ペトラをパリに逃し、ヘンテコな形で幕を閉じてしまった。
見てる側からすれば、ペトラの美貌に只々惹き込まれ、展開なんて最初から最後までどうでもよくなってしまう。むしろ、こんな美人がいたら”性犯罪がなくなる筈もない”と思わせる作風でもある。
そういう意味では、こうした自虐的展開もありかなと思わせてくれる。つまり、映画とは観客に(いい意味でも悪い意味でも)幻想を抱かせる娯楽であり、媚薬なのだろう。
少なくとも、「ナイル・」みたいな見る気がすぐに失せる様な作品だけはゴメンである。
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